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今日も陽は登る

 今日も満員電車に揺られ、最寄駅に電車が止まり扉が開くと一斉に降りる乗客達。私もその中に紛れて一緒に電車を降りる乗客のひとりだ。


 改札口を出て通路を進むと職場に繋がるエスカレーターがある。外に出なくても職場に辿り着けるのは気に入っている。でもそのエスカレーターに着くまでに1箇所難関な場所があり、そこは私が毎日戦う場所になっている。何故なら人より背の低い私はエスカレーター側の左側寄りに歩いているけど、直進する人の流れに巻き込まれそうになるから毎日が戦いなのである。


「おっと、矢崎やざきさんどこ行くの」


 そう言いながら、私を直線に進む流れから救い出してくれた人がいた。


「わっ! 藤堂とうどう先生。ありがとうございます。助かりました」 


「いつもこんな感じなの?」


「そうなんです。職場着くまでに戦かわなくちゃいけないんです」


「あはは、大変だね」


「藤堂先生、笑うところじゃないです」


 そんな会話をしながらふたりで職員通用口へ向かい歩いていく。そして藤堂先生は医局へ、私は女子更衣室へと足を進めていく。


 矢崎やざき陽菜ひなと書かれたロッカーを開け白衣に着替え配属されているNICU病棟ナースステーションへ入っていく。


「おはようございます」 


 挨拶をしながら登場した私に、指導看護師だった坂倉さかくら真智まち先輩が、ニタニタして何かを言いたそうに近寄ってきた。


「陽菜ちゃん、見たわよぉ。朝からイケメンドクターとの逢瀬。ふふっ、今日は頑張れちゃうわねぇ〜、ひぃ〜なちゃ〜ん」


「真智先輩、朝の恒例の戦いの時に、助けてもらっただけですよ。先輩みたいにかっこよく抜けられないんです」


「はいはい、陽菜ちゃん。進展があったら真っ先に教えなさいよ」


 言いたいことだけを言って看護記録を手にデスクに向かい確認している。日勤の看護師たちが次々と出勤してくる。


「申し送り始めます」


 夜勤看護師から日勤看護師へと業務が引き継がれる。特に問題もなかったようで平穏な真夜中だったようだ。


 引き継ぎも終わり、担当の子たちの顔を看て回るのが私の朝のルーティンのひとつだ。産科のようなコットではなく体温管理や呼吸を助ける機械が装備されている保育器が並ぶ。


(みんな気持ちよさそうに寝てるなぁ)


「陽菜、回診までに終わらせちゃお」


 そう言いながら、パソコンが乗ったナーシングカートを押してきた弥生やよい先輩。保育器をひとつずつ回り体温や脈拍、呼吸などのバイタルチェックを機器を見ながらパソコンに記していく。


「矢崎さん」


 依元よりもと師長に呼ばれる。


「陽菜呼ばれてる。何かしでかしたの?」


「身に覚えないんですけど」


「泣く時は胸を貸してあげるからね。さあ、ここは大丈夫だから、行っておいで」


「弥生先輩、なんで泣く前提なんですか」


 弥生先輩にバイタルチェックを任せて依元師長のところへ歩を進める。


「矢崎さん、今日の日勤なんだけど、田上たがみさんのお父様が昨日入院されたそうでね、もしもの事があったら行かせてあげたいから田上さんの今日の搬送対応を代わってあげてもらえないかしら」


「わかりました。搬送依頼が入ったら私が行きます」


「助かるわ。ありがとう」


弥生先輩に任せてしまっていたバイタルチェックに戻ると、既に最後のひとりをチェックし終わって数値を記入しているところだった。


「弥生先輩、戻りました」


「泣いてないなぁ」


「いや、怒られてませんから。今日の日勤を搬送日勤に代わって欲しいって言われただけですって」


「今日の搬送担当って田上ちゃんだったよね?」


 そんな話をしていると、田上さんが私の隣にやってきた。


「師長から聞いた。陽菜ちゃんありがとう」


「いえ、大丈夫です」


 田上先輩は、少し疲れているような印象を受けた。


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