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振り向けば、君がいた。  作者: 菩提樹
中学2年生編
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山野中体育祭!~準備はつらいよ・後編~

 日誌を届け、その帰りに梨本先生リポーターと遭遇し、「お、ラッキ~! 英英部の部室見てきてくれるか? ついでに閉めてきてくれ」と余計な仕事をプレゼントされた私は、バタバタ走るように歩く生徒たちと廊下ですれ違った。

 明後日に控えた体育祭の準備をしているらしく「廊下を走ってはいけません」という教えをギリギリの線ですり抜けている感じだ。屋外からは様々な音楽が聞こえ、色別対抗応援合戦の練習が熱心に行われているようだ。渡り廊下から見えるグラウンドではリレーの練習をしている。

 普通に歩けるようになった左足を見た。

 足の怪我はほぼ完治し、生活するのに支障をきたさない程度に歩けるようになったが、病院の先生からは決して無理しないようにとお達しがあったので、競技の参加は諦めた。もともと運動神経もいいほうではないので、むしろクラスのお荷物にならずに済むと安堵したのだが……その代わりに余計な雑用がまわってきたのは計算外だった。

 その雑用とは、体育祭サポート委員がやるべきである諸々の面倒な仕事の類、各クラスで用意しなければいけない軍旗や応援合戦で使う小物の手配である。

 本来ならば、それらはサポート委員がクラスのみんなに仕事を配分するのだが、その肝心なサポート委員2人が面倒なことを私にすべて丸投げしたのだ。結局彼らがやったのは、全員リレーの滑走順を決めたり、色別対抗リレーの出場選手と応援合戦のアイデアや人材の選出だけ。

(委員を原口美恵と交代してから一週間も経たないうちにこのザマかよ……)

 相変わらず幽体離脱気味で、力が入らないボーっとしてたような私の心にも、さすがに「怒り」という名の泉が湧きだした。そのおかげでしっかりと魂が定着し、荒井美千子見事復活!

 それにいつまでも無視攻撃で逃げるわけにもいかないので、仁王立ちの尾島に毅然と立ち向かった。


『上等やんけ、かかってこいや!』


 残念ながら、言葉なしの気合いのみだけだが、真正面から尾島と対峙タイマンに突入した。なかなかいい調子である。しかし原口がすぐにやってきて、二人仲良くピッタリ並んでいる姿を見た途端気分が急転直下。……無性に腹が立ち、代わりにイライラが急激増加!


『ちょっと! 私、サポート委員外れたんですけど? これはどういうことっ?!』


 またまた残念ながら、か弱い私にはこのような強気の意見は言えなかった。が、何も言わないのは癪なので、恐る恐る「担当を外れた私がやっていいのか」という控えめな抗議と強気の(つもり)目線でサポート委員2人に対抗すれば、反撃は倍になって返ってきた。


『あぁ?! 元々、チュウの仕事だろうがっ! 他の連中は体育祭で活躍するのに、オマエは見学じゃねぇのよ! 体育祭は皆でやるもんなんだよ、それぐらい協力しろや!』


(誰のせいで見学になったと思ってんのよっ、この下半身竹並みのエロ猿!)

 あの祭り以来、久しぶりに言葉を交わした尾島と私。

 命令口調で「協力しろ」のセリフの時には、苛立ちも最高潮。ますます反撃の炎がカァっと身体に燃え上がった。一本の導火線で結ばれた私と尾島の視線は、その役割を違えず瞬時に中央まで発火して爆発した。

 吐き捨てるように言った尾島のパワーハラスメントに対して、やつれてクマが酷い目でさらにギロリと強く睨むと、尾島は一瞬「ギクっ」と顔を歪めプイッと視線を逸らした。


『は、原口もチュウに仕事回せよっ!』


 憎い捨て台詞を残したが、負け犬のごとくドカドカと不機嫌そうに去る尾島。

 脳内で「勝ったぁ!」と勝利の拳を突き上げた後、命令だけでまったく役に立たないキ●ケシ並みの尾島に「筋肉バ●ター」をキメたところで、目を吊り上げている雌豚……いや、原口美恵が入れ替わりで忌々しそうに面倒事を追加した。


『というわけで、荒井も協力してよね! まず応援合戦だけど、我が1組に属する赤組は学ランでやることになったの。その学ランの背中の部分を装飾するから、「闘魂」という文字を金色のテープで貼ってくれる? あ、そうそう、尾島の学ランは私がやるから! そういうことで、他の人の分は荒井が学ランを回収してよ。ああ、あとクラス軍旗の件お願いね? 赤組のシンボルは鷹よ。それをこの赤い生地に書いてほしいの。内容は荒井に任せるわ。それじゃよろしく』


 尾島が命令したことをいいことに、得意げに言い放つ原口美恵とその隣で嗤っている成田耀子。当然3対1じゃ勝てる筈もなく、私は無言という形で引き受けざる負えなくなった。


 尾島たちが私に仕事を押し付けたと事後報告を受けた学級委員の佐藤君は、正義感丸出しで抗議の声を上げた。が、尾島にのらりくらりとかわされ、煙にまかれてしまう。ブキミちゃんは殺気を伴いながら生徒会としての仕事をこなしており、それどころではない。

 仕方ないと思いながらも……正直本当に困ったことになったなと頭を悩ませた。

 しかし哀れな子羊を神は見捨てなかった!

 その様子を黙ってみていた鈴木さんと田中さんが、「私たち美術部だから」と軍旗に鷹の絵を描く仕事を自ら名乗り出てくれたのだ。そして、以外にもあの本間君マイケルが書道の段持ちであることを佐藤君が教えてくれたので、学級委員の2人に付き添ってもらい、本間君の何も考えない性格に付け込むようにゴリ押しでお願いすることに成功した。

 残った学ランの件は、型の見本がすでに出来上がっていたし、学ランを回収して裏にテープを貼ればそれで済む。幸いにも奥住さんが応援合戦のメンバーに入っていたので、尾島を除く全員分の学ランを集めてくれた。ほぼ問題なく仕事が順調にいったので安心だったのだが……どうにも納得ができないというのが本音だ。

 大体サポート委員2人のあの態度、人に物事を頼む姿勢がなっちゃいない!


『ごめんな、荒井。結局仕事やらせる羽目になって』


 すまなそうに頭を下げた、隣の席の佐藤君。


『そんなことありやせん、アニキぃ!』


……ではなく。

 いつも通りどもった声だけど、尊敬&真心をこめて「兄貴と崇める佐藤君の為ならば」と、誰かさんとは大違いの態度で協力する意を伝えた。学年一モテ男の佐藤君の頼みだ、ここで快く引き受けなければ女がすたるってもんである。

 私は足の心配もしてくれたお礼も含めて、こういう時こそ普段は邪魔なEカップになりそうな谷間を寄せてチラリズム全開のサービスショット! ……などと破廉恥な行為はしなかったものの(そんな度胸もない)、中学生らしく恥じらいつつも厚子お姉様推奨である「下品に見えないお色気スマイル」をサービスした。


 女豹特殊訓練の成果を何気にお披露目する荒井美千子!


……が、悲しいことに佐藤君には効かなかった。

 お色気という名の見えない初々しいプルプルしたハートが、佐藤君の一点の曇りもない爽やかなビッグスマイルに弾かれてあらぬ方向へ飛んでいっているのが見えた。しかもあらぬ方向に飛んだハートは、佐藤君の前の席に座っている星野君にも思いっ切り弾かれていた。その証拠にチラリとも後ろを見ようとしない。

(……あ、その……あれよね? 同級生の男子にはまだ早かった、のよね?)

 ここはひとまず無理矢理自分を納得させた。だってほら、まだ2回目だし。なんといっても女豹特殊訓練は奥が深い。いくら修行を重ねた熟練者でも道のりは険しく、男の数だけゴールがあると厚子お姉様は力説していた。それを考えれば初心者マーク付きの私のお色気などはホクロ毛以下かもしれぬ。どうやら今後の課題を練り直さなければいけないようだ。


――ところがである。


 佐藤君に投げつけたお色気のハートは、星野君経由からとんでもないところへ飛んで行ったようで、どうでもよい人物に、しかも間違った方向に効果が発動されてしまった。

 しつこくも再び後ろの席、というか、佐藤君の後ろの席に落ち着いた尾島にモロ直撃し、有難くない化学反応を起こしたのだ。

 なにやら猿のいる後方8時の方角から、たちまち漂い始める不穏な黒い空気。ヤツが着ているこれまた真っ黒なTシャツに派手に描かれた『KISS』のメンバーのような髑髏顔で、『KILL』の気配をこちらに送っていた。

 まぁ、わざと尾島に見せつけるように、お色気初級編の攻撃『A・HAN(アハ~ン)』を佐藤君に発動したのだが。


『テメェ……オレの時とはえらい態度が違うじゃねぇかっ、コノヤロ!』

『当たり前でしょ! アンタと佐藤君とじゃ、月とスッポンよね、フンっ!』


 ここでも若干ニュー●イプの素質を発揮する荒井美千子。「安全地帯」という名とは無縁な、殺傷能力MAXである尾島の「熱視線」に、雄臣によって鍛え上げられた鉄壁の防御で防ぐ私の背中。

 私と尾島の間にはベルリンの壁、もしくは朝鮮半島の38度線並みの国境が聳え立っているのであった。


***


(あの類人猿めっ!)


 奴の目に余る行動がチラついてイライラする。

 ブキミちゃんよろしく、ツカツカと廊下を歩きながら尾島を悪態ついても一向に怒りが納まらなかった。

(何故あんな奴のために、貴重な放課後を使わなきゃならんの? いっそのことあの学ラン、「闘魂」の文字を全部剥がして「シスコン」と貼りかえてやろうかっ)

 廊下の突き当たりにある英語英文タイプ部の戸を、怒りに任せて乱暴に開けようとすると、扉が開かないばかりか、その勢いで指先と爪を引っ掛けてしまった。


「~~!! (つ、爪がぁ~)」


 泣きっ面に蜂よろしく、怒りと爪が剥がれそうな痛みをおさえようと暫くやり過ごしていたら、中から「キャッ」という小さな悲鳴と「ガタン!」という音が聞こえた。

(えっ?)

 目の前の扉に耳を澄ましたが、音はもう聞こえてこない。だからって無視してそのまま帰るわけにはいかない。妙な音、しかも悲鳴らしきものがしたのにこのまま放っておくのが躊躇われた。

(……中に部員がいるのかな? でも今日は活動してない筈だし。それとも、気のせい? そういえばなんで戸が閉まってるの?)

 私は戸を閉めるために来たのだが、その戸は閉まってる。けど確かに物音は聞こえた。もしかして誰か中にいるのだろうか。私は深く考えず、いたら閉めるから出て行ってもらおうと思い、鍵を穴に差し込んでそっとあけてみた。

 カラカラカラと自分の教室とは違ってスムーズに扉を開けると、フワッとした風が漂ってきた。窓も開いているから誰かいるんだと、教室を覗きこめば……。



 旗めいているカーテンの前で、不自然に立つ男女が一組――。



 『またオマエか……』


 

……などという目でこちらを睨んだのは、金髪の強面顔。衣服が若干乱れている桂龍太郎は、大袈裟なため息を吐いた。



「キン肉マン」、近所の子が我が家に集合し、テレビにくぎ付けなって見てました。素晴らしいアニメでした。菩提樹は密かに「ブロッケンJr」LOVEです。

ちなみに「KISS」はヘヴィメタの有名なロックバンドの名前です。平成生まれの子は知ってるか不安……。

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