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14.茂木先生の別荘にて

 

 中学三年の一学期はまさに平和そのものだった。

 ヒロのおかげで、鍵山達からの嫌がらせは全くと言っていいほど、皆無だった。


 そうして、目まぐるしく中学三年の一学期が終わり、夏休みへ。

 高校受験のための勉強をする傍ら、今年のバレエ教室のクリスマスコンサートのための準備と大忙しだった。


 このクリスマスコンサートに向けて、毎年、夏に合宿を行うのだが。

 今年はメインステージ、『ロミオとジュリエット』の練習が一番大きく合宿の割合を占めていた。


 今までで一番大人数の合宿で。

 オーケストラの人達との顔合わせ、さらにはハルや茂木先生も合宿に来て、実りある充実した合宿になった。


 そんな時に。


「吉岡君に、原田君。」

「「はいっ。」」

 僕たちは茂木先生に呼び止められる。


「もしもよかったらなんだけどさ。一緒に、海でも行かないかな?学校の成績も悪くないと聞いているし、高校受験に対応できる成績とも聞いている。バレエやそう言った勉強の息抜きも兼ねて。どうだろう?一日、二日くらい、春菜と私と一緒に出掛けないかな?ああ。勿論、二人のお友達、写真を撮ってくれてる岩島君と、ピアノの藤田さんも誘ってさ。結構大きな車をレンタカーするから。皆乗れるよ。」


 ということで、茂木先生は、大きなワンボックスカーをレンタカーで借りて、僕たちを海に連れて行ってくれた。

 一緒に居るのは、僕、ハル、岩島、アキ、ヒロ、ユリ、そして、美里ちゃん。

 茂木先生を入れて、合計八人。


「あの、ありがとうございます。」


「いいよ。いいよ。皆と仲良くしてくれているから、お礼さ。」

 茂木先生は車を運転し、高速道路を一気に走らせる。


 真剣に運転しながらも、ニコニコと笑っている茂木先生。


「さあ。海だよ。」

 茂木先生の言葉。


「「おおっ。」」

 その言葉に真っ先に反応する僕と岩島。


「すごいはしゃいでいるな、二人は。」

「は、はい、すみません。僕の地元だと、海という言葉だけで憧れますので。」

「そ、そうです。本当に、連れて来て頂き、ありがとうございます。写真撮らせてください。」

 茂木先生の言葉に僕たちは少し恥ずかしくなる。


「ハハハッ。楽しくて何より。僕も実ははしゃいでたり。北関東だと海から遠いよな。」

 茂木先生はニコニコ笑っていた。


 一方女性陣はというと。


「すご~い。」

「きれ~。」

 と見とれている、アキとユリ。


「うわぁ~い。」

 と僕たちと同じように、ニコニコ笑っている美里ちゃん。


 そして。

「おおっ、元気じゃん皆。良かった。」

 海よりも、僕たちの反応が面白く、ニコニコ笑い親指を立てるヒロ。


 そして、ただただ、窓越しにじっと、海の大きさ、コバルトブルーの綺麗な水に見とれているハルの姿があった。


 そうして、海を見ながら、車はしばらく走り続け、やがて信号を曲がって、高台の方へ向かう。

 その高台へ向かう途中、白い家の前で、茂木先生は車を止めた。


「さあ。ここだよ。」

 茂木先生はニコニコ笑う。


「ここは、私と、私の親戚、つまり、春菜の両親が使っている別荘なんだ。」

 茂木先生は大きく頷く。


 茂木先生の言葉、本当にすごい。

 なんと、別荘を持っているなんて。


「あのっ、ありがとうございます。」

 僕は茂木先生に頭を下げるが。


「おおっ、吉岡君、さては、別荘といって、かしこまっているな。そしたら、こう言おうかな、ここは、元々僕の実家だよ。つまり、ハルの祖父母の家。祖父母はすでに亡くなっているが、家は、少し新しいので、残してあって、別荘として使っている。」

 なるほど。そう言うことか。

 少し肩の荷が下りる僕。しかし、それでも、茂木先生に連れて来てもらったのは変わりなく、感謝の気持ちである。

 だが、その下りた肩の荷も、すぐにまた持ち上がることになる。


 そう、茂木先生の別荘の敷地に入れば、何とも綺麗で、高級感が漂う。

 さらには、庭に野外プールまである。

 白を基調とした、外装は、まるで、どこか、南の国にいるみたいで、海の傍にぴったりの家だった。


 中に入ってみると、中のデザインもそうだ。

 窓の外から海が見える感じで建てられている。


「はははっ、やっぱり緊張しちゃったか。」

「はい。」

 茂木先生の言葉に僕は頷く。


「まあ、私の両親も、海が好きだったからね。」

 茂木先生は大きく頷く。きっと、先生の両親はかなり海やこの季節が好きだったのだろう。だから、この場所に家を建て、しかもこうしてこだわった造りになっているのは容易に想像できる。


「さあ。みんな、荷物を置いて、着替えて海に行こう。男性は一階、女性は二階で着替えようか。」

 茂木先生の言葉に、皆頷き、各々荷物を置いて、着替え始める。


 そして。

 着替えが終わり、水着姿に。

 ハルの水着姿。想像するだけでドキドキしてしまう。


「やっぱ吉岡は、良い体つきしてるよ、バレエで頑張ってるから。」

 岩島がニコニコ笑う。

 そういう岩島も、男らしい体をしている。


 そして。

 二階から着替え終わった、女性陣が出てくる。


 いつの時代も、どの時代も、海辺でのメインはこれかも知れない。


 先ずは、美里ちゃんが元気よく出てくる。

「お兄ちゃん。どうですか?」

 美里ちゃんが元気よくクルクルと回る。


「うん、とっても似合ってる。」

「美里ちゃん最高だよ。」

 僕と岩島がニコニコ笑う。


 ピンク色の少し白い翼のような模様が描かれている、子供用のスク水タイプの水着だが、美里ちゃんにピッタリ、フィットしている。


「てへへっ。」

 と楽しそうに、笑う。


「こら~。美里。危ないから走っちゃダメ。あっ。」

 その美里ちゃんのすぐ後に出てきた、美里ちゃんの姉のアキ。


 僕と岩島と目が合う。

 美里ちゃんと同じような色柄で、白の刺繍が施されている、ビキニだった。


 アキは、男性である僕たちに見られるのが少し恥ずかしかったのだろう。

 少し顔を赤くしながらも、恥ずかしそうにこちらを見る。


「すごく綺麗ですよ。」

 僕が言う。そして、岩島に何かを言うように促す。


「は、はいっ。凄く可愛いです。アキさん。ドキドキします。」

 岩島は顔を真っ赤に染めて、緊張したが、はっきりと聞き取れる声で言った。


「ふふふっ、ありがとうございます。」


 続いて、原田姉妹が出てきた。

 姉のヒロは、黒いレイヤードタイプのビキニだった。布の多い水着と、布の少ない水着を重ねているものだった。

 妹のユリは、青と白のチェック柄なのだろうか。こちらも可愛いビキニ姿で登場。


「どうだ。ヨッシー?」

 ヒロが得意げになって聞いてくるので、僕は大きく頷く。

「似合ってる。流石、バレエやってるだけのことはある。」

 僕はヒロに言うが。


「お前もな。ヨッシー。」

 ヒロはニコニコ笑ってそう返した。


「ユリも凄く可愛いよ。」

「はいっ、ありがとうございます。」

 こちらは少し恥ずかしそうだった。


 そして・・・。

 ハルの水着は、他のどのものよりも純白で、綺麗だった。胸元の中央にはリボンがデザインされていて、本当に綺麗なものだった。


「は、ハル・・・・。」

「お、お待たせ。昴君。どう、かな?」

 ハルは僕に聞いてくる。


「うん。とても似合ってる。可愛い。」

 僕は顔を赤くしながらそう伝えた。


「よかったぁ。ありがとう。」

 ハルは胸をなでおろす。

 その動作も、少しドキッとなる。胸元が見えているからだろうか。


「よしっ、みんな揃ったね。それじゃあ、行こうか。」

 茂木先生はそう言って、僕たちを海に連れて行ってくれた。


 夏の海は本当に楽しかった。

 皆、思ったよりも活発で、僕たちは浮き輪と、ボールを膨らまして、海水浴をしながら、膨らましたボールを投げ合う遊びをやった。


 そして、茂木先生が、スイカを用意してくれたようで。

 僕たちはスイカ割を楽しんだ。


 バレエでバランスが取れているからだろうか。

 僕とヒロが、スイカに棒をクリーンヒットさせたときは。おおっ、ああっ。と歓声が漏れたのだった。


 そうしているうちに、海の色が赤く染まる。

 それを見ていると不思議と海水浴場の、奥にそびえる防波堤まで泳いで行ってみたくなり。


「ハル。あそこまで、行ってみない。浮き輪とかで、サポートするから。」

 僕は防波堤を指さす。


「う、うん。」

 ハルは少し緊張していたが、すぐにコクっと頷く。


「大丈夫?無理にとは言わないけれど。」

「全然平気、むしろ、海、夕日に染まって綺麗だから。」

 お互い僕たちは頷く。


 そうして、夕日が沈まないうちに、防波堤へ向かった。


「おおっ、抜け駆けとは許さないぞ、吉岡。」

「そう言うことなら、私も混ぜて。」

 ドキドキワクワクしながら、岩島とヒロが駆け寄ってくるのだが。


「なになに?私も行きた~い。」

「こら美里、あなたは小さいから、お姉ちゃんと一緒に、砂浜で遊びましょ。」

 美里ちゃんとアキの会話を聞いて。


「そ、そう言うことでしたら、アキさん、僕は残ります。残ります。美里ちゃんと遊ぶの楽しいですし。」

 岩島は咄嗟にその言葉が出てきた。

「と、言うことで、吉岡、俺パス。」

 岩島はそう言って、藤田姉妹の元へ。


 そうして、僕たちは、岩島と藤田姉妹を除く、ハル、ヒロ、ユリの四人で防波堤へ泳いで向かった。


 防波堤にたどり着き、よじ登る僕たち。

「大丈夫?ハル?」

 僕はハルに聞くが。


「平気だよ。」

 ハルはニコニコ笑う。


 ヒロとユリも同じような感じで頷いていた。


 そうして、僕たち四人は防波堤の向こうを見渡す。

 夕方の茜色に染まる海。


 防波堤の向こうは当然だが、大きな波が打ち寄せる。

「海は広い。」

 僕は言う。


「ああっ、そうだな。海は広い。海の向こうの国に私たちは住んでたな。」

 ヒロが笑う。


「はい。どこまでも繋がってます。」

 ユリがニコニコ笑う。


「広い空と海の向こうのどこかに居たとしても、私たちは仲良しで居ましょう。」

 ハルがニコニコ笑っている。


「うん。そうだね。」

 僕はハルの言葉に頷く。


 何だろうか、僕はハルの両肩に腕をかける。

 それに気づいて、もたれかかるハル。


「おおっ、良いなぁ。」

「ラブラブです。」

 近くに居たヒロとユリ。


「ああっ、ごめん。」

「ごめんなさい。」

 思わず恥ずかしくなる僕とハル。


「良いってことさ。」

「はい。私も、ハルお姉ちゃんの言葉に、感動しましたから。」

 ヒロとユリはニコニコ笑っていた。


 僕たちは沈む夕日と、茜色に染まった海をしばらく見ていた。


 暗くなる前には戻らないといけないため、すぐに砂浜へ戻る。

 こうして、海水浴を楽しんだ僕たち。


 この後は、茂木先生が途中で買ってきたという、海産物を焼いたりしての夕食を食べ、夜は皆でトランプなどのゲームをして遊んだのだった。


 こうして、一泊二日の楽しい海の旅行は過ぎていき、僕たちは帰路に就くとき、再び茂木先生にお礼を言ったのだった。





今回もご覧いただき、ありがとうございました。

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