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73. 私の責務

 ほどなくして、セレオン殿下の私室の隣に、私の部屋が準備された。


「とっ、……隣なのですね、殿下……」


 すっかり体調が元通りになるやいなやその部屋に案内された私は、驚いて思わずそう声を上げていた。


「ああ。構わないだろう?寝室続きの部屋ではないのだから。そちらの部屋も、近い将来使うことになるけどね。今はちゃんと空けてあるよ」


 新しく与えられた、広々とした自分の部屋を見渡しながらそう呟いた私に、セレオン殿下は意味ありげな視線を送りながらそんなことを言う。

 その視線が妙に色っぽくて、私は慌てふためいて目を逸らした。


「まぁっ!いいわね、ここのお部屋だなんて!お姉様に会いに来たら、その後ついでにお兄様のお顔も見に行けるじゃない。ふふっ」

「誰がついでだ。全く」


 私の腕をしっかりと掴んでいたアリューシャ王女の無邪気で嬉しそうなその発言に、殿下は呆れたように言葉を返した。


「お姉様、こちらのお部屋にも、以前のように会いに来てもいい?」

「ふふ、ええ、もちろんですわ、アリューシャ様。いつでもお待ちしてます」

「やったぁ!」


 気遣わしげにそう尋ねるアリューシャ王女にすぐさまそう返事をすると、彼女は満面の笑みを浮かべ、可愛らしく喜んだ。




 先日ついに、私とセレオン殿下の婚約が正式に成立し、国民に発表された。

 一般の庶民たちにとっては、さほど大きなニュースではない。ただこの王国の王太子殿下の婚約者が、どこぞの貴族の娘に決まったらしいというだけの話だ。

 けれど、社交界ではやはり一大事だったようだ。どちらかに決まるのはほぼ間違いないであろうと思われていた、王国きっての高位貴族の令嬢二人はどちらも脱落し、ある日突然王宮に現れた王女殿下の教育係の娘が、その座に納まったのだから。


 体が回復した私は、その後もがむしゃらに王太子妃教育に打ち込んだ。私が現れなければ、今ここにいたのは他のご令嬢なのだ。幼い頃からセレオン殿下の妃となるために、死にもの狂いで努力を重ねてきたはずの、他の誰か。それがウィリス侯爵令嬢だったか、それともオルブライト公爵令嬢だったかは分からない。けれど、私はその人たちの望みを奪って、セレオン殿下に選ばれた。

 責任があると強く思った。彼女たちからは無理かもしれないけれど、この王国の全ての民たちから、この人が王太子妃でいてくれてよかったと、そう思ってもらえるような人物でいなければならない。

 セレオン殿下の隣に並び、やがて訪れる彼の治世を支えていけるような、立派な妃にならなければ。


 寝る間も惜しんで勉強する私を、セレオン殿下もアリューシャ王女もとても心配してくれたけれど、私は自分を甘やかすことは決してしなかった。


 そして、私がセレオン殿下の隣のお部屋に居住を移してから、わずか数ヶ月後。

 

 ついにセレオン殿下と私は、正式に夫婦になったのだった。








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