2.変わりゆく景色
中学校の校門を出て、僕たちは西日を浴びながら、僕の住んでいる町、北関東にある、【雲雀川市】の町に出て行く。
ここは昔からの住宅街が立ち並んでいる場所だったが、一年くらい前から至る所で、土木工事が始まった。
「本当にすっげー。」
岩島は持っているカメラで、この時期にしか撮影できない景色、建設現場の風景を写真に収めている。
「マジでスゲーよな、総理大臣って。」
岩島は興奮しながら、カメラの撮影ボタンを押した。
そう、この時の総理大臣は僕たちの地元から選出された人で、僕たちの地元出身者だった。
そして、現在ほど裏金が問題視されない時代でもある。
しかしながら、当時も。
そんなに、与党の世襲ばっかりで、選挙はつまらないでしょう?
有権者の皆さん、不満があるなら、正しい選択を。という声は当時からあったが、保守王国と言われる場所のメリットももちろんある。
むしろそのメリットの方が大きい時代だったし、そのメリットをそういう人達に伝えて、納得させられることができるのだった。
それがこの、“土木工事”というヤツだ。
大きな企業の工場、スポーツ施設、公共施設などなど、次から次へと建物が建設されていく。
今回は、地元から総理大臣になったということで、この場所は本格的な土木工事がたくさん行われている。
今回は何を作っているかって。
それは、マンションだ。
<新幹線利用により、ここ、北関東からも東京通勤が通えるようにします。勿論、そのような人達の補助金を出します。>
そんな感じの発言をテレビで言っていた。
他にも、ここに引っ越せるように、企業の工場の誘致を斡旋したり、色々と積極的に居住者を増やしていく政策を投じていた。
そういうわけで、僕の地元は今、マンションの建設ラッシュだった。
「知ってるか?吉岡?」
岩島が僕に聞いてくる。
「何が?」
「来年は、俺たちの学年、二クラスも増えるらしいぞ。来年の今にはマンションがバンバン出来てて、引っ越して来る奴らも沢山いるんだって。」
なんと、二クラスも。
僕は一気に驚く。
「そういえば、もう出来ているマンションもあるから、来週から転校生が各クラスに増えるらしいぞ。しかも一人じゃなくて、二人くらい増えるクラスがあるって噂だぜ。」
確かに、ここの近くで、既に出来上がっているマンションがいくつかある。
「すごい。本当にヤバいなそれ。」
「ああ、マジでスゲーよな。」
確かに大きなマンションがこう、何棟もできれば、自然とそうなる。
実を言うと、鍵山に絡まれたくなかったので、教室を早めに出てきた。
そういうわけで、僕のバレエのレッスンまではまだまだ余裕がある。
僕は少しだけ、岩島に付き合うことにした。
「少し、寄り道しよう、岩島、鍵山に絡まれたくなかったから、早めに教室を出てきたせいで、まだ、バレエまで、時間がある。」
「おおっ、そうか、ありがてえ。」
そうして、少し寄り道する僕たち。
といっても、岩島に付き合うだけで、その岩島の寄り道は、建設中のマンションの風景を一つ一つ、写真に収めていくのだった。
「記録を残すのも、俺達写真家の、大事な仕事だからさ。」
岩島はニコニコ笑いながら、写真を撮っている。
実は、僕もその建設現場の風景が好きだったりする。
人の流れを見たり、クレーンが運んでいるものを見たり。
出入りするトラックを見たり。
「ここもかぁ。」
そう言うのを見るのが、好きな僕だろう。あることに気付く。
「え?」
岩島がどうした、という顔をする。
「いや、ここも【安久尾建設】が作ってるなぁって。」
「ああ。本当だね。多いよな。」
岩島が頷く。
そして、ひっきりなしに建設現場を行き来するトラック。
安久尾建設の車は勿論、この町で有名な二つの運送会社、【瀬戸運送】と【さかやま運送】のトラックがひっきりなしに建設現場を行き来した。
そして、安久尾建設の車のナンバーを見る限り、どうやら、東京の方の会社らしい。
「へえ。東京の方の会社なのかな?」
僕は岩島に車のナンバーを指さす。
「すげぇな。東京の方から来ているのかよ。ご苦労なこっただぜ。」
岩島はニコニコ笑いながら、そのトラックや車の流れも写真に納めていく。
これも、今しか見られない、建設現場の風景だ。
そんな会話を岩島とやりつつ、岩島は写真を撮りつつ町を歩いていた時だった。
「うぇ~ん。うぇ~ん。」
どこからともなく、誰かが泣いている声がする。
「何だろう?」
「誰かの泣き声だよな。」
僕と岩島は声の主の方へと走り出す。
泣き声の方向を頼りに、T字路を右に曲がると。そこには・・・。
小さな女の子が声をあげて泣いていた。
どうやら転んでしまったらしく、足が道路の側溝にハマっている。
膝からは少し血が出てて、擦り傷を作っている。
「大丈夫?」
「どうしたの?」
僕と岩島が声をかけて女の子の元へ。
「えっ、えっ、くすんっ、くすんっ、お、お空見てて、いろんなところ見たら、転んじゃったの。く、靴が、濡れて、新しい。靴だったのに。くすんっ、くすんっ。」
「大丈夫?それは大変だったね。」
僕が女の子に手を貸して、側溝から助け出す。
お気に入りだという靴は、ビショビショだ。
どうやら、側溝には泥水が混じっていて、ビショビショでかなり汚れにまみれた靴になっていた。
「うぇ~ん。うぇ~ん。」
女の子は涙が止まらない。
「大丈夫、お兄ちゃんが、靴を、公園で洗ってあげるから。」
僕は女の子に声をかける。
「おいおい、吉岡、ダメだって。そういう時はな。」
岩島がノリノリで、声をかける。
そして。
「はい。キャンディ。美味しいよ。」
岩島がポケットからキャンディを取り出す。なんと、いつの間に。
キャンディの袋を見ると、女の子は機嫌がよくなり。
「あ、ありがとう。」
そういって、キャンディを受け取る。
「あっ、そうだ。」
僕は持っていたティッシュで、出血している擦り傷の個所を押し当てる。
「少し痛いかもだけど、血が止まるまで、押さえていようか。大丈夫?」
「・・・・・うん。」
女の子は弱々しいながらも返事をした。
そうして、応急処置ではあるが、ティッシュで膝を押さえ、持っていたセロテーブで固定したのだった。
そうして僕と岩島は女の子の汚れてしまった靴を洗うため、公園へ向かうのだった。
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