陽菜×苦情
「あっちの人の方が優遇されてない?」
面会に来たご家族の方で、たまに言われる質問という名の苦情。
「そんなことないですよ」
とりあえずその場を離れ先輩看護師に報告をする。
「面会あるあるだよね。たまたま担当医がいて話してるだけで、家にはないのにあの子だけとか。入院長いと比べちゃう人がたまにいるんだよね。また言ってくるようなら師長に対応してもらって」
「はい。そうします。真智先輩ありがとうございました」
担当してる子の見回りに行こうかなと思い、看護記録を持ち保育器に向かう。
「ちょっと矢崎さん」
また声をかけられた。
「はい。どうされました?」
「この子は先生の診察はしてないの?」
「いいえ、ここにいる子たち全員朝、ドクターの回診受けてますよ。実希ちゃんも担当の鴻上先生に診察してもらって、ミルクの量が少し増えたんですよ」
「お隣の人は、なんで今、特別に診察してもらってるの?」
「今朝、少し容体が安定してなかったのでドクター回診が多いかも知れないですけど、ちゃんとここにいる子達、全員きちんと看護してますからご安心ください」
「昨日は、反対隣りの子が先生に診察してもらってたし。何か贔屓でもあるの?」
「ないですよ」
「信用できないなぁ。もっと上の人から直接聞きたいわね」
「わかりました。看護師長を呼んできますのでお待ちください」
決まって言われる言葉 “上の人を呼んでこい” ここは依元看護師長に対応してもらおう。
「依元師長、先程は対応ありがとうございました」
「あっ、陽菜ちゃん。こういう時のための上司なんだから気にしなくて良いわよ。看護師なら一度や二度こういう経験してるわよ。大きい声じゃ言えないけど、モンスター……なんちゃら。ふふっ」
きっと、どこにでもいるんだろうなぁ。と思いつつ、師長に感謝して業務に戻る。