17.鍵山再び
「親父、どうにかしてくれよ。」
雲雀川市の高級住宅街の一角、鍵山邸。
鍵山耕治は父親に向かって頭を下げていた。
「う~ん。」
少し考えこむ、鍵山の父親、【鍵山浩一郎】。
鍵山浩一郎、この地域で二十年以上、県議会議員を務める人物。
「どうしたんだよ。親父!!親父だって、オカマの変態男子は、嫌い、とか、困るとか、言ってたんじゃねえかよ。」
鍵山は必死に父親に頭を下げる。
「確かにそうなんだが。耕治、今回は難しいかもしれない。」
「なんでだよ。」
鍵山耕治は不満そうな顔をしている。
「周りに転校生が多いということが、ハイリスクなんだ・・・・。」
「いいじゃねえかよ。そんくらい、古いしきたりを破るとこうなるって。教えてやりゃあ。」
若干言い争いに発展しそうな、鍵山親子。
父、浩一郎は、これ以上の言い争いは避けたいと思い、少し考え。
「わかった。まあ、学校の先生たちも味方してくれている立場だし、大丈夫だろう。」
浩一郎は、ふうっとため息をついて、椅子に座る。
鍵山耕治は心の中でガッツポーズ。
「だがな。条件として、お前の言う、変態バレエ男子とその友達全員は出来ない。そして、耕治。高校で、猛勉強して、努力すると誓えるか?」
「ああ。勿論だ。」
父の強く念を押した言葉に、大きく頷く。
「わかった、これが最後だぞ。」
浩一郎は大きく頷いた。
冬休み。そして、年明け。
僕たち中学三年生は、いよいよ高校受験の本番だ。
僕もバレエのレッスンの合間を縫って、勉強した成果を存分に発揮する時が来た。
だが、しかし。
結果は、不合格ばかりで、合格という文字が無かった。
そんな。確かにバレエのレッスンはしていたが、内申はそんなに悪くないはずなのに・・・・・。
そして、それは、ヒロも同じだった。
「ヨッシーも高校決まってないのか。どうする?」
「本当に。どうしよう・・・・。」
僕はお互い励ますしかなかった。
因みにだが、ハルは年明け以降、学校に来ていない。
叔父の茂木博一先生曰く、少し長引くという。
一体どうしたのだろうと心配するが、とにかく、今は自分の心配が優先だし、そうしなければならない時期だった。
それを遠目でにやにやと笑いながらこちらを見ている鍵山の姿に気付かない僕が居た。
「変態バレエ野郎、悩んでますね。」
鍵山の取り巻きの一人が言う。
「そうだな。すべてのお返しだ。そして、アイツが転校してきてから、俺も、いや、俺達、そして、先生方のポジションが悪くなったんだ。たっぷりお返しだ。内申書がバンバン改ざんされているからな、痛い目を見ていろよ。」
そう。鍵山達は密かに準備していたのだった。
ヒロが転校してきてから、鍵山達のクラスのポジションは落ちていった。そして、学年が進級して、転校生の割合が多くなっていると、ますます、鍵山達は黙ることしかできなかった。
おまけに、ヒロが転校してくる前、僕への嫌がらせは教師たちまで加担していた。
彼らの不満もたまったものじゃなかった。
そう、鍵山達の復讐は成功していた。
だが、僕はそれに気づかなかったのだった。
それでも必死に、併願校を増やすなどして、対応していった。
しかし、それでも駄目だった。
県外の高校も視野に入れてもやはり駄目。
「昴、一体どういうことよ。高校一つも受からないなんて。」
母親の和子はそわそわしていた。
やはり、バレエ教室の責任者と同時に僕の母親。せめて、高校は受からないと、という思いは人一倍強い。
高校に落ち続けている原因がわかったのは、ようやくヒロの高校が決まった時だった。
「ヨッシー。ちょっといい?」
ヒロから相談される形で、話題を切り出した。
「結論から話すけれど、私、高校決まった。」
ヒロの言葉に僕は嬉しそうに拍手をする。
「それでね。行く高校は、妹のユリと同じ、花園女子学園の高等部。」
ヒロは真剣に言う。そして。
「実はね。受験の時に面接があって、そこで、内申書を改ざんされているのでは?って気付いたんだ。万引きを繰り返したり、部活での素行が悪いって。教科の成績も悪くつけられているみたいなの・・・・。私は、妹のユリが中等部に居たから、花園学園の先生たちが、これはおかしいと気付いて、ユリの担任の先生に話して、ユリに、私のことを聞いてくれたようなの。」
ヒロの言葉に僕が驚いたのは言うまでもない。
「まさか。」
「うん、そのまさか。アイツだよね。」
ヒロは、鍵山の席の方を見る。
「鍵山・・・・。ここに来て。確かに、アイツの権力を使えば・・・・。」
ヒロが転校してきて以来、どうも静かにしていると思ったら・・・・・。
鍵山と取り巻きたちの権力は、まさに用意周到だった。
ヒロ達が転校してくる前まで、僕は確かにいじめにあっていた。
しかも教師まで加担した悪質な。
しかし、ヒロやハル、そして、アキたちが転校してきて、その状況は一変することが出来たのだが。
虐めていた相手は、県議の息子と、教師たちという権力者。
鍵山の取り巻きたちも、ほとんどが、地元の企業の社長の息子である。
今まで受験した高校は、少なくとも、内申書、つまり、調査書が絶対に必要だ。
それを、悪い方へ改ざんされるとなると・・・・・。
そうなれば、行ける高校は一つしかない、一つしかないが無理だ。
その高校の名前は、花園女子学園高等部。ユリを頼って、ヒロとユリに説明してもらって。ということが出来たのかもしれないが。
そこは文字通り、女子校だ。
さすがに、女子校へは入学は出来ないだろう。
僕たちが、考えている、ちょうどそこへ、鍵山が教室へ入ってきた。
ヒロは一目散に、鍵山の方へ向かう。
「ちょっと、鍵山、ヨッシーの高校決まらないんだけど、アンタのせいで。」
ヒロは鍵山に噛みつく。
「はあ?何のことだ?」
鍵山はそう言うが、どう見ても、嘘をついているのがバレバレ。
「とぼけるなよ!!」
ヒロはさらに口調が強くなる。
「さあ、お前が、お前たちが、バレエを続けていて、受験がおろそかになっただけじゃねえの?」
鍵山はにやにやと笑う。
「ふざけないでよ。」
ヒロはさらに飛びつこうとするが、僕が全力で止めた。
「やめろ。ヒロ。強く当たったら、お前の立場が悪くなるだけだ。向こうが白状しない限り、俺たちは不利だ。」
僕はヒロを止めた。
ヒロは振り切ろうとしたが、自分の立場が悪くなるということが頭をよぎり、すぐに抵抗するのを止めた。
「ふんっ、それでいいんだよ。まあ、今回は見逃してやらあ。それに、もう、中学卒業すればお前たちと会うこともないだろうし。変態バレエ星人は、一生、高校へ行けないかもな。まあ、父上に逆らえばこういうことになるし、今から父上に頼んで、バレエ辞めますって言えば。高校行けるかもな。まあでも、今から受けられる高校は公立しかないか。あっ、でも、お前の素行の悪さからすれば、それも無理か。じゃあな。」
鍵山はそう言って、荷物をまとめ、僕たちの元から去って行った。
今の言葉で、僕とヒロは確信した。
間違いなく、鍵山たちが絡んでいる。
しかし、僕の力ではどうすることもできなかった。
鍵山の言うように、まだ公立高校の受験がある。しかし、内申書を改ざんされている以上、公立も厳しい。
公立高校であれば、内申書や調査書の書類の比重が圧倒的に高くなる。
改ざんされた内申書を提出して、受験となると・・・・・。
因みに、私立はどうかと言われても、やはり私立高校も調査書を提出する場合がほとんどだ。
そうなってくると・・・・・。
ふうっ。と、ため息をつく僕。
どうしたらいいのだろう・・・・。
ヒロとそう考えながら、僕たちも教室を出て、そして、今日もバレエ教室に向かう。
バレエ教室に着くと、茂木先生の姿があった。
「やあ、吉岡君に原田君。こんにちは。」
茂木先生はニコニコと笑っている。
「「こんにちは。」」
僕たちは声を揃えて、挨拶をする。
そして、茂木先生は、大きく頷き、少し真剣な顔をする。
「今日は二人にもお話したいことが合って、来たのだけれど、時間があるかな?そうだなぁ。藤田さんのお姉さんと、写真の岩島君も呼んでくれると助かるのだけれど・・・・。ああっ、藤田さんの所はお姉さんだけで、妹さんには話せないことだから・・・・。」
茂木先生は僕たちに向かって頷いた。
僕は頷き、母親から、バレエ教室の電話を貸してもらい、岩島とアキに電話をかけた。
二人とも、このバレエ教室に来てくれるそうだ。
そして、二人を待っている間、僕たちは、先に、茂木先生の目の前の、バレエ教室の入り口のソファーに腰かけたのだった。
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