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23.ゲーム大会の夜と寂しい夜

 

 さて、桜の満開のこの季節、春休みということもあり、この別荘に、岩島とアキのカップル、そして、ヒロとユリの姉妹、さらには、アキの妹、美里ちゃんがここにやって来た。


「こんにちは。」

 元気よく挨拶をする美里ちゃん。


「ヤッホー、ヨッシー、元気?」

 ヒロはニコニコと笑っている。

「元気でしたか?ヨッシー、お兄ちゃん。」

 ユリも大きく頷いている。


「よっ、吉岡も、茂木さんもいい感じだ。」

「はい、かなりお似合いのカップルです。」

 岩島とアキにそう言われると、少し照れる僕。


 遊びに来た皆を部屋に上がらせ、少し団らんの時を持つ。


「楽しそうじゃん、吉岡。」

 僕とハルの暮らしぶりを、羨ましがる岩島。

「ま、まあな。」

 僕は照れながら笑う。勿論、ハルも。


「うわぁ。きれい。」

 そこに美里ちゃんの興奮した言葉。

 美里ちゃんは庭に植えてある、花を見ている。


「本当ね。もうすぐチューリップも咲くかな?以前はこんなに綺麗な庭じゃなかったね。」

 アキが美里ちゃんを見て、ニコニコ笑っている。


「うん。そうだね。僕が植えた。チューリップの苗とか、色々な花の苗木とかを。」

 僕は照れながらも、答える。


「へぇ。いいじゃない。最高じゃん!!」

 ヒロがニコニコ笑う。

「ヨッシーお兄ちゃん、すごいです。」

 ユリも生き生きとした表情を見せる。


「まあ、茂木先生や、ハルのご両親も協力したんだけどね。」

 僕はニコニコ笑うが、口元は少し恥ずかしくて、緩んでいた。


 そうして、折角来た皆を家に居させ続けるのは、もったいなかったので。

 僕とハルは、皆を先日歩いた、トンネルと海沿いの遊歩道の桜並木へと案内した。


「ハルお姉ちゃんは、車いすなの?」

 美里ちゃんが純粋な目をして聞いてくるが。


「うん。そうなの。まだ、ちょっとね。元気になって来たから、次ぎ合える時には、車いす無しで出来るかな。」

 ハルは気丈に美里ちゃんに振る舞う。


「こらこら、美里。ハルお姉ちゃんは、まだまだ、身体を治さないといけないんだから。」

「はーい。」

 アキの言葉に美里ちゃんは落ち着く。


 そんな美里ちゃんを少し寂しそうな眼で見つめる僕とハル。


 そうして、僕たちは、この間の場所へ向かった。

「うわぁ~。」

「トンネルだ・・・・。」

 そのトンネルの感想にドキドキする、岩島たち一行。


 そうして、僕たちはトンネルの中に入っていく。

「お姉ちゃん・・・・。真っ暗。」

「ハイハイ。美里。大丈夫よ。」

「うん、ドキドキする。」

 アキと、妹の美里ちゃんのやり取り。

 因みにだが、アキは両手を繋がれている。

 片方に岩島、もう片方に美里ちゃんだ。


「すっげードキドキする。」

「私も、少し怖いですけど。」

 ドキドキしながらも一歩一歩着実に進んでいるのは、原田姉妹のヒロとユリだ。

 やはりユリの方は少し優しい性格だが、アメリカ育ち。こういう場面だと、確実に肝っ玉が据わっている。

 そういえば、クリスマスコンサートのピアノ伴奏もそんな感じだった。演奏の前後に、ユリが緊張している所を見たことが無い。

 唯一緊張していたのが、中学生部門に上がったときに初めて演奏したときだろう。環境が変わると流石にね。と、僕は思う。


 真っ暗なトンネルに一喜一憂する僕たちだが。

 トンネル内に、薄暗いライトではあるが、灯りも多少はあるため、それこそ、美里ちゃんが大声で泣きだすということはなかった。

 そうして、トンネルの灯り以外の灯り、そう、太陽の光が見えてくる。


 それを見たとき。

「やったー。出口だ。」

 と、思わず叫ぶ美里ちゃん。

「こらこら美里。転ぶから、お姉ちゃんとね。」

「は~い。」

 思わず走りだそうになる美里ちゃんを、姉のアキは、全力で止めた。


 視線の先に灯りは見えても、まだまだ、足元の灯りは不安定だ。

 美里ちゃんが転んでしまわないように、細心の注意を払う、アキ。

 最初に美里ちゃんにあった時も、溝に落ちて泣いていた。あの時が懐かしく感じる。


 あの時は、まさかこんなことになるなんて、と思ってもみなかった。

 僕は、ハルの車いすをしっかり握りしめる。


 ハルは今、ここに居るよね・・・・。


「大丈夫?昴君。」

 ハルは僕に向かって聞いてくる。


「うん。大丈夫。僕も美里ちゃんと一緒で、車いすをしっかり握らないとね。」

「ありがと。」

 ハルは微笑んでいた。


 そうして、再び外へと出た僕たち。

 春の日差し、暖かな日差しが迎えてくれた。


 そして。

 海沿いの、桜並木と、菜の花の遊歩道へ。

 上には桜のピンク色、下には菜の花の黄色の絨毯。

「うわぁ~い。」

 美里ちゃんが思いっきり走り回る。


「転ばないでよ。」

 アキが大きな声で叫ぶ。


「は~い。」

 美里ちゃんがニコニコ笑う。


 そして、皆も笑っていた。

 そんな僕たちを、春の日差しが照らしていた。


 この時間がずっと続けばいいのに。と、思ってしまう。


 海沿いの道を一周して、再び、茂木先生の別荘宅へ戻った僕たち。


 ここからは、皆で夕食を作って、食べることになる。

 皆で食材を持ち寄り、色々な料理のおかずが出来上がる。勿論、ここは海の傍ということもあり、途中のスーパーで買ってきた海産物もある。


 北関東の、海のない地域の出身の僕と岩島。

 当然だが、海の幸は、僕も岩島も大好物だ。


 海産物は鉄板で焼きつつ、お刺身にしつつといろいろな料理で夕食を取る。


 そして、夕食を食べ終えたら、楽しい、楽しい、ゲーム大会へ。


 各自が持ち寄った、色々なゲームで遊んでいく。

 といっても、トランプやウノが主体だが、何回戦やっても飽きない僕たち。

 楽しい時間がどんどん過ぎていく。

 皆、最低でも、一人一回は、トップになり、一回は最下位になっていた。


「ふふふっ、楽しい。」

 ハルが楽しんで笑っている。

 そう、何もかもを忘れているかのように。



 続いて、岩島が持ってきたという、いくつかのボードゲームで遊んでいく。

 慣れた手つきで、僕もゲームを進める。

 岩島の持っているボードゲーム。僕も岩島の家に遊びに行ったりしていたので、結構慣れている。


「へへへっ、かなりいい感じ。」

「流石吉岡は慣れているな。美里ちゃんもいるんだから、加減してやれって。」

 僕と岩島はニコニコ笑う。


「いやいや、ヨッシー、遠慮するな、アタシも本気で行きたい。ゲームは遊びじゃないからな。全力で取り組むだけだ。」

 ヒロは真剣な表情で、ルールのわからないボードゲームでも、頑張って対応しようとする。


 そうして、ボードゲームもいくつか楽しみ、皆一度はトップに、そして、一度は最下位になった。

 皆その時に一喜一憂の表情を見せた。

 中でも、その表情の差が激しかったのが、美里ちゃんである。美里ちゃんは最下位になれば、大きく悔し涙を流し、泣いていたが、トップに立てば、その表情は一変、明るくなっていた。

 美里ちゃんも、この春、まさに、あと数日で、小学校に入学する予定だ。

 しかしながら、まだまだ幼い、美里ちゃん。その表情にニコニコ笑う僕たちの姿があった。


 そうして、ボードゲームを一通り終えたころ。

「あれ?それは・・・・。」

 アキが岩島の鞄の中にある箱に指さす。

 この箱もゲームで、唯一、まだやっていないゲームだった。


「ああ。『故郷のかるた』。かるたは知ってる?」

 岩島が皆に聞く。

 皆はうんうんと頷く。


「僕の地元特有のカルタで、毎年、このかるたのかるた大会が盛大に開かれるんだけど。まあ、地元の人しか知らないので。転校してきた皆は大きく不利かもしれないと思って、まだやってなかったんだけど。」

 岩島が少し照れながら説明する。


 僕は地元の人間なので知っているが、確かに、ここに居る、僕と岩島以外のメンバーは、別の地域から転校してきた人達。

 このかるたは、地元ローカルの物で、彼女たちにとっては少し不利だ。


 だけど。

「いいや、やってみたい。」

 ヒロが大きく頷く。

「私も、知らないものを知りたいですし。」

 アキがニコニコ笑う。


「私も・・・。頑張ってみる。」

 そして、ハルも笑顔で大きく頷いた。その表情はもっとゲームをやってみたい。そんな表情だ。


「お姉ちゃんがやるなら私も。」

 美里ちゃんは大きく頷いていた。


 そうして、僕たちはかるたを並べていく。

「これに関してはちょっと、手加減するぞ。吉岡。」

 岩島の言葉に大きく頷く。


 最初の一回戦。僕は少し手加減して、譜だが読まれてから、十秒ほど、間をおいて、イラストが描かれた取り札を取って行った。


 そうして、皆、ほぼ同じような枚数を取ることができた。


「それじゃあ、もう一回ね。今度は、僕も吉岡も本気を出すよ。」


 そうして、二回戦。

 僕は、札が読まれた瞬間に一気に、取り札を取っていく。

 取り札にかかれている、字を見て取っているのではない。イラストのみで取っていく。


 そうして。二回戦は、僕の圧勝。


「すごい。手も足も出ませんでした。」

 と、アキがニコニコ笑う。

「お兄ちゃんすごい。」

 美里ちゃんは僕の手の速さに、憧れと尊敬のまなざしで、見つめていた。


「くやし~。これが、地元の力かぁ~。」

 ヒロは非常に悔しそうな表情をしている。


「ふふふっ、昴君。凄い。」

 ハルがニコニコ笑って見つめている。

「すごいです。お兄ちゃん。」

 ユリもニコニコ笑っていた。


 やっぱり地元ではない、転校してきた皆にとって、このゲームは少し不利だった。


「さて、このゲームで地元の人間の凄さがわかったところで、読み手を交代しよう。吉岡が読み手をして、僕が入るよ。さあ、僕は倒せるかな。」

 岩島が僕のいた場所に入り、次の三回戦、四回戦は、僕が読み上げた。

 といっても、読み札を持たないで。すべて、暗唱で読み上げた僕が居た。


 そして、結果は。やはり、岩島の圧勝。

「あ~あ~。勝てなかったかぁ。」

 非常に落胆するヒロ。


「そうですね。吉岡さん、読み札を持たないで、暗唱してましたし。」

「そりゃあ、かなわないか、すげーよ、ヨッシー。」

 アキとヒロは岩島だけでなく、僕のことも褒めてくれた。


「えっ。昴君。読み札持ってなかったの?真剣にやってたから気付かなかった。」

 ハルは興奮して、目の色をキラキラしている。

「まあ、読み札を手に持つのが面倒くさかったし。地元の人間は、皆、暗唱できるよ。」

 僕は大きく首を横に振った。

 僕の言葉に、岩島も大きく頷いていた。


 それでも転校生たちは、瞳の色をキラキラしていた。

 なんだか少し恥ずかしそうに照れる、僕と岩島。


 今の時代であればこれを、無双というのだろう。だが、この時代は、無双という言葉はそれほど使っていなかった気がする。

 そういう、小説や、作品、テレビ―ゲームが出始めるのは、まだまだ先だ。


 そうして、あっという間に深夜と呼ばれる時間になったので、僕たちは流石に、眠ることにした。


 そして翌朝。

 朝食を済ませ、海岸線を散歩する。

 その後は部屋を掃除して、あっという間に、皆が帰る時間になった。


「それじゃ、また、遊びに行くから。」

 岩島が大きく手を振っている。

「じゃあね。ヨッシー。ハル。」

 ヒロがニコニコ笑う。

「ありがとうございました。ハルさん。」

 ヒロの妹ユリがニコニコ頭を下げる。


「はい。絶対また行きます。吉岡さん、それまで、ハルさんを。」

 アキの言葉に僕は深々と頷く。

「お兄ちゃん、お姉ちゃん。ありがとう。」

 美里ちゃんは元気よくお礼を言った。


 そうして、僕とハルは、大きく手を振り、彼らを見送った。


 その瞬間、一気に寂しさが、僕とハルを襲う。


「行っちゃったね。」

 ハルが寂しそうに言う。

「ああ。そうだね。」

 僕もどこか寂しい。


 皆が帰った、その日の夜は、お互い眠れなかった。そして、長い夜に感じだ。


 僕は眠れず、別荘の二階からリビングへ下りる。

 すると、リビングの電気は明るく、同じく眠れないハルが居た。

 ハルが居たのだけれど、そのハルの瞳には涙が頬を伝っていた。


「ハル・・・・。」

 見かねた僕、すぐに、ハルの座っているソファーの隣に座る僕。


「昴君・・・・。」

 ハルは大きく抱きしめてくる。


 その瞬間、覚悟を決める僕。

 ハルの背中に両手を回して、深呼吸する僕。


「ねえ、ハル。ひょっとしてだけど・・・・・。」

 僕は恐る恐る、聞いてみる。


「うん。全部、全部知ってる。私の、身体のこと。病気のこと。わかるもん、叔父さんも、お父さんも、お母さんも、そして、昴君や皆も、嘘つくの下手すぎだから。」

 ハルは涙を流しながら、さらに、きつく腕を回し、僕を抱きしめる。


「そっか。」

 それしか言えない僕。とても悔しい。僕は少し深呼吸する。


「怖い?」

 僕の質問にハルはこくりと頷く。

「そうだよね。」

 僕の腕も、さらにきつくハルの背中に回っている。


「でも、すごく不思議な気分。怖いけど。私がやりたいことは全部、全部、叶ってるから。きっと、その時、後悔しないんだろうなって。」


 ハルの瞳には涙と笑顔が同時にあふれる。


「ありがとう。昴君。」

 ハルの言葉。本当に力がある。


「僕も嬉しい。お礼を言うのは僕の方。高校受験で、大変な目に遭っているときに、ハルと、君の伯父さんに救われた。僕も、今が一番楽しい。」

 僕はハルに向かって言う。

 ちゃんと伝わったか、わからないけど、それでも今できることを精一杯、伝えられることを精一杯、ハルに伝えたつもりだ。


 ハルは、首を横に振る。

「ううん。お礼を言わないといけないのは私。ありがとう。」


 そして。

「ねえ、昴君。私の、最後のお願い、叶えてくれる。」

 ハルは顔を近づける。

 何をしたいかはっきりとわかる僕。


 黙ってうなずく僕。そうして、お互いの唇を重ねる、僕とハル。


「ねえ、お願い、最後まで・・・・。してくれる?」

 ハルは僕の瞳を見て言う。

 断る理由なんてなかった。これが、生きるということなのだから。愛する人と精一杯生きる。


 僕はこくりと頷き。ハルの身体を愛撫する。

 撫でれば撫でるほど、愛おしくて涙が出る。


 ハルの身体は本当に女性らしい身体だった。

 丸み帯びたスタイル。そして、胸元もしっかり膨らんでおり、弾力もある。


 それを感じる度に涙が出てしまう。

 本当に、この子は病人なのかと。しかも、かなり重い病気を本当に患っているのかと。


 ハルの身体は大人の女性へと、成長している。確実に、本当に確実に。


 まるで、やがて迫りくる、その時に、負けないように。一生懸命に。


 そうして、お互い着ている服に手をかけ、脱がしていく。

 生まれたままのハルを見て、さらに涙がこみ上げる。


 迫りくるその時に負けない、綺麗な大人の女性をしたハルの姿が、そこにあった。


 僕の涙が頬を伝い、ハルの身体に落ちる。


「どうしたの?昴君。」

 ハルは僕の瞳を覗き込む。

「うん。とても綺麗。大人の女性で、素敵だよ。ハル。」

「ありがとう。昴君も、バレエやってるからかな。男らしくて、好き。」

 ハルは僕の、涙でぬれた頬と目元に、唇を当ててくれた。


「ありがとう。ハル。」

 僕の言葉にハルは首を振った。

「私も、ありがとう。」

 両腕を回して、お互いにキスを交わす。


 その後のことは、言うまでもない。

 ハルの願い。愛する人と、精一杯生きる。それがかなった瞬間だった。


 そして、今夜は二人で一緒のベッドで眠るのだった。









今回もご覧いただき、ありがとうございました。

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