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15.岩島とアキの最強バッテリー

 

 さて、夏休みが明け、ハルたちがこの学校に転校してきて、一年を迎える九月のひと時。

 この夏休みは、茂木先生の海以外は、全て、クリスマスコンサートの練習と、高校受験一色だった。


 そうして二学期が始まり、いよいよ、中学三年の校内合唱コンクールの練習、本番が始まるわけだが、僕たち三年二組は、やはり僕が指揮をすることに、しかしながら、今年も、鍵山とその取り巻きたちが、練習の邪魔ばかりする。


 しかし、そんなことは気にせず、指揮を振っていく。

「大丈夫だ。ヨッシー!!アタシがいる。」

「はい。私もいます。頑張りましょう。」

 ハルとヒロはそんな感じで僕を励ましてくれ、転校生も多くあってか、鍵山のことは気にせず、僕は堂々と指揮を振ることにした。


 しかし、それが、鍵山の気に食わなかった。

 鍵山は、僕に対して、密かに闘志を燃やしていたのだった。しかし、それを知るのは少し先のことである。


 僕のクラスの合唱の練習はそんな日々が続いていたのだが。


 それとは対照的に、隣の三年三組は大きく盛り上がっていた。


 自由曲、『青葉の歌』、指揮、岩島大樹、伴奏、藤田晶子の組み合わせ。


 岩島は指揮でかなり苦戦しているようだ。

 この曲は拍子が難しい。


「助けてくれ。吉岡。結構、リズムの取り方とか難しい。」

 岩島が頼んでくる。

 しかし、彼が本当に頼んでいるのは、リズムの取り方ではなさそうだ。


「折角、僕が指揮なんだ。アキさんに少しでも。」

「ああ。勿論。まあ、僕も楽譜を読むのは苦手なので、アキさんに頼んで。」

 岩島が片思いしている、アキ、伴奏の藤田晶子に少しでもいいところをと思っているのだろう。


 そうして、僕は簡単に、リズムの取り方を教える。

 岩島は、リズムの取り方、指揮の振り方を少しずつではあるが、ステップアップしているようだ。


 だが、僕ができるのはここまで、後は、ピアノ伴奏のアキにお願いして、教えてもらうしかない。


 そうして、僕の仲介のもと、岩島の指揮指導を、アキにバトンタッチすることになった。


「とりあえず、リズムの取り方は僕でも教えられましたが、楽譜が・・・・。」

「わかりました。吉岡さん、任せてください。私も、岩島さんが指揮なら心強いですし。喜んで、伴奏を引き受けた経緯がありますので。」

 アキがニコニコ笑う。

 その笑顔に一緒に居た岩島はドキッとなり、彼女に釘付けとなる。


「よ、よろしくお願いいたします。アキさん。」

「はい。よろしくお願いしますね。岩島さん。」

 アキはニコニコ笑っていた。


「とりあえず、細かいところは私がサポートします。難しいのは最初だけで。慣れてくれば、感覚で振れますから。」

 アキはニコニコ笑いながら、早速、伴奏を弾いていく。


 岩島はアキの伴奏に頑張ってついて行こうとしている。

 本当は、指揮者が伴奏者をリードしなければならないのだが、最初はそんなものだろう。


 因みにだが、岩島は、アキが伴奏をするなら、僕が指揮したいと、指揮者を買って出たのだ。

 本当に、相思相愛。


 そして、日を追うごとに、岩島の指揮は一気にレベルが上がって行った。

 僕は教室のドア越しからその様子を見ていた。


「すごいです。岩島さん。こんな短期間で。」

「いえいえ、アキさんが教えてくれるおかげです。この時間が一番楽しかったりします。」

 岩島はニコニコ笑う。つられて、アキも同じ。


 しかし、曲の冒頭部分が少し難しいようだ。


「ここは、回数を重ねましょう。難しいのはそこだけです。」

 アキがニコニコ笑う。


「はいっ。」

 岩島は一生懸命だった。その緊張した岩島を安心させるため、アキは言葉を選びつつ、ピアノ伴奏をしていた。


 僕は隣のクラスだが、その姿勢をいつも見ていた。

 むしろ、自分のクラスを棚に上げて、岩島たちを応援している僕が居た。

 僕のクラスの合唱は、おそらく、鍵山と取り巻きたちのせいで、きっと、散々な結果になることが目に見えていたから。


 そして、中学三年の秋のこの時期、校内合唱コンクールの日がやって来た。


 中学一年のクラス、二年のクラスの発表が無事に終了していく。

 しかし、例年に比べると長い。

 やはり、今年は転入性が多く、クラスの数も増えたので、少し長めだ。


 そして、中学三年の演奏に入る。


 二クラス分の演奏が行われ、三クラス目の演奏。そう、三年三組の演奏。

 『青葉の歌』、岩島大樹の指揮、藤田晶子の伴奏。


「頑張れ!!岩島っ。」

「岩島さん、アキさん。」

「行け!!岩島。男ならガツンと。」

 僕とハル、ヒロの三人は固唾をのんで岩島を見守る。

 因みにだが、ハルとヒロも、自分のクラスの合唱をそっちのけで、岩島たちを応援していた。


 そう、鍵山達から妨害されて、散々な目に合うと僕たちは分っていたから。


 岩島が大きく両手をあげ、アキの伴奏がスタートする。


「す、すごい。岩島。」

「へぇ。やるじゃん。」

「すごい、すごいです。叔父さんみたい。」

 僕たちは岩島の指揮に見とれていた。


 彼の指揮は腕を大きく振り、この曲の雄大さ、素晴らしいメロディーを一気に奏でている。


 写真家、岩島大樹。僕のバレエだったり、茂木先生の指揮を見て、写真に撮っていたからだろう。

 すべてを見て、全てを記録した、岩島だからできる技。

 いろんな指揮者の動き、そして、僕のバレエの動き、特に腕から指先までの動きを真似している。

 しかし、その真似が、彼の中ですべてを取り入れた動きだった。


 岩島のダイナミックな指揮に、クラス全員の表情、そして、アキのピアノが楽しく歌っている。


 そうして、岩島たちのクラスの演奏は、岩島の精一杯の指揮に心からの大きな拍手で幕を閉じた。


 そして。

 金賞、三年三組。最優秀指揮者賞、岩島大樹。最優秀伴奏者賞、藤田晶子。

 審査員の文句なしの満場一致だったという。


 因みに、僕たちのクラスの結果は、案の定、散々だった。


 しかし、散々な結果は目に見えて分かっていたので、クラスの反省会と、ホームルームが終わったら、すぐに隣のクラスに行って、岩島を祝福したかったのだが。


 隣のクラスには、今回の殊勲者、岩島とアキの姿は無かった。


 隣のクラスのホームルームは既に終わっていて、クラスの生徒たちは金賞の喜びに浸るものも居たのだが、既に、部活等があるため、下校している生徒もいたのだった。


 僕たちは、すぐに察したのだった。

 おそろく、岩島は・・・・・。



 一方の岩島は、校舎裏にアキを呼び出して、大きく深呼吸をしていた。


「アキさん。そのっ、ありがとうございました。色々、教えてくれて。」

 岩島はドキドキしながら、大きな声でお礼を言う。


「こ、こちらこそ、ありがとうございます。貴重な体験でした。」

 アキも少し顔が赤い。


 この、合唱コンクールの練習期間。二人は一気に仲を縮めた気がするのだった。


「あの、アキさん、アキさんが居なかったら、俺、ダメでした。」

「は、はいっ、私もです。」

 アキは岩島の言葉に顔を赤くしながら応える。


「あ、アキさん、俺、ずっと、隠してきたことがあります。」

 岩島は勇気を振り絞る。そして。


「その、去年、公園であった時から、お姉さんの優しさなのでしょうか。そんなものに、僕は惚れました。その、好きです。付き合ってください。」

 岩島の告白。そして、アキに向かって、手を差し伸べる。


「えっ。」

 一気に顔を赤くする、アキ。

 そして、アキは深呼吸をする。


「あ、あの・・・・。ありがとうございます。」

 アキは、どうしたら、良いかわからない。わからにけれど。


 岩島の、差し出した手をそのまま握るアキの姿があった。

 アキはおそらく、自分の頭よりも、自分の身体が先に動いたのだろう。


「えっ。」

 岩島は、アキの手の感触に思わずドキッとする。


「そ、その、私、どうしたら、良いかわからなくて。でも、岩島さんが居なかったら、新しく転校してきた、この学校の生活、どうなってたかわからないので。もしかしたら、転校生ということで、虐められてたかもしれません。クラスで孤立していたかもしれません。現に、去年、吉岡さんのクラスでは孤立しそうになりました。そこに、手を差し伸べてくださったのは、い、岩島さん、吉岡さんでしたから・・・・。その、う、上手く言えませんが、ありがとうございます。私を、見つけてくれて。」

 アキはそう言って、岩島にはっきり伝えた。


「アキさん。ありがとうございます。」

 岩島は思わず、両腕をアキの背中へ回す。


「こちらこそです。」

 アキもそれに反応して、彼女の両腕を岩島の背中へ。



「ヨッシャ―。」

 ニヤニヤしながら、静かにガッツポーズをするヒロ。

「よくやったぞ。岩島。」

 心の中でつぶやく僕。

「すごくドキドキします。私と、吉岡さんみたいに。」

 ニコニコと笑うハル。


 そう。僕とハルとヒロの三人は、校舎裏での岩島とアキの姿を目撃していた。

 凄く大切な場面とすぐさま察して、遠目越しにそれを見ていたのだった。


 それは本当に微笑ましかった。




今回もご覧いただき、ありがとうございました。

少しでも続きが気になりましたら、下の☆マークから高評価とブックマーク登録をよろしくお願いいたします。

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