陽菜×山下先生①
定例の心療内科の受診日
「陽菜ちゃん、久しぶりだね」
「山下先生、こんにちは。よろしくお願いします」
実習生の時からずっと主治医をしてくれている心療内科医の山下智樹先生。
「陽菜ちゃんもう主任さんだもんね。頑張ってきたね。最近はどうかな?」
「前回の受診から今日まで、特に何か心配事はなかったですよ。順調です」
「僕以外に主治医いるもんねぇ。陽菜ちゃん」
「ん? 心療内科は山下先生だけですよ」
山下先生、何か思い違いしてるんだろうか。あっ、誰かと間違えてるんだな。ふふっ、患者さん多く受け持ってると勘違いってあるんだね。プライド傷つけたらかわいそうだからそっとしておいてあげよう。
「そう言う意味じゃないんだけど。小悪魔ちゃんだなぁ。大雅も大変だなぁ。まぁ、そこが可愛いのか」
ん? 大ちゃんのこと? なんで? 頭の中で疑問符が飛び回る。
「山下先生、誰かと勘違いしてますか?」
「えっ? 陽菜ちゃんの事なんだけど」
「だって他に主治医とか小悪魔とか呟いてましたよ山下先生」
山下先生の受診は、はじめこそ前回からの今日までの問診したりするが途中から雑談をしたりして私の現状を診てくれていると理解している。
「陽菜ちゃん、個人的な質問しても良い?」
「ん? 応えられることなら大丈夫ですよ」
なに? 今日の山下先生グイグイ来るなぁ
「そんなに緊張しないでよぉ〜、ねぇねぇ陽菜ちゃん」
こわいこわい、なになに……
「なんでしょう?」
「陽菜ちゃん、今お付き合いしてる人っている?」
ほえっ? ほんとに個人的だなぁ。まさか山下先生が女子の井戸端会議的な話をするとは思ってもみなかった。 先生の意図と私の思っている事に違いがあるとは思わずに……
「はい。いますよ」
「おぉ、そうか。誰なのかなぁ?聞いても良い?」
これ、治療の一環なの? まぁ、良いけど。あっ、大ちゃんに聞いてない
「あのぉ、彼に話して良いのか許可もらってないから詳しくは……」
「僕、医師だよ。守秘義務は守るよ。陽菜ちゃんの状態を理解しておかないと」
「新生児科医の先生です」
「そうかぁ、仲のいい同期がいるなぁ僕」
「へっ? それは誰ですか?」
「藤堂大雅だよ」
「えぇ〜、大ちゃんと仲良いんですかぁ」
「なに、あいつ大ちゃんなんて呼ばれてんの!? 羨ましい。良いなぁ大雅のやつ。彼女が陽菜ちゃんだなんてさぁ」
「…………」
「あっ、ごめんごめん。そんなにドン引きしないでよぉ。今日大雅って出勤してたっけ」
「はい。今、ナースステーションにいましたから」
「ちょっと呼んでもいい?」
「へっ? どうして」
「うん。任せてもらえないかな?」
「わかりました。山下先生にお任せします」
「ありがとう。それじゃあ、ちょっと連絡してみるね」
そう言って山下先生が大ちゃんに連絡を入れていた。