陽菜×指導
今回のお話はNICUで起こる悲しいですが出生後亡くなってしまう子のお話が途中出てきます。苦手な方は、次回からのお話を楽しんで頂けると幸いです。 〜菜須よつ葉〜
先日、真智先輩に言われていた悟の誕生処置介助を指導する日となった。
坂下さんの分娩予定時間まで後30分ほどとなり、藤堂先生がナースステーションにやってきた。
「笹井君、陽菜ちゃん。ちょっといい?」
「はい」
ふたりで藤堂先生の元へ急ぐ。
「産科の先生と最終診察をしてきたんだけど、胎児はおおよそ1300gで心臓は事前検査で診断されている通り疾患はかなり進んでいると思われる。臍帯を切った後、呼吸確保しながらいつも通りの手順でいくけど、亡くなってしまう事態も否定できない。最善を尽くしましょう」
「悟? 私もちゃんと補助に入るから悟は今までと変わりなく藤堂先生の処置を見ながら必要なことをフォローしたらいいから。できるよね?」
「はい」
産科医から胎児を受け渡され、新生児科医に繋ぎ処置フォローするのは既に経験していて慣れているけど、あらかじめ生きられるのか厳しいと言われている胎児の誕生処置を、悟が担当するのは初めてだから緊張しているのかも知れない。私も初めて担当した時は真智先輩に付き添ってもらって処置したのを思い出す。みんなに支えられて今でも看護師としていられる。だから悟もきっと、頑張れるはず。後からフォローはしっかりとしてあげなくては。と内心思っていた。
時間になり悟と分娩室へ向かう。生まれるまで私達の出番はないので藤堂先生と悟と分娩室の隅で待機する。
「もうすぐ出るよ」
産科医の声に、一気に緊張感が高まる。悟が受け渡しの準備に入り、藤堂先生は処置の準備を始める。産科医が。
「はい、出生」
そう声をかけながら、胎児を悟に託す。産科医から受け取りすぐに藤堂先生が処置に取り掛かる。悟も懸命に藤堂先生のフォローに入る。処置の邪魔にならない様に体温を下げないように身体の羊水を拭き取る。出産前に診断していたよりもかなり厳しい状態だった。処置をしていた藤堂先生が。
「心肺の機能が上がってこない。これ以上の回復は見込めない。ご家族に説明してくるから笹井君アンビューで呼吸補助しておいてもらえるかな。陽菜ちゃん、この場を任せていいかな」
「もちろんです」
「うん、頼んだよ」
そう言って分娩室を出て家族が待つ待機室に行く藤堂先生。見送ってすぐ悟と新生児を看る。悟は落ち着いてアンビューで呼吸補助をしてあげている。きっとお父さんを連れて来ると予想される。しばらくすると藤堂先生は、やはり新生児のお父さんを連れて入ってきた。
「どうぞ、近くにきて声をかけてあげてください」
私はそう言い場所を空けた。こういう場合の看護師のあり方は、見習いの時に徹底指導してきたので看護師としての役目などは悟に一任している。どうしても困っていそうな時にはすぐにフォローしようと思い待機しているが、今は落ち着いているように見てとれる。
「抱っこできますか?」
お父さんが悟に話しかけた。
「椅子に座ってゆっくり抱っこしてあげてください」
そう言うと。
「最後に妻に抱っこさせてやりたいです。この子も母親に抱っこしてもらいたいと思いますので」
ご家族の希望なので、産科の方へ視線を向け確認する。帝王切開で出産しているためまだ処置中だった。悟がアンビューを担当していたので代わりに私が産科スタッフに確認に行く。処置中なので、私か悟が赤ちゃんを連れてきてお母さんに抱っこをしてもらうという事で許可が出た。処置が終わり次第お父さんも来てもらい家族で過ごしてもらう。という事で決まった。ご家族の希望できつい延命処置はしないと聞いていたので、藤堂先生の合図で悟はアンビューをやめて、新生児を抱っこしてお母さんの腕の中へ連れて行く。
そして、しばらくしてお母さんの処置が終わると、お父さんにも近くに行ってもらい、家族3人で過ごしてもらった。藤堂先生は、産科の医局で待機してもらっている。産科看護師と、私と悟は一旦分娩室から出て産科のナースステーションへ。そして、数十分後ナースコールが鳴らされる。産科看護師と悟と私で分娩室へ向かった。悟が新生児の状態を確認する。私へ視線を送り頷いたので、私は医局にいる藤堂先生を呼びに行く。
「藤堂先生、分娩室にお願いします」
「陽菜ちゃん、声かけありがとう。それじゃあ行こうか」
「はい」
藤堂先生に、分娩室での様子を話しながら向かっていた。そして、新生児の最後の診察をする。
「16時40分、死亡確認致しました」
藤堂先生の死亡確認が終わり、新生児を綺麗にしてあげるケアを施す。
初めての経験だった悟。さすが看護師。しっかりと落ち着いて自分のできる限りのことをしてあげていた。NICU病棟を担っていく看護師に育っていくのであろうなぁと逞しく思っている。
全てのことが終わると病棟に戻り、真智先輩に報告をした。報告後、真智先輩が悟をどこかに連れて行く。きっと、心のケアをしに行ったのであろう事は容易にわかった。
戻ってきたら笑顔で迎えてあげようと思う。今日の経験は次に活かして行こうね。
あたたかく見守ってあげられる先輩でいたいと思っている。




