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54. アリューシャの母

 それからおよそ半月後。私とアリューシャ王女は再びセレオン殿下のお部屋に呼ばれた。


「まずは何はともあれ父に当たってみた。この王宮の中では誰より、アリューシャの母君を知る人物だと思ったからね。だけど、まぁ……、残念ながら大した役には立ってくれなかったよ」


 いくらセレオン殿下にとっては父君とはいえ、国王陛下に対して随分な言いようだ。そばにいたジーンさんもチラリと殿下の方を見やる。


「父はアリューシャの母君であるメイジーさんのあまりの美しさに一目で惹かれ、目をつけたらしい。詳しい経緯は気恥ずかしいのか何なのか一切話してくれなかったが、とにかく二人は、ほどなくしてそういう関係になったそうだ。……父は公務に対しては真面目な人だが、女性関係はそうでもなかったからね」

「……。」


 何と相槌を打てばいいか分からない。アリューシャ王女も黙って聞いている。


「けれどいつの間にか、メイジーさんはこの王宮を去ってしまった。父はそのことに気付き、彼女の行方を探させたそうだ。わざわざ追うくらいだから、よほど入れ込んではいたのだろう。……メイジーさんは子を身ごもり、王都から離れた小さな町で静かに暮らしていたそうだ」

「……陛下のお子を身ごもっていらっしゃったのに、すぐに呼び戻すことはなさらなかったのですね」

「ああ。王家に他に子がいなければまた違ったのかもしれないが、私を含めすでに男児も女児たちもいた。側妃でさえない、高位貴族の出身でもない彼女の子が王宮内でどういう扱いを受けるかを考え、父なりに配慮したようだよ。そう考えると、やはりアリューシャの母君に対する父の愛情は深かったんだろうね」


 そうか……。

 アリューシャ王女は父君である国王陛下からも、それなりに守ってもらえていたのね。


「だがメイジーさんが病で亡くなったと知り、幼いアリューシャを路頭に迷わせるわけにはいかないと考え、すぐさま迎えを寄こしたらしい。……それで、肝心のそのメイジーさんの経歴なのだが……」


 セレオン殿下はそこで言葉を区切ると、ジーンさんに視線を送った。ジーンさんはすばやく手元の書類に目を落としながら話しはじめる。


「王宮の侍女であったメイジー・ベイスン嬢の紹介状を探し出し確認したところ、紹介者の名前がとある子爵夫人となっていたのですが、いくら調べてもその人物に該当する者が見つかりません。……何分もう十数年以上前のことで、当時メイジー嬢を採用した経緯について詳しく知る者が一人もいないのが現状なのですが、おそらくはその紹介状自体が偽造されたものである可能性が高いと思われます」

「ぎ、偽造、ですか……?」


 面食らう私に、ジーンさんは淡々と続ける。


「ええ。おそらくは協力した者が、王宮内部の人事担当者の中にもいたのでしょう。たまたま彼女が悪人ではなかったから良かったものの、偽造された紹介状一つで簡単に採用され王宮内に入ることが叶ったのは、当時の杜撰な人員管理のおかげでしょうね。……今一度、使用人たちの採用体制や管理を徹底して見直す必要がありますね……」


 眉をひそめボソリとそう言ったジーンさんの言葉を聞いたアリューシャ王女が、爽やかに言った。


「いかにもお母様らしいわ。そういうこと平気でしちゃいそうな人だったもの」

「そ、そうなのですか?アリューシャ様」

「ええ。ぼんやりとしか覚えてないけど、いつも快活で明るくて、行動的で強い人だったのよ。今思えば本当、そんなイメージ。一度ね、私が町の商店街かどこかで大きなおじさんにぶつかっちゃって怒鳴られたことがあるのよ。小さなあたしにとっては強烈に怖い出来事だったから、その日のことはよく覚えてるわ。その時ね、お母様そのおじさんを見上げて怒鳴り返したのよ。町中の商店街のど真ん中でよ。あんたがそのデカい図体で道のど真ん中をダラダラ歩いてるからでしょー!って。……そういう人。何となく、目的のためならそれくらいのことしちゃいそうだわ。王宮勤めの侍女なんて、お給金もきっといいでしょうし、どうにか上手いことして採用されてやろうと頑張って手を回したんじゃないかしら」

「そ、……そうでございますか……」


 ケロッとしてそう話すアリューシャ王女の言葉に、私は呆気にとられた。パ、パワフルな人だったんだなぁ……メイジーさん。

 まぁ、それくらいパワフルな人だからこそ、お腹の子と二人で生きていこうと、あっさり王宮を出て行く選択ができたのかもしれないな……。







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