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陽菜×卒業

 今日は担当していた双生児のふたりがこの病棟を卒業してお家に帰る。


「陽菜先輩、遂にツインズ君達がお家に帰れますね」


「うん。だからお迎えに来る前にお着替えさせてかっこよくしておいてあげようかな」


 お母さんから退院時の服を預かっている。お兄ちゃんの方が水色の服。弟君が黄緑の服だったよね。確認して間違えない様にしないとなぁ。


「お兄ちゃんからお着替えしましょうねぇ」


 水色の退院用に準備された服に着替えさせると、笑ってくれている様にも見える。もうひとつの服を取り出して弟君のコットに向かう。


「お待たせ。お着替えしようね」


 話しかけながら着替えを進める。手足をバタバタさせて元気をアピールしているのか、双子でも性格はこんな小さい頃からでも違うようだ。


 卒業予定の時間より少し前にお母さんが、双子用のベビーカーを押しながら嬉しそうな雰囲気で最後のNICUに足を踏み入れる。  


「こんにちは」


「こんにちは。主治医の鴻上先生の退院診察も終わってます。退院後の検診などは小児科受診をしてくださいね」


 そんな話をしていると、NICU病棟担当の事務員が会計の書類を渡し、そのまま説明を始めたので、私は一旦その場を離れ、今までの成長を、写真や看護師のコメントなどと共に綴ってある【Memorial】と表紙に書かれた記念のアルバムを取りにナースステーションへ戻った。


 会計に行ったお母さんが戻るのを待ってる間に、双子君それぞれに担当看護師としてできる最後の事をする。


「大きくなったね。これからもスクスク元気に育ってね」


 そう言いながら小さな手に人差し指を持っていくとキュッと握りしめてくれた。双子ちゃんなので、もうひとりも同じ様にする。しばらくするとお母さんが会計から戻って来た。


 私からお母さんに【Memorial】を2冊渡すと、中を見てびっくりした様子で嬉しそうにお礼を伝えてくれた。そしてお母さんの希望で写真を撮る事になり、双子ちゃんはお世話になった私達医療スタッフに抱っこして欲しいとのご希望で、私がお兄ちゃんの方を抱っこして、弟君は悟が抱っこして、病棟にいるみんなで写真を撮った。


「本当にありがとうございました」


 お母さんはお礼を言い、双子君をベビーカーに乗せて少し話し込んでたら、何故か双子君達のご機嫌が悪い。別に泣いてるわけではないけど不機嫌そうでモゾモゾしている。


「お家へ帰れるよ。2人とも仲良く大きくなるんだよ」


 声をかけるけど相変わらず不機嫌な様子。その時にふと思い当たる事が。


「お母さん、2人の座らせる場所、反対にしてみませんか?」


「えっ?」


「いつも2人を寝かせてるベッドが、お兄ちゃんが右側、弟君が左側だったので」


 お母さんが弟君を抱き上げたので、私がお兄ちゃんを抱き上げて右側へ寝かせる。そしてお母さんが空いた左側へ弟君を寝かせた。ふたりの様子を見ると、先ほどまでの不機嫌さはなくなり、大人しくしている。


「うわっ、ほんとだ。いつもの定位置になったら大人しくなった。さすが陽菜先輩っすね」


 悟は素っ頓狂な言葉を発していたが、双子あるあるなのか、私達がつけてしまった癖なのかは、当人達に聞くほかないのだが、いかんせん話せる訳もなく。きっとこれからも兄が右、弟が左は、双子の中でのお決まり事項になっていくことだろう。


 こうやってNICUを卒業していく子を見送ると、担当看護師として、ちゃんとやり遂げたなぁと思える。そして、この子たちと一緒に、私も看護師として成長していくのだろうと、これからも頑張って行くことを胸に刻んだ瞬間であった。



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