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10. 彼女との出会い(※sideセレオン)

 アリューシャは座学が大の苦手だった。頭が悪いというわけではない。ただ、じっと座って勉強することが苦痛なようで、剣術や格闘術の鍛錬を好んでやっていた。

 座学の教師たちのアリューシャへの当たりが冷たかったせいでもあるだろう。外での鍛錬は王女となった彼女にはさほど必要なものとも思えなかったが、本人にとって楽しい時間なら構わないと思っていた。たった4歳の頃に母を亡くし、見知らぬ人間だらけの王宮に上がったアリューシャのことが不憫で、私は彼女のことを誰よりも気にかけていた。


「王女殿下から目を離し、雑談に興じていたわけか。護衛としての務めを何と心得ている」


 厳しく責め立てるジーンの言葉に萎縮する護衛。彼らも結局はアリューシャのことを軽んじているのだろう。だから気を抜いたのだ。俺は部屋を出ようとした。


「殿下、お待ちください。どちらへ……?」

「……探しに行く。アリューシャは常日頃から王宮の外へ出たがっていた。きっと街にでも向かっているのだろう」

「いえ、殿下はこちらでお待ちください。王女殿下は私が必ず見つけて連れ戻しますので」

「……っ、」


 護衛の一人も付けずに外へ出たとなると、アリューシャの身が心配でたまらない。だがジーンは昔から誰より信頼を置いている私の幼なじみであり、同級生であり、そして今では右腕だ。

 彼を信じて、一旦任せることにした。




 そして数刻後、ジーンは言葉通りにアリューシャを連れて王宮に戻ってきたのだった。




「お兄様!!聞いて聞いて!!」

「っ!アリューシャ……ッ、お前というやつは……」


 不安を抱えたまま執務も捗らず、部屋の中を右往左往しながら待っていると、ふいにアリューシャが扉を開けて中に飛び込んできた。その姿を見た途端、ホッとして思わず崩れ落ちそうになった。


「何故黙って王宮を出た。そんなことは決してしてはいけないと、以前からあれほど言い聞かせていたじゃないか」

「ええ、ええ。分かってるわ。本当にごめんなさい。なんかどうしても……そんな気分だったの。ここを出て外の世界に行ってみたくて。……もう二度としないわ。ごめんなさい、お兄様」

「……全く……」


 しおらしい顔をする妹をそれ以上責めることもできない。甘い兄だと自分でも思う。アリューシャの後ろから静かに部屋に入ってきたジーンと目が合うと、私は頷きながら心の中で深く感謝した。


「それでねお兄様!素敵な人と出会ったのよ私!」


 アリューシャは目を輝かせて私の腕を掴むと、矢継ぎ早に喋りはじめた。


「優しいお姉さんなの!私がお菓子屋さんの夫婦にすごく怒られて役人を呼ばれそうになっていたらね、割って入ってきて助けようとしてくれたのよ!皆見て見ぬふりって感じて誰も助けてくれなかったのに。その人がね、店の人に殴られて怪我しちゃったの!私のせいなのよ!だけどどこか行っちゃった……。すごく素敵な人でね!私にも物乞いの子にも親切で、私が王女って知らないのに……ここの人たちよりはるかに優しくしてくれたわ。それにね!ストロベリーブロンドのすっごく綺麗な人でね!!」

「……。……ジーン、分かるように説明してくれるか?」

「承知いたしました、殿下」


 私は事の顛末を全てジーンから聞き、アリューシャを助けるために怪我をしてしまったらしいその女性を探し出し、王宮に招くよう指示を出した。きちんと感謝の言葉を述べ、相応の礼をせねば。それに、怪我の程度を確認して手当をする必要もある。


「貴族の令嬢ではなかったのだな?王都に住んでいる女性か?」

「分からないけど、たぶん違うわ。古いワンピースを着てたし、遠くから出てきて街の安宿に泊まってるって言ってたし……。名前はミラベルさんよ。あ!!そうだわ!!その人ね、ルビーのネックレスを持ってたんだけどね、それが……、」

「……?どうした?アリューシャ」

「……。ううん。何でもないわ」


 興奮して喋っていたアリューシャが、ふいに静かになった。




 翌日、ジーンが今度はその女性を探し出し、私と妹が待つこの部屋まで連れてきてくれた。


 アリューシャやジーンから聞いていたとおり、たしかに彼女は質素な身なりをしてはいた。


 しかし、その美しい翠色の瞳と初めて目が合った瞬間、私の心臓は大きく音を立てた。









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