陽菜×泌尿器科
桐島先生は、私の肩をポンポンと叩いて笑顔を残して医局へと歩いていった。私は、一度深呼吸をして気合を入れてナースステーションへと足を進めた。
「こんにちは。周産期医療センターNICU病棟の矢崎です」
とりあえず挨拶して真悠子先輩を探す。
「陽菜ちゃ〜ん、待ってたよ!いらっしゃい」
何やらテンションの高い真悠子先輩に出迎えられる。真悠子先輩が指導しているであろう若い看護師たちが私を見て笑顔で会釈して看護記録を書いているのか顔を隠して笑っているのかクスクス笑っているようにもみえる。絶対に、真悠子先輩のせいだよ。と心の中で文句を言う。
「ねぇねぇ陽菜ちゃん」
真悠子先輩が、こんな呼び方をするなんて、何かある。絶対に! 怪しんでいると
「春海、怪しまれちゃってるじゃん」
隣にいた男性看護師に突っ込みを入れられている。いやいや、当たってますけどね。
「うるさいなぁ、吉岡。陽菜ちゃんがアンタの事ドン引きしてるよ」
えっ、私!? いやいや、吉岡看護師にドン引きしてるのではなく、あなたですよ。真悠子先輩を怪しんでいるんですよ。とは言えず心の中で呟いておく。
「呼び出しておいて放置して、矢崎さん困ってるよ」
天の助け! あっ、2本のラインが入ってる!ここの師長さんだぁ。助かりました。ってか、私が呼び出されたの知ってるんだ。
「矢崎さん、ごめんなさいね。依ちゃんは相変わらず?」
「はい。今日も奥の休憩室で差し入れの箱の蓋開けてファイルの上に置いちゃって、ファイルないんだけどって大騒ぎしてました」
「あはは、依ちゃんらしいわ」
帰りがけにもらったものを思い出し、師長さんへ内緒にしてくださいね的な賄賂を贈る。
「これが、依元看護師長を夢中にさせた差し入れです。良かったら後ほどお茶のお供にどうぞ。依元看護師長には内緒でお願いします」
そう言って差し入れのフィナンシェを渡す。
「あら、良いのかしら私が頂いちゃって」
「はい。他の方の分はないので内緒で」
こっそり伝えると、早速ポケットに仕舞い込んで私にウインクをして颯爽とナースステーションを後にした。忙しい方なんだなぁと思う。
「陽菜ちゃん、岡田師長と何話してたの?」
真悠子先輩に聞かれだけど、差し入れの話はできない。困っていると先程の吉岡看護師が助けてくれる。
「いくら後輩とはいえ、先輩には言えない悩みのひとつやふたつ、みっつやよっつはあるものです」
「あはは」
思わず吉岡看護師の普通出てこない、みっつやよっつにどハマりして気づけば大笑いしていた。




