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4.バレエ教室

 

 この町の中心部に、雑居ビルがいくつかあって、その一角に僕のバレエ教室がある。

 とはいっても、バレエ教室のあるビルは、このビルの大半がそのバレエ教室だった。


 だから、雑居ビルの一番上に、大きく看板がある。

 『SUBARU‘sバレエアカデミー』と。星がいくつかデザインされており、踊っている男女ペアのシルエットが良く目立つ。


「お帰り。昴。少し遅かったわね。」

 母親である、【吉岡(よしおか)和子(かずこ)】が出迎えてくれる。

 このバレエスタジオを作ったのも僕の母親だ。ちなみに父親は、このビルの上で、公認会計士として、会計事務所を営んでいる。


 故に、このビルの大半は、僕たち家族が経営している場所といっても過言ではなかった。

 因みに、僕の名前の昴もこの、『SUBARU‘sバレエアカデミー』から来ている。


 これを聞くと、この町は北関東にあって、北関東を主体とする、某メーカーと同じと思われるかもしれないが。


 <確かにそうかもしれないわね。抵抗があったのも事実よ。>

 <でも、最後は私の気持ち。バレエをやっている皆がね。いろいろな星のように、キラキラ輝いてほしいの。だからこの名前を付けたの。勿論、あなたの名前の由来もね。>

 母親はそう教えてくれた。

 確かに、母親の願い、そして、僕の名前の由来も、母親の願いが強く込められている。


 故に、僕がそんな母親を見て、バレエを始めたのも、自然なことだったかもしれない。


「さあ。着替えてレッスンよ。今日は重大発表があるから、早く着替えて来なさいね。」

 母親は大きく頷き、僕を更衣室へ行くように指示された。



 そうして、バレエのレッスンの時間。

 僕の所属しているクラスは、中学生Aクラス。というクラスだった。


 僕の他にも、生徒が五名在籍している。僕以外はみんな女子だが。


「はい。皆さん。こんにちは!!」

 母親は初めの挨拶をする。


「「「こんにちは!!」」」

 僕たちも声をそろえて言う。


「さて、今日は練習に入る前に、とても素晴らしいお知らせがあります。」

 母親はニコニコしながら言う。

 因みにだが、この中学生Aクラスを担当しているバレエ講師は、僕の母親、吉岡和子だ。


 ニコニコしている母親に連れられて、生徒たちは皆笑顔になる。

 何だろう。お知らせ。ワクワク。そんな表情だ。


「皆さん、最近、この町に沢山のマンションが建設されていることを知っていますね。」


「「「「はいっ。」」」」

 母親の言葉に、僕を含めて、生徒全員が頷く。


「はい。マンションが立てば、新しい人たちが引っ越してきます。ということは。今日のお知らせは。なんと。このクラスに、新しいお友達が増えます!!」

「「「「おおっ。」」」」


 母親の言葉に、僕たちはかなりドキドキする。

 バレエは大半は女性なので、女子がもう一人増えるのはさらに居場所がなくなってしまうのではと思うかもしれないが、それでもなお、新しいお友達、新メンバーが一人増えることは僕でもとても嬉しい。


「それじゃあ、早速入ってきてもらいましょう!!」

 母親は手招きをして、レッスン室に入るように促す。


 そこから現れたのは、堂々とした姿勢で、歩いてくる女の子と、少し、キョロキョロしながら緊張してこちらに向かってくる女の子だった。


 二人ともとても綺麗で、スラッとしている。おそらく、バレエを初めて長いのだろうと思わせる体型。

 容姿もとてもかわいい。


「自己紹介をお願いできますか?」

 母親の言葉に促される。


「はい!!」

 元気よく返事をする、堂々とした姿勢で、ここに歩いてきた女の子が答える。

 キョロキョロした子は、黙ってうなずいた。


「アメリカから来ました、【原田(はらだ)裕子(ひろこ)】、中学二年生です。東京に生まれて、幼稚園まで、そこで育ったのですが、父の転勤で、小学校から今までずっとアメリカに住んでました。よろしくお願いします!!」

 アメリカという言葉に、「「「おおっ。」」」となる、バレエ教室の生徒たち。

 そして、元気よく自己紹介をした、原田姉妹の姉、裕子さんに、大きな拍手を贈る僕たち。


「ほらっ。キョロキョロしないで、挨拶しなさい。」

 緊張している方は、裕子さんに促されながら、挨拶した。


「あのっ、ヒロちゃんの、ああっ、その、妹の【原田(はらだ)友里子(ゆりこ)】です。小学六年生です。」

 友里子ちゃんは緊張しながらも、頑張って自己紹介をした。

 友里子ちゃんの自己紹介も挨拶したと同時に、僕たちは拍手をした。


「はい。よろしくお願いします。」

 母親はにこにこと笑う。


「原田さんの二人の姉妹が加わってくれました。裕子ちゃんは、先ずは、このクラスで踊ってもらいますが、友里子ちゃんの方は、小学校六年生ということで、小学生のクラスに。というわけではなく、基本はスタッフとして、ここに来てくれます。そうですね。バレエのレッスンは月に一回くらいで良いのよね。」

 母親は友里子ちゃんに確認して、友里子ちゃんはその言葉に、うん、と頷いた。


「はい。ということなので、友里子ちゃんは基本的には、スタッフがメインです。どんなスタッフかはまた後で説明しますので、先ずは準備運動をしましょう。」

 母親はそう言って、準備運動を皆で始めたのだった。


 準備運動の柔軟運動に続いて、バーに掴まってのレッスン、さらには、音楽に合わせての、プリエの動き、ダンジュの動き、と基礎運動が続く。


 このクラスのメンバーの中で突出して出来ていたのが。なんと今日加わったばかりの原田さんだ。

 元気よく、そして、軽やかに動いている。


 それに対して妹の友里子ちゃんは、柔軟だったり、その他、基礎運動が出来ていない気がする。

 体力的にも劣っているようだし、それは中学生と比較すればもちろんそうなのだが、友里子ちゃんと同学年の子たちよりも、友里子ちゃんは、バレエが苦手なようだ。


 そうして、基礎運動を終える。


「はい。それでは、基礎運動を終えたところで、早速、裕子ちゃんがどんなバレエを踊るか見せてもらいましょう。アメリカでもバレエ教室に通っていたということなので、今までどんなことをやって来たか披露できますか?」

「はいっ!!」

 母親の言葉に元気よく返事をする裕子さん。


「そして、皆、分かったと思いますが、友里子ちゃんは、少し基礎が足りていないようです。バレエはお姉さんの影響で、続けたいと思って、毎週ではないけれど体験しているのよね?」

 母親の言葉に友里子ちゃんはコクっと頷く。


「さあ。それではここから友里子ちゃんにも本領を発揮してもらいましょう。それでは、お二人とも準備が出来ましたら、よろしくお願いします。皆さんも見るのも勉強ですので、静かに演技を見ましょうね。」

 母親はそう言って、僕たちに拍手を促す。僕たちはそれにつられて、大きく拍手をする。


 だが、拍手をしなくても、僕たちは驚きの声を連発する。

「えっ?」

「うそっ?」

「おおっ!!」

 ざわつく僕たち。姉の裕子さんは、発表のため練習室の中央に移動して、スタンバイしているが。

 妹の友里子ちゃんが向かった先に僕たちは驚いた。


 友里子ちゃんが向かった先、そこは、練習室の隅に置かれている、ピアノだった。


 そして。友里子ちゃんが冒頭の一音目を奏でる。

 力強い、ショパンのワルツが始まった。

 ショパン『ワルツ第2番、Op34-1 華麗な円舞曲』。

 そして、姉の原田さんは、軽やかに、そして、優雅に、友里子ちゃんのピアノで舞っている。


 すごい。すごい。思わず息を飲んでしまう。

 最初から、最後まで、完璧な演技をして、原田姉妹の共演はフィニッシュした。


 僕たちは力いっぱい拍手をする。


「すごーい。」

「きれい。」

 そんな声が大半だった。


「はい。ありがとうございました。ということで、友里子ちゃんはピアノのスタッフとして来てもらいます。丁度、このクラスのクリスマスコンサートの発表は、ショパンの『レ・シルフィード』ですね。ピアノ伴奏を友里子ちゃんに担当してもらいます。拍手!!」

 母親の言葉に、僕たちは満場一致で拍手をする。


 言い忘れていたが、今は中学二年の九月。

 おそらく、彼女たち姉妹は、アメリカの学校の日程に合わせて引っ越してきたのだろう。海外の学校は九月始まりが多い。


「そして、裕子ちゃんは優秀で、アメリカのコンクールでも入賞経験があるということなのですが、今から振付を覚えるとクリスマスコンサートまでに全曲は仕上がらない可能性があるので。もう一つ別の曲を用意するので、そっちで踊ってもらいます。」

 原田姉妹は母親の言葉に頷く。そして。


「裕子ちゃんの曲は、そうね。昴。一緒に相手役として出て。あなたも、今年の雲雀川のバレエコンクールで優勝してるし、コンクールの実績は評価できるから。」

 母親が、裕子さんの相手役として、僕を指名してきた。


「私の息子の昴です。わからないことがあったら、私か息子に聞いてね。さあ、今度は皆さんの自己紹介です。昴から自己紹介よ。」

 母親がそう言ってきたので。


「吉岡昴です。よろしくお願いします。」

 僕はそう言って、原田姉妹に頭を下げた。


 そうして、自己紹介を終え、その後、クラスの一通りの練習が終わり、僕と原田姉妹は少し残ることになった。


「さあ。そうしたら、昴と裕子ちゃん、二人に踊って欲しい曲は、これね。」

 母親はそう言って、ラジカセから曲を流す。

 当然だが、この時代は、スマホというものはまだなく、CDを買って、ラジカセから音を流すのが主流だ。

 クラッシック音楽ならなおさらそうだ。


 音楽から流れてきたのは、ヴァイオリンの綺麗なメロディー。三拍子。メヌエットなのか。

 しかし、曲調が変わると、一気に迫力が増して来る。


「モーツァルトの『ヴァイオリン協奏曲第5番、第3楽章』と言います。ヴァイオリンの曲好きなのよね。先生。昴には申し訳ないけれど、お前のコンクールの優秀者のステージはこれね。裕子ちゃんもアメリカのコンクールでの優秀者ステージになるわね。二人とも大丈夫かしら?」

 母親はそう言って、僕と、原田姉妹の姉、裕子さんに目を合わせる。


「あっ、うん。」

 僕は小さく頷く。まあ、大丈夫だろう。


「はい。できます!!」

 裕子さんはそうして、元気よく頷いた。


「ふふふっ、じゃあ、ヨロシクねの握手をしましょう!!」

 母親は照れそうに、笑いながら、僕と裕子さんを促す。


「その。よろしくお願いします。えっと。」

 僕は戸惑いながら、裕子さんの元に歩み寄る。


「ああっ、ヒロで良いよ。よろしく、えっと。」

「その、吉岡昴。」

「う~ん。じゃ、ヨッシー!!」

 裕子さん、ヒロは元気よくそう言った。

 僕はうん、うん、と二回頷く。別に悪くない呼ばれ方。なぜならば、学校で虐められているので、もっとひどい呼ばれ方で呼ばれる時もあるからだ。

「えっと、よろしくお願いします。ヒロ。」

「うん。よろしく。」

 ヒロはニコニコ笑う。


「えっと、あの、お姉ちゃんの、練習、見学してもいいですか?」

 友里子ちゃんが横から入ってくる。


「もちろんいいよ。」

 僕はそう答えると、友里子ちゃんはニコニコ笑った。

 お姉ちゃんのことが好きなのだろう。


「えっと、あの、わ、私も・・・・。」

「はははっ、この子もユリで良いよ。」

 ヒロが緊張している友里子ちゃん、ユリをフォローする。


「よろしく、ユリ。ピアノ上手だね。」

「あ、ありがとう。ヨッシー、お兄ちゃん。」

 ユリが今日いちばん元気な声で、はっきり言った。


「は~い。それじゃあ、二人とも、振付を始めていくわよ。」

 母親がそう言って、ニコニコ笑い、僕たちは振付に入った。


 僕とヒロは振付を自分のものにしようと、真剣に母親の話を聞き、大きく頷いている。

 お互いに、ゆっくりしたテンポで、踊っては、確認し合い、そして、意見を言い合ったり。

 ヒロはやはりアメリカで育ったため、ハキハキと意見が言えるようだ。


 母親はそのやり取りにうんうんと言っている。


 ユリは頷きながら、部分的に確認したいところをピアノで弾いてくれる。


「さーっすが、ユリだね。ありがとう。」

「う、うん。」

 ヒロはニコニコ笑い、大きく頷く。


「あたしは、ピアノはダメダメでさぁ。まあ、ユリと一緒に月一で、ピアノ教室に行ってたけど。残りの練習はほぼ見学的な。」

 ヒロは笑っている。

 なるほど、つまり、ピアノだと逆の立場になるのか。

 お互い、憧れる部分は尊敬し、助け合う、本当に仲のいいしまいだった。


 ヒロがアメリカ育ちのため、何だろうか。

 手を繋いだり、身体に触れたりする部分の振付箇所も、不思議と何の抵抗もなく上手くいっている。


「うんうん。その調子ね。昴も良い動きしているじゃない。裕子ちゃんが良い雰囲気を作ってくれるおかげだね。」

 ヒロは母親の言葉に頷いた。


「さあ。今回はここまでにしましょう。裕子ちゃんは、日本に戻って来たばかりなのに、慣れない初日で疲れたでしょ。お疲れ様。」

 母親は笑顔でうんうんと答える。


「昴も先に家に帰って、待っていて。この後、お母さん、社会人のクラスがあるから。遅くなるからね。冷蔵庫に、ご飯があるよ。」

 母親はニコニコ笑いながら言う。

「うん。ありがとう。」


 母親はそうして、僕と原田姉妹を見送った。


「今日は、ありがとう。不思議とすごく楽しかった。」

 僕は原田姉妹にお礼を言う。


「ううん。こっちこそ。よろしく、ヨッシー。」

「ヨッシーお兄ちゃん、ありがとう!!」

 ヒロとユリはそうして、大きく手を振って帰って行った。


「家の場所、分かる?」

 僕は聞いたが。


「大丈夫。マンション、大きいからすぐ目立つ。」

 とのことだったので、大きく頷いて、手を振って見送ったのだった。


 改めて今日の放課後から振り返ると、新しい人たちに何人も出会った。


 やはり、マンションの建設ラッシュで、新しい人たちがこっちに引っ越してきているのだろう。

 これから人口が増えていきそうなこの町に期待を膨らませている僕が居た。












今回もご覧いただき、ありがとうございました。

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