1.男でバレエは・・・・・
勇気の恋舞踊、過去編の始まりです。
初めましての方、そして、勇気の恋舞踊本編や他の作品からお越しの皆さま。ご覧いただきありがとうございます。
なかそね駿と申します。よろしくお願いいたします。
少しでも続きが気になる、面白いと思いましたら、このページの一番下の☆マークから高評価とブックマーク登録をよろしくお願いいたします。
「♪ターララララ―、ララ―ララー、ラ、ララララー♪」
『白鳥の湖』はバレエの中で有名だ。中でも有名なのは、『情景』と言われる曲の、冒頭部分。
歌うのは、良いが。
その歌っている奴は、クラスで悪目立ちする、ガタイのいい男子。
【鍵山耕治】というのが、少々問題で。
鍵山は、面白おかしく、歌いながら、盆踊りと沖縄民謡を足して二で割ったような踊を踊っている。
しかも、それを僕の机の周りをぐるぐる回りながら、鍵山の取り巻き男子たちと一緒に踊っているとなる。
「吉岡ちゃ~ん。今日もバレエのお稽古ですかぁ?」
鍵山はニコニコしながら、僕に言ってくる。
「・・・・・。さあ。」
僕は、一瞬頷きそうになるが、首を振る。
「おお、その顔は嘘をついてますね。」
「なんだっていいだろ。鍵山。」
僕は一瞬、怒りそうになるが、そこでブチギレてはいけない。
母の影響で始めたものとはいえ、続ける自由を与えられているのだから。
「まーったく、男がバレエかよ。聞いてあきれるぜ。」
「♪ターララララ―、ララ―ララー、ラ、ララララー♪」
「♪ヘイヘイヘイ♪」
鍵山はまた歌いだす。それを取り巻きの男子たちがニヤニヤと笑いながら、鍵山のフレーズに、ニヤニヤと掛け声を入れていく。
「♪あっ、そーれ、うにゃらか、うにゃらか、よーい。よーい。よーい。よい♪」
鍵山はこうして、にやにやと笑いながら、めちゃくちゃな振付をする。
「勝手にやってろ。」
僕は席を立つ。
「なんだ?この野郎!!キメエ奴。」
鍵山はこうして、席を立って教室を出て行く僕に向かってこう叫ぶ。
「吉岡がこれから、バレエの練習に行くってよ!!ヒャーッハハハーッ。いいか。」
鍵山は大きな声で張り上げ、さらに大きな声を腹の底から出す。
「男でバレエはオカマでエロくて変態男子!!」
鍵山は今日いちばんの大声で言った。
実は今日はまだましな方で、いつもだったら暴力も振るってくる。
誰かに相談したのか?って。いや、相談できない。
なんせ、鍵山は県議会議員の息子。その立場から、取り巻きの男子だっているし、おまけに教師まで僕のいじめに加担している。
因みに、県議会議員はこの県ではエリートの職種だ。
この県は超がつくくらい、保守王国と言われていて、国会議員は勿論世襲候補にいつも軍配が上がるし、県議会議員も、彼らのお膝もとで、極楽な暮らしをしているのだ。
当然、県民も、それにぶら下がっている方が楽である。
故に、大人や先生たちは誰も、僕の味方をしないし、このクラスは全員、鍵山の味方だった。
それに。今の時代こそ、いじめを認められるようになったが、この時はいじめという問題が表面化しにくい時期でもあったし、“いじめられる方に問題がある。”と認識されていた時代だ。僕が、“男でバレエ”をやっているように。
だから僕は、鍵山達に何も抵抗ができなかった。
そう。今僕がいる時代は、“平成”という元号に変わって、十年くらいの九〇年代末。二十世紀の終わりの頃のそんな時代。今から二十年くらい前だろうか。
そう言うわけで、僕、【吉岡昴】は誰にも認められない中、クラスを出て行った。
「よっ、吉岡。バレエか?」
僕に声をかけてくる珍しい人物。
「あ、ああ。岩島。そうだよ。」
「そうか。それなら、シャキッとしないと、好きなんだろ?踊ること。」
「まあ、そうだね。母さんの影響で。」
「だったら、自信持てよ、鍵山なんか気にするな、いずれ時が来れば。どうにかなるよ。」
「ありがとう。」
クラスを出れば、僕の味方は一人いる。
この人物は、【岩島大樹】。隣のクラスの生徒だ。
所属している部活は写真部で、彼の親も、写真館を営んでいる。
「俺はお前が一番いいと思う。好きなことやっている人を写真に収めるのが俺は好きだから。」
そう言って、岩島はよく、僕のバレエの発表会の時や練習の時に写真撮影に来てくれる。
「やっぱバレエやっているだろ、お前。体つきは結構、お前すらっとしてていいからさ。モデルとしても使えるし。」
岩島はニコニコ笑う。
「はははっ。それならよかった。お前が喜んでくれて。」
今日初めて、僕は笑った。
「バレエということは、帰るんだろ?俺も今日は部活ねぇから、一緒に行こうぜ!!」
岩島の誘いに僕は頷き、岩島が荷物をまとめるのを待って、二人で一緒に、通っている中学校の校門を出たのだった。