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14. まるで夢のよう

 案内されたお部屋の豪華さに私は目を見張り、固まった。

 広い部屋の中には一面ふかふかの絨毯が敷かれ、中央には大きなシャンデリア。趣味の良い重厚な調度品の数々に、奥に見えるレースの天蓋がかかった大きなベッド。

 クルース子爵邸にも、ハセルタイン伯爵邸にも、こんな部屋はない。まるでお姫様の住んでいるようなお部屋だった。


「お荷物は全てこちらに運んでございます。ご確認くださいませ。セレオン殿下とアリューシャ王女殿下が夕食をご一緒にと仰っておられますので、後ほど湯浴みをお手伝いさせていただきます。では、まもなく医者が参りますのでお待ちを」


 あんぐりと口を開けて部屋の中を見回していた私に、品の良い侍女の方がそう声をかけてくれた。


 その後すぐにやって来たお医者様が、長い時間をかけて私の左耳を診て手当をしてくれた。それが終わると数人の侍女の方々がスーッと現れ、湯浴みや着替えを手伝ってくれる。……まるで上流階級のお嬢様になった気分だ。しかも準備されていたドレスは、私の持ち物ではない。


「こちらは王太子殿下の命により、私たちで準備させていただいたものでございます。サイズはピッタリですね。ようございました」

「あ、ありがとうございます……」


 鏡の中の自分の姿を、信じられない思いで見つめる。いつぶりだろう、こんな素敵なドレスを身に着けたのは……。まだ結婚する前、父や母に贈られたドレスを着たことがあるだけだ。嫁いでからは一度もない。毎日質素なワンピースを着るよう命じられていたし、そのうち使用人たちと同じ服を着せられるようになった。華やかな場に連れて行ってもらったこともないし。

 奇しくも私の瞳の色と同じ翠色のこのドレスは、レースが幾重にも重ねられ繊細な刺繍が施された、とても美しいものだった。ところどころ上品なパールの飾りも付けられている。夢のような状況に気分がとてつもなく高揚し、私は何度も深呼吸をして自分の鼓動を落ち着かせようとした。


「さ、次は髪を結いましょう。ミラベル様はどのようなヘアスタイルがお好みでございますか?アップにされますか?それとも、下ろす方がお好きでしょうか」

「っ!そ、そうですね……。どうしよう……」

「普段はどのように?」

「……いつもは……、後ろで一つに結んでいるだけのことが多かったので……」

「さようでございますか。ですがミラベル様の髪はとても艷やかでお美しいですわ。ストロベリーブロンドの色味もとても素敵です。せっかくですから、華やかに愛らしく結いましょうね」

「あ、ありがとうございます……」


 親切な侍女の方たちの手によって、ハーフアップの凝ったヘアスタイルに仕上げてもらい、ドレスとよく合うパールの髪飾りが数ヶ所に付けられる。そうして、まるで別人のような私が出来上がった。


「まぁ……。何てお美しいこと……」

「驚きましたわ。きっとセレオン殿下もアリューシャ王女殿下もお喜びになられます」

「さ、食堂へ移動いたしましょう」

「は、はい」

  

 名残惜しく姿見に視線を送りながら、私は案内されるがままに部屋を出て、廊下を歩く。こうして華やかなドレスを身にまとい侍女たちとともに王太子宮の廊下を歩いていると、本当に自分がお姫様にでもなったかのような気がする。現実に起こっていることとは思えない。……夢を見ているんじゃないかしら。


 しばらく歩くと、ついに目的の場所にたどり着いたらしい。


「失礼いたします。ミラベル様をお連れいたしました」


 侍女がそう声をかけた後に私を促す。おそるおそる中へと足を踏み入れると、すでに王太子殿下と王女殿下の二人は待っていて、私の姿を見て立ち上がった。


「まぁ……っ!すごい!ミラベルさん、すっごく綺麗だわ!!ね?!お兄様っ」

「……。ああ……」


 アリューシャ王女殿下の言葉に、私のことを見つめていた王太子殿下が答える。そのお声は小さく、少し掠れていた。


「……なんて綺麗なんだ……。とても素敵だよ、ミラベル嬢」


 きっと社交辞令のはずなのだけれど、王太子殿下のご様子はまるで本気でそう思ってくださっているように感じられるほど真剣で、私はますます舞い上がってしまった。


「あ、ありがとうございます……。セレオン王太子殿下、アリューシャ王女殿下」


 火照る頬を両手で押さえたくなるのを我慢しながら、私は微笑んでそう返事をした。








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