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陽菜×正式名称

 珍しく朝からメッセージが届いていた。開くと高校時代からの友人で石蔵いしくら美奈江みなえだった。


『陽菜、ご飯行こう。可愛いお店見つけたんだぁ』


 相変わらずだなぁ。まず相手の都合を考えようよ。もう大人なんだからさぁ。と思いながら美奈江に返信を入れておく。すると、5分も立たないうちにメッセージ受信の音が鳴った。


 はやっ。暇なのかっ! 思わずツッコミを入れながらもメッセージを開く。


『陽菜に任せる。いつでも良いよ』


 こういう時って絶対に話したいこととかあるんだろうなぁ、と思い早めに会うことにした。美奈江が私の日勤の終わりに病院まで来るというのでそうしてもらうことにした。



「陽菜! ここぉ〜」


 職員通用口を出て待ち合わせの場所に向かう私を見つけた美奈江が、手を振りながら私を呼ぶ。


「ごめんね。待った?」


「私が誘ったんだし気にしないで。それより早く行こう。絶対に陽菜気にいると思うよ」


「うん。楽しみ」


 美奈江のお勧めのお店まで、近況などを話しながら向かった。


「ここだよ。入ろう」


 そう言って、お店の扉を開けて入っていく美奈江の背中を追いかける。どの席も他のお客の事を気にかけず食事やお喋りができるようになっていた。


「周りを気にしないで居られるのは良いね」


 私が美奈江に伝えると。


「でしょでしょ。遠慮なく食べて喋ろう!」


 メニュー表を見ながらふたりで料理を選び注文を済ませ、早速お喋りタイムが始まる。その時、ふと美奈江の首元に内出血の跡が見えた。


「美奈江、首元に内出血の跡が見えてるよ」


「これでも薄くなった方なんだよ。もうさぁ、吸血鬼みたいに吸い付かれたもん。なかなか消えないんだよ。可愛い服着れないっつーの。あのバカ智哉」


 美奈江の説明で、そういう事ねと納得する。


「ここまで派手にキスマーク付けなくて良くない?」


 そんな事を私に言われても正直どうでも良いけど、スルーするとうるさいから適当に返事をしておく。


「吸引性皮下出血なんだから数週間もあれば消えるから心配ないよ。でもさぁ、彼氏のことだから消える前にまた新しい吸引性皮下出血を作るだろうけどね」


「えっ? コレってそんな難しい名前があるの? ただのキスマークでしょ!? ってか、陽菜面白がってない?」


「別に」


「これって早く消す方法ってあるの?」


「素直に彼氏に、つけないで。って言ったらどう?」


「そんな事言えないよ。雰囲気壊しちゃうもん」


 なら、私に聞かないでよ! ってかわざと見せてるのかとさえ思う。


「吸引性皮下出血ができた直後は、アイスパック等を数分間肌に当てて冷やすことで、腫れや赤みを軽減することができるよ。冷却によって血管を引き締め、内出血を抑えるから」


「いやいや、陽菜はお子ちゃまなの? 吸引性なんちゃら……いやめんどくさいなぁ、キスマークできた時って、そういう時じゃん。そんな時にできないでしょう。冷却なんて」


 知らんわ! と言いたいところをグッと我慢して。


「吸引性皮下出血ができて数日経ってからは、内出血個所とその周辺を温めると血行を促進し内出血を解消するよ。温かさは血管を広げ、循環を改善するから。嘘のように内出血が無くなりはしないけど」


「陽菜、今は仕事じゃないよ」


「ウチの病棟の子たちは吸引性皮下出血なんてしないもん。採血なんかでは皮下出血するけど。まぁ、あとはビタミンCやビタミンK、鉄分を含む栄養豊富な食事を摂ることで、体内の内出血を早く治癒する手助けしてくれるから。即効性はないけど」


「陽菜、ちょいちょい上げて下げてるよ」


「気にしないで。美奈江へのアドバイス程度だから。どうせしないでしょ。めんどくさがりだもん美奈江」


「ふふっ、バレてる。まぁ付き合い長いもんねウチら」


 そんな話をしていたら料理が運ばれてきた。食べながらも話に花を咲かせる。


「陽菜、真剣な話。恋愛しないの?」


「しないのって。相手がいないとできないでしょう。ひとりでできるものじゃないんだから」


「周りをよく見てごらんよ。医者、技師、看護師。たくさん居るじゃん。よりどりみどりの状態なのに、何してるの! 陽菜」


 なんで美奈江に怒られてるの? おかしくない? しかも私が恋愛しないとかで怒られてるのって。美奈江はラブラブしてるんだから良くない? それで!


「そんな事で怒られるならもう帰るよ」


「えぇ〜、陽菜そんなこと言わないでよ。陽菜ちゃん可愛いよ」


「嘘はいらないから。それより何か話あるんでしょ? わざわざ日勤の後に待ってるなんて」


「わっ陽菜、超能力あるの?」


「ないよ!」


 昔から美奈江は、わかりやすい。


「それで? なに?」


「そう改まって何って言われるとさぁ」


「じゃあ、良いんだね」


「私のことじゃないんだけど、智哉がさぁ」


 そう言って、彼の事を話しはじめた。ふたりの性事情の話を赤裸々に話してくる美奈江。どこに行っても私が医療従事者ということは変わりないらしい。ほぼほぼこんな自分の体の不調を話される。私は医者ではないのだけどと思う。


「本人説得して泌尿器科受診するしかないと思うよ。ストレスや不安を取り除いて自然治癒目指すのなら別だけど」


「やっぱ病院行くしかないんだね。陽菜なら何か知ってるかと思ったんだけど」


「ねぇ、美奈江。私さぁNICUナースなんだよ。泌尿器科ナースでもないし、ましてや男性性器の事なんて詳しいわけないでしょ!」


「ごめん。でも看護師って言うだけで頼りたくなるんだよ。話聞いてもらって納得したっていうか落ち着いたっていうか。よくわかんないけど感謝してる」


「はぁ……うん。わかったから。彼氏とよく話し合いな」


「うん。陽菜に聞いてもらって良かった。ありがとう」


 美奈江がご馳走してくれると言って伝票を離さないので、今回は素直にご馳走になることにした。ふたりで納得のいく解決をして欲しいと願うばかりだ。



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