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頑張る彰斗×はしゃぐ悟

 暫くして彰斗君への指示書が届き、採血をする事になった。小さな新生児の採血は大人の採血のように腕からスピッツに採るのではなく足の裏から数滴採って検査をする。採血の準備をして彰斗君のところに向かう。起きていた彰斗君と目が合う。


「彰ちゃん、起きてたんだね。おはよう。ちょっとチックンさせてね」


 ご機嫌が良いのか、手足を動かして一生懸命何かを表現しているのか笑顔を見せてくれている。採血の準備を進めていく。


「どっちの足が良いかな」


 と、言いながら得意な右足の踵を消毒して採血の準備をする。


「チックン、するよ〜。ちょっとだけ痛いよ。すぐ終わるからね…………はい、おしまい。彰ちゃん頑張ったね」


 抜針してしばらく止血の為圧をかけて踵を抑える。いつもなら彰斗君は、眉間に皺を寄せて私を睨むような表情をしていたのに今日は、睨まれるようなことはなく笑顔さえ見えるくらいだった。頑張ってくれた検体を検査に出す。それから急変もなく平穏な時間が流れる。


「センター長からの差し入れよ」


 そう言って、大きな手提げを持ってナースステーションに入ってきた依元看護師長。


「ありがとうございま〜す」


 一斉に看護師長の持つ手提げ袋に注目が集まる。看護師長が奥の休憩室に差し入れを置きに行く。それを見ていた弥生先輩が。


「よりちゃん、食べるね」


「いつものことだから珍しいことじゃないでしょ」  


 色々と言われている依元師長だけど、この病棟で愛されている看護師長でもある。


「師長ぉ、今日のおやつはなんですかぁ〜」


 ウチの病棟の男性看護師である後輩の笹井ささいさとるが、目をキラキラさせて師長に尻尾を振っているこの光景もいつも事で誰も突っ込みを入れない。


「今日はねぇ、◯◯のフィナンシェよ」


「うわぁ、あの有名なところのフィナンシェだぁ。僕、お取り置きしても良いですかぁ」


「私、もう付箋に名前書いて貼ってきちゃった」


 このふたりの光景もまた、通常運転で見慣れた景色のため、誰も何も言わない。師長が真っ先に差し入れのお取り置きをするのもウチの病棟くらいであろうと思うけど、私が配属される前からそうだったのか、相変わらずな依元看護師長と悟のやり取りに平和な病棟だなぁと思うのだった。


「陽菜ちゃんもお名前書いて付箋しておいてあげるからねぇ」


 依元看護師長の楽しそうな声が響いた。


「ありがとうございます」


「師長ぉ〜、私のもお願いします」


 隣で弥生先輩が看護師長に声をかけている。


「あら? あなたダイエット中とか言ってなかったかしら?」


「明日からにしま〜す」


「弥生先輩、3日前も同じこと言ってませんでした?」


「悟!」


「あっ、人違いでした!」


「そうよね、悟」

 

「はい、もちろんです!」


 弥生先輩と悟の会話も、いつものことで、学生時代の土曜の午後くらい平穏だと思わせてくれる。


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