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振り向けば、君がいた。  作者: 菩提樹
中学2年生編
88/147

君との距離は天の川よりも遠く⑪

この章は多分に過激な発言が出てきます。PG12指定とさせていただきます、ご了承くださいませ。m(__)m




『召し捕ったり!』


 雄臣は声にこそ出さなかったが、無表情のまま2人にしかわからない程度にそう唇を動かした。

 私の瞳を通り越して脳みそまで射抜くグレーの威圧的な瞳は、


「待たせてすまない、プリンセスよ!」


……という白馬に乗った王子様というより、


「身体を張って助けたこの借りは、必ず同じ代価ボデェーで払ってもらおうか!」


……などと叫びながら掻っ攫う、ガーゴイルに乗ったサタンそのものだった。

 私の全身に震えが走った。

 雄臣はそんな私を無視して急にニッコリと笑い、「間に合ってよかった」と言いながら一息ついた。恐怖の為か突然の事故にか、いまだ硬直状態にある私をゆっくり立たせた後、ポンポンと背中を叩きながら「怪我はないか?」と聞いてきた。

 私は何が何だか訳が分からないまま、なんとか頷いたまでは良かったが……震えていた左足に重心を置いた瞬間、足首に鋭い痛みが走り思わず顔を顰めてしまった。


『おい……どうした? 痛いのか?』

『あ、あの、足が……』

『足? 歩けそうか?』

『わ、わからない……』


 雄臣はしゃがみこみ、私の左足首の様子を見たが、この暗い中では詳しい状態を見ることができず、小さく舌打ちしながら再び立ち上がった。


『チッ、仕方がないな……』


 その言葉と共に私の視界はグリンという音がなるほど一転し、宙に浮いた。なんと、横抱き、いわゆる御姫様抱っこというやつをされたからだ!


『●×▲〒☆◇α&%¥っ!』

『しっかりつかまってろ』

『ちょちょちょちょっと~!』

『ジッとしてろよ。今落ちたら2人とも一緒にあの世行きだぜ。俺と仲良くお手手つないで三途の川でも渡るつもりか?』

『なっ?! じょじょじょ冗談はやめてくださいっ!』

『この状況で冗談なんか言えるか。それよりもミチ、もう少し痩せろ。いくら俺でもかなりキツイ』

『ななならっ、おろしてっ! じ、自分で降りる!』

『せっかく下まで連れて行ってやろうと思ったのに。我儘な女はいつか愛想尽かされるぞ? 俺の綿密な指導の許で、スキルアップ作戦を一から鍛え直したほうがいいな』

『お願い、お願いっ!』

『……ったく、しょうがないなヤツだな。ま、今日のところはおとなしく引き下がるか。どうやら殺気が半端じゃない坊やもいることだしな』


 雄臣はわざとらしくため息を吐いた後、静かに私を下におろし、腰を抱きよせながらゆっくり上の方へ挑戦的な視線を送った。その先には私たちの様子を固唾を飲みながら唖然と見守っていた同級生と河田中の連中がいた。見るからにいい男である雄臣と鈍臭い地味女子の荒井美千子のカップリングが意外過ぎるのか……しばらく白けたような、呆けた異様な雰囲気が薄暗い木々の間を漂った。が、この沈黙を破ったのは、心配そうな強張った顔を私の方へ向けた星野君だった。


『……あ、あの、荒井さん、大丈夫……か?』

『あぁ! もしかして君が星野君かい? 君の叔父さんから話は聞いたよ。すまないねぇ、ミチが迷惑掛けたうえに大変お世話になったようで。今後このような面倒を掛けぬよう、俺からミチにお仕置き兼しっかりと言い聞かせておくから』

『お仕置き、って……。あ、いや、そんなことどうでも……。そうじゃなくて、足、もしかして怪我』

『あぁ、ミチの怪我のことは君が心配してくれなくても大丈夫だ。俺が引き受けよう。それにこれは不慮の事故ってやつだ。大体ミチがハッキリした態度で君達のお誘いを断り、さっさと下まで降りて来ればこんな面倒なことにはならなかったんだからな。自業自得ってやつだろ。むしろ君には頭を下げ礼を言わなくてはいけないな。下駄だったらそれこそ足首がイっていただろうからね。だから君は心置きなく御友人と一緒に花火でも鑑賞してくれないか』

『…………』


 星野君の言葉は、雄臣の凄みのある棒読みのセリフに遮られた。星野君は眉根を寄せながら黙って鬼神・修羅の仄暗い眼光を受け止め、何か言おうと逡巡していたようだが、結局何も言わず口を引き締めたままだった。雄臣の言葉にますます居た堪れなくなった私は、自分が情けない上に星野君にまで迷惑をかけた事実に打ちひしがれ、目頭の辺りが熱くなるのを感じ項垂れてしまった。


『……おい、東っ! ……先輩。いくらなんでもそりゃねぇんじゃねぇのっ? チュウは別に何もしてないっ』


 星野君の代わりに口を挟んだのは、尾島だった。彼の怒りを含んだ声色と物騒な雰囲気が、伴丈一郎から雄臣へ移り、その姿に私の心臓がドキンと高鳴り反射的に顔を上げたが、彼の言葉も最後まで発せられずに途切れた。殴られていた伴丈一朗が正気に戻り、馬乗りになっている尾島を殴り倒したからだ。


『大丈夫か、啓介! おい、丈一朗も、もうやめろ!』


 星野君が叫んでも、2人はゆっくり立ち上がり体制を整えながらお互い睨み合ったままで、怒りが静まることはなさそうだった。


『啓介、テメェ~! あぁっ、クソっ! おかげで少しイッちまったじゃねえかっ。……ったくよぉ、オイラとしたことが……あ~あっ! マジもう勘弁ならねな……ぜってぇぇぇっ、ブッ殺す!』

『……チッ……上等じゃ、かかってこいやっ! 今のオレはすげぇ機嫌悪いからなっ! 徹底的にやってやんぜっ!』

『いい加減にしろ、2人とも!』


 星野君の制止も聞かず、怒鳴る伴丈一朗と唾を吐きだしながら応戦する尾島。2人が掴みかかって殴り合いを始めそうになるのを止めたのは――。


 ある女性・・の叫び声。


『ダメだよ、啓介!』


 声は上から聞こえた。

 その声で2人が怯んだ隙を狙って、河田中の連中と星野君、上から叫けびながら駆け降りてきた小関明日香によって2人は引き離され、寸でのところで事なきを得た。


 尾島啓介の背中に抱きついているのは、陽気で呑気が売り物の子リスだった。しかしいつもとは打って変わった真剣な表情で止めに入る小関明日香。


『こらぁ、離せっ! 明日香ぁ!』

『バカ! 啓介、外で暴力沙汰はマズイって! やるなら蝶子の店の中だけだよっ、約束でしょっ?!』

『あらあらあら、尾島く~ん、明日香ちゃんにかばわれちゃってぇ、うらやましいこってっ! テメェがそんな腰ぬけだとはなぁっ!』

『丈一朗もやめなよっ! 大体なんでこんなことになってるの?! どうせいつものようにバカらしいことで喧嘩でもしたんでしょ? もう、2人とも小学校のときから全然成長してないじゃんっ!』

『『うるせぇっ!』』



 突如現れた小関明日香を、私は雄臣の横でただただ見守っていた。



 彼らは相変わらず言い合いを続けていたが、少し雰囲気が変わり殺気が薄れたことだけはわかった。話の内容は、「ある言葉」以外一切私の耳には入ってこなかったが。

(……「バカらしいこと」……か。そのバカらしいことの原因に噛んでる私っていったい……)

 それに、尾島達は私に対して謝るどころか、存在すら忘れたようで、突如乱入してきた小関明日香を囲んで勝手に騒ぎ始めた。胸がザワザワするその光景は、まるで自分が最も見たくない映像のようで……。

(何故私はこんな拷問にかけられているような気持ちにならなければならないのだろう)

 小関明日香の言葉と存在がじわじわ身に染みた。咽喉がギュッと縮んで苦しくなり、自分の身体に風が通り抜けるような虚脱感に襲われた。

 もう帰ろうと雄臣の腕を引っ張り階段を降りようとした時、スッと音も気配もなくいきなり私の隣に並ぶ人影。


『……あらあら、小関明日香さん。「バカらしいこと」とは聞き捨てなりませんわねぇ。荒井さんに失礼ですわよ?』


 薄暗い木々の下に響く、不気味なハスキーボイス。

 

『このような場所で花火をご鑑賞とは、皆様変わったご趣味を持ち合わせておりますのねぇ』


 花火の光が周囲を照らし出す。そこには眼鏡をギラリと光らせ、うっすらと微笑を湛える「伏見かおり」がいた。


雄臣とブキミちゃんはストーカーだと判明した!

美千子の恐怖度が2、上がった!

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