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58. 伯爵夫人の回想・2(※sideフラウド伯爵夫人)

『じ、じゃあ、あなたそれからたった一人で、ここまで来たの?……ん?じゃあ、どうやってこの王宮での職を……』


 自分の中に浮かんできた疑問を彼女にぶつけると、メイジーはいたずらっ子のようにフフッと笑いごまかしましたわ。


『まぁまぁ、そこはあまり気にしないでよ。紹介状は……、ツテがあってね。手に入れることができたの。ふふ。……私ね、ここでお金をしっかり貯めて、自分で何か商売を始めるのもアリかなぁなんて思ってるのよね』


 今思えば、メイジーがそう言って紹介状のことを有耶無耶にしてしまった気がします。次の話が気になって、私も深く聞き出すことはしませんでした。


『何か商売って……。たとえば何を?あなた、世の中そんなに甘くないわよ。よーく考えて行動しないと……』


 何だか行き当たりばったりに生きているようなメイジーのことが急に心配になり、私はそう忠告しました。すると彼女は少しムキになりました。


『そんなこと分かってるわよ。私だってそこまで無謀なことしないわ。……そうねぇ……。何がいいかなぁ。甘いもの好きだから、スイーツショップを開くのなんかいいかもしれないわね。それなら自分が楽しんでやれるもの。好きなお菓子をたくさん作って売るの。それかいっそのこと、たっぷりお金を貯めて土地でも買って運用するかしら。……いずれにせよ、とにかく私は自立したいのよ。どうやって生きていくかは、ここで働きながらじっくり考えるわ。……ふふ、そんなに心配そうな顔しないでよリンダったら』

『……本当に、焦らないでじっくり考えるのよ、メイジー』

『大丈夫だってば。……こんなこと言っておきながら、そのうち誰か素敵な人に恋をして、あっさり結婚してるかもしれないわよ。ふふふ。先のことなんて、誰にも分からないわ』


 楽観主義で、無鉄砲。私の中に、彼女のそんなイメージが加わりました。

 

『……ね、そんな風に家を出てきたのなら、ご家族はあなたを探してるはずよ。きっとすごく心配なさってるわ。せめてお手紙くらい出したらどう……?』

『ああ、大丈夫。書いてる書いてる。ただし、こっちの住所や細かい状況は何も話してないけどね。無事だから安心して、お給金のいい仕事を見つけてバリバリ働いてるわ、いつか帰るから怒らないでねって。お姉様には、お揃いのネックレスをお守りにいつも持っているわ。私たちは離れていてもいつも一緒よって。……ふふ。私たちって小さい頃から本当に仲良し姉妹だったのよ』


 悪びれもせずそう言って笑うメイジーに、私は尋ねました。


『お揃いのネックレス?』

『ええ!見る?姉が結婚する時に、母が記念にって私たちに作ってくれたのよ。すっごく素敵よ』


 メイジーはそう言うと、大雑把なあの子にしては珍しくしっかりと鍵をかけた宝石箱をガチャリと開け、中から白いケースを取り出し、大切そうに持ってきました。

 そのケースの中に入っていたのは、とても美しく繊細な作りのルビーのネックレス。見たことのないような独特のデザインだったのを覚えています。


『まぁ……っ!』

『ね?!綺麗でしょ?この太陽の形をした飾りの部分だけが違ってて、姉のは月の形をしているのよ。母が私たちに合わせて作ってくれたの。底抜けに明るい私と、それを見守って優しく照らす姉のイメージだって。ふふ』


 それは本当に精巧に作られた美しいもので、母君のメイジーたち姉妹への深い愛情を感じられました。




 メイジーは、その後二年ほど王宮で勤めておりました。そしてある日、突然いなくなったのです。何の前触れもなく、相談もなく、本当に突然のことでした。


 私の部屋には、彼女からの一通の手紙が残されていました。




“ リンダ、私恋をしちゃったわ。きっと人生に一度きりの恋よ。その人と一緒になることはできないけれど、おかげで私には生きる目的ができたわ!


 さよならも言えずに本当にごめんね。どうかずっと元気でいて。


 あなたのことが大好きよ。いつかまたどこかで会いましょうね!


                   M ”




 メイジーは、まるで嵐のように、突然去っていきました。


 とても寂しかったけれど、私は何となく満足して一人で微笑みました。あの子のことだから、きっとどこかでたくましく生きていくのだろうと。好きなことをして、自分の思うように。


 人生に一度きりの恋をしたと書いてあったけれど、あの子のことだから分かりません。もしかしたら悠々と気ままに生きていく中でまた素敵な誰かに出会って、今度こそ結婚するかもしれない。それがどこぞの貴族の男性であれば、またいつか社交の場でばったり出会う日が来るかもしれない。そんなことを夢見ていたのに。




 あんなに溌溂とした元気なメイジーが、まさか病に倒れ、亡くなっていたなんて──────








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