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真智先輩×悟

 産科病棟とは違い、未熟児の看護が専門のNICU病棟。しかし、成長して退院間近の子は保育器から卒業してコットで寝ている。そういう子は清潔を保つため沐浴をする。


 担当表を確認する。今日の沐浴は悟君かぁ。それじゃあ、看護記録の整理でもしようかな。ナースステーションでは、悟君と真智先輩が何やら話し込んでいた。


「そろそろ茉子ちゃんの沐浴行ってきます」


 そう言いながら、コットで機嫌良くしている茉子ちゃんの元に向かっていく悟。そして茉子ちゃんに話しかける。


「茉子ちゃん、お風呂の準備してくるね。そしたらお風呂に入ろうね」


 茉子ちゃんに声をかけて、沐浴の準備を進める悟。


「陽菜」


 真智先輩に呼ばれる。


「はい」

 

「悟の指導担当、陽菜だよね?」


「はい。そうです」


 何やら嫌な予感しかしない。


「そろそろ悟に誕生処置介助をさせようと思ってるんだけど、陽菜も指導者として悟に付いて、一緒に分娩室に入って欲しいんだけど」


「来週の出産予定の坂下さんのですか?」


「そう。先天性の重度の心疾患で、臍帯切ったと同時に危篤もあり得るって言われてる新生児介助を任そうと思ってる」


「予想出生体重も1200gあるかないかって聞いてますけど」


「今日、出産についてと新生児について両親に説明が行われるから、NICUからは藤堂先生が主治医を務められるので、悟をメイン看護師、サポートで陽菜に入ってもらい。だから悟とカンファレンスに参加してもらいたいんだけど」


「わかりました」


「それじゃあ、よろしく」


 初めて付けた後輩の成長を後押ししますか。そんなことを思いながら悟を目で追うと、楽しそうに沐浴をさせている姿が目に入る。


「気持ちいいでちゅかぁ? 良いでちゅねぇ〜」


 楽しそうに沐浴をさせている。茉子ちゃんの表情も笑っているかの様に穏やかで見ている私が癒されるくらいである。そんな時、悟の大きな声が響いた。


「陽菜先輩! おしっこ!!」


 えっ? 何? ってか、私おしっこって何? ちゃんと説明して! そんな声を聞いて黙っている先輩達ではない。


「何? 陽菜ちゃん、おしっこ行きたいの?」


 いやいや、どう考えても違うよね? 悟めっ! 後から覚えておきなさいよ!


「悟、何? 悟トイレ行きたいの?」


「違う。茉子ちゃんおしっこしちゃったからお湯変えて欲しくて」


「悟、言葉を端折りすぎ! すぐに変えるから茉子ちゃん冷えないように包んでて」


 文句と指示を出しながら手は止めず一旦、栓を抜きお湯を流し、サッと流しを洗い新しいお湯を張って温度を確認する。


「はい、どうぞ」


「陽菜先輩、ありがとうございます。さぁ、茉子ちゃん、お風呂の続きしましょうねぇ」


 そう言いながら、沐浴の続きを始める悟。沐浴を終えて、水分補給をさせて茉子ちゃんを寝かせて看護記録をつけている悟。


 今日の病棟は平穏だなぁと思っていたところに、真智先輩の少し怒っている様な声が響いた。


「今日の沐浴担当誰?」


「はーい、僕です」


 悟が看護記録を書く手を止めて、右手を挙げて真智先輩に返事をしている。


「ここに来なさい」


 うわっ、悟何かやらかしたな。と思ったけど、もう私の手からは離れているのでひとりで対応してね。と思って遠くから見守る。


「悟、これ、どういうことかな?」


「うわっ、何ですかこれ?」


「排水溝をよく見なさい」


 排水溝を覗く悟が、何かに気づいた。


「あれ? ガーゼがある!」


 いやいや、悟さん、ガーゼがある! じゃないでしょう。真智先輩の方を見てごらんって。笑っていられないよ!


「ガーゼを流さないで。って書いてあるよね? 私が書いたんだもの。当然だけど、見てくれてるわよね? なのに何故? この状態を説明してくれるかな?」


 悟、やらかしたね。看護記録の前にシンク周りを綺麗にしなさいって前から言ってるよね? 真智先輩に見つかっちゃって、しっかり指導されて!


「すみませんでした」


 謝罪しながら排水溝に流れてしまって詰まっているガーゼを取り出そうと頑張る悟。


 取り出してみると排水溝に3枚のガーゼを流して詰まらせていた。


「悟、これ、読めないの?」


 真智先輩が『これ』と言ったのは、今回みたいな事がよく起こっていたので、注意喚起のために貼ったポスターのことである。


「読めます」


「そうよねぇ。なのに?」


「やらかしました」


「沐浴させて一通りのことが終わったら看護記録の前にシンクを元に戻す方が先でしょ。それにガーゼ詰まらせて放置は問題外だよ」


「以外、気をつけます」


「お願いします」


 真智先輩に注意を受け、シンクを掃除してしょんぼりしながら戻って看護記録の続きに取り掛かった悟。


 しばらく様子を見た後、看護記録が落ち着いた様子だったので、私は声をかけに行った。


「悟、ガーゼはこれから気をつけたらいいよ。茉子ちゃんスヤスヤ寝てるじゃん。悟の沐浴が気持ちよかったんだと思うよ」


「陽菜先輩!」


「なぁに?」


「陽菜先輩は陽菜先輩ですね!ありがとうございます」


 何? 悟の日本語は、たまに難しい時がある。なんだかんだ言って、手のかかる後輩だけど可愛い後輩だと思う。これからも私に笑いと癒しを届けてね。 悟、頑張れ!


 悟の背中につぶやいておいた。


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