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振り向けば、君がいた。  作者: 菩提樹
中学2年生編
83/147

君との距離は天の川よりも遠く⑥

この章は多分に過激な発言が出てきます。PG12指定とさせていただきます、ご了承くださいませ。m(__)m



(結構登ってるけど、一体どこまで登るんだろう?)


 私は星野君の背中を見た後、太鼓の音が聞こえる下の方へ視線を移した。ぼんやりと明かりが見える山野神社は、大野小学区にある「銀座通り」などという完全に名前負けしている小さい商店街を抜けたところにあった。(ちなみにその商店街の中に星野君の実家である酒屋があるらしい)

 その先を行くとさらに少し入り組んだ細い道に入り、道は緩やかな坂を上る様に続いている。道の終点には木々で覆われている山野神社の大きい赤い鳥居が構えていた。祭りの夜店は鳥居までの細い道と弊殿までの参道に並び、今私達が登っているのは弊殿の裏のさらに奥の小高い山の部分だった。この山の裏側が大野小の裏側に続いているらしい。

(……って、まだなのかなぁ。さすがにキツイなぁ)

 やっぱり星野君の誘いを断り、あのまま帰れば良かったと溜息を吐いたところで、今度は星野君の方から話しかけてきた。


「ごめん、荒井さん。俺と話しても面白くないだろ」

「……え、えぇっ?! いや、そそそそんなことはっ! ……あっ、今の溜息はそういう意味じゃなくてですねっ!」

「いいよ、無理しなくて」

「あああの、本当ですって! だだだ第一、私も似たようなモンで……って、別に星野君が面白くないと言うわけじゃっ!」

「ハハ! 別にそんな一生懸命弁解しなくても。それより荒井さんは素で面白い。行動、天然入ってるし。夏休み中、啓介や明日香と顔を合わせる度に荒井さんの様子聞いた。……ゴメン、普通に笑ってしまった」

「……は?」

「女バレって結構バスケ部やサッカー部と顔を合わせるんだろ? そんときの事、良く話すから。あの2人」


 悪いけど星野君アナタも十分天然入ってますよ的なプロ野球志望星野君プレゼンツ、超剛速球並みの「ストレート」がズドォンと私のミットに入った。お陰で今迄登って来たこの階段を踏み外すところだったじゃないか!


「…………」


 星野君が披露したとんでもない事実に、怒りのボルテージが徐々に上昇し始めた。星繋がりで星飛●馬並みの炎を瞳に宿すどころか、このまま夜空に瞬く花火になりそうなほど炎がマックスまで燃え盛っている荒井美千子。一体あの連中がどこまであることないこと……いや、ないことないことを喋っているのか隅々までチェックを入れたいところだが、その内容を星野君の口から披露されるのは拷問プレイと言わずとして何と言うのか。私はそこまでMではない。

(あ、あ、あの妖怪「ミニマムコンビ」め~! どどどうしてくれよぅっ!)

 ちなみにこの場合、「ミニ」の方が尾島で、「マム」のほうが小関明日香だ。そんなことはさておき。

 私は団扇をギュッと握り、もう少しで二つに折ってしまうところだった。いや、団扇よりバットが折れるほど千本ノックを「ミニマムコンビ」に打ち込みたい。もしくは厚子お姉様から頂いた、USA星条旗柄のビキニとテンガロンハットを装着して「Yee Haw!」と叫びながら暴れ馬に跨り、ロープであの二人をつないで「市中引き回しの刑」を執行するべきだ。ここは将来の為にも、荒井美千子自ら日米親善大使となるべく、このドリームダイナマイトコラボレーションをやっとくか! と本気で思った。


「それに先週末連日で貴子の姉ちゃんが『まるやき』に来て、荒井さんのこと言ってたし」

「えっ?!」

「先週の土曜の夜、酔っ払った厚子姉ちゃん達と会ったろ? あれ、『まるやき』で飲んでたんだよ、俺達もいたんだ。その後厚子姉ちゃん達と楽しく焼肉パーティーしたんだって? 貴子と二人でホステス……いや、もてなしてくれたって、日曜の夜厚子姉ちゃんから聞いた時はビックリした。結構名の知れたヤバイ連中ばかりだから、みんな荒井さんが相当ビビったんじゃないかって笑っ……心配してた」


 以外な方向から来た二投球目の「カーブ」な事実に、今度こそ足を踏み外してコケてしまった。



「…………」


 やっぱりヤバイ連中だったんだと、自分の目に狂いはなかったと、私は正常だったんだとということが判明した。だからといって、なんの特典にもなりゃしない。しかも星野君は誤魔化していたが、確かに聞こえた。ホステス扱いに、ビビったことを笑われた、と。どうみてもそれがまっとうな人間の反応なのに。いや、あんな連中に常識を求める方が間違っているのか。

 それにしても……あの『まるやき』に勢揃いした物騒な連中のメンツを想像しただけで鳥肌が立ってしまった。真夏なのに。ここは是非ビート●けし大先生に「こんなお好み焼き屋はイヤだ!」という形で『まるやき』を紹介してほしいくらいだ。こんな風に。



……さ、というわけではじまりました、「振り向けば、君がいた。」! 今日も張り切って「美千子メモ」やっていきたいと思います! 今日のテーマはずばりこれ! 


『こんなお好み焼き屋はイヤだ!』


 さぁ、さっそく行ってみましょう。まず初めはっ?


『赤髪ピアスのヤンキー兄ちゃんが店員だ』


 さっそくきました! いきなりヤンキー登場です。いや、これは困りますね。人に威圧感を与えるだけではありません。コイツ本当にお好み焼き焼けるのかコノヤロって感じですね。最初は爽やかにキャベツ切ってるんですがね? そのうちメンチも切っちゃってね。メンチだけでなく指も切っちゃってね。お好み焼きを食べたら指が出てきちゃった、あらビックリ仰天! なんてバカヤロ! なんてね。ま、そんな危ないことあってはいけませんがね。さて次は、


『二股かけた金髪男がいる』


 これはマズイですね。中学生の分際で二股かけちゃぁいけません。こういうヤツは一度同じ目にあった方がね、世の為ってもんですよ! 二股かけて余裕ぶっこいていたら逆に二股かけられちゃってね。身も蓋もナイなんっつって~! バカヤロ! さ、次は、


『オカマが店長だ』


 これはなんなんですかね。いや、オカマっていってもね? 華奢でキレイ系ならいいんですよ? でもね~こうガタイが大きいとねぇ、逃げ出したくなるってもんでしょ! あの身体で、「オ~カマ~ン!」なんてね、誘われたらね、縮みあがっちゃいますよ。え? ナニが縮むって? そりゃナニに決まって……バカヤロ! さ、次行ってみましょう、


『猿がいる』


 これも最悪ですね! 信じられません。大体猿ってお好み焼き食べるんですかね? え? 雑食? や、いっそのことバナナでも与えていればいいんじゃないでしょうかね? 「私、猿がいるだけにここを去る(サル)わ」なんてね! いますぐここを退散したいのはこっちですよ、コノヤロ! さて次は、


厚子アッコが酔っ払って暴れている』


 これは笑えません! グテングテンに酔っているアッコほど恐ろしいものはありませんからね。おまけにね、妙に絡まれちゃってねぇ。そんなん手下や猿で勘弁してくれよってな感じですね。それこそ手下に「アッコをおまかせ!」なんてね! バカヤロ! ……ハイ、さて次は、


『暴走族の集会所になっている』


 これは怖いですね~。普通お好み焼き屋は集会場にはなりません、ハイ。なんの為に集まってるんですかね? お好み焼き屋だけに「ヤキいれるぞコノヤロ」なんてね、全然笑えません。

 というわけでそれでは今週も張り切って「振り向けば、君がいた。」行ってみましょう~!



……という感じだ。いやいやいや、脳内コントをやっている場合じゃないだろ、荒井美千子よ。


「大丈夫、荒井さん?」

「……ななななんだか急に眩暈が……」


 私はクラクラする意識をなんとか持ちこたえた。この場合重要な点は階段をコケたということではなく、私の行動が逐一尾島を取り巻く環境に筒抜けという点の方がより重要且つ問題であった。

(ももももしや、あの女豹訓練の件も既に筒抜けとか? まさかあの時に結構ノリノリで撮影したビキニの女豹ポーズの写真まで出回ってるなんてことは……ややや、そんな! まさか、ねぇ?!)

 一人虚しく空笑いをする荒井美千子。調子に乗って被写体となったことを後悔したが、既に過ぎ去った帰らぬ日々よ。ここは「まさかあんな個人的な恥ずかしい写真、本人の許可なく人に見せるなんてしないよね~? ていうか、確かあの使い捨てカメラ、私がキッチリ回収した筈だし!」……と自分に言い聞かせ、厚子お姉様の人間性と道徳性を信じて全てを委ねることにした、その時。


「そう言えば、眩暈で思い出した。啓介が厚子姉ちゃんから何か見せられた時、鼻血吹いて眩暈起こして倒れてたな。あれ、一体なんだったんだ?」


 三投球目は、未回収の使い捨てカメラもしくはポラロイドがあったという素晴らしい「オチ」を彷彿させる『フォーク』がズバーンと決まった。美千子バッターは見逃し三振でアウト。あまりの悔しさにこっちが鼻血ブーもんだ、チキショー!

(尾島め……いっそのこと、そのまま出血多量で天に召されれば良かったのに!)

 恥ずかしさで死ねると言うのはこのことだろう。それこそ恥ずかしさなど知らぬ童心にかえり、このまま神社の境内まで「ヒャッホウ!」と叫びながら一気に滑り下りたかったが、そういうわけにもいかない。これからその尾島と顔を合わせなければならないと言う事実に顔から火が出そうなほど真っ赤になってしまった。




「……それにしても、荒井さん。今日店の前で会った時は一瞬見間違えた」




 星野君は立ち止まり、起き上がろうとした私に手を差しのべながらポツリと呟いた。自分の恥ずかしい事実で頭が一杯だった私は、急に腕を取られたことに驚き、彼の熱い手の体温にドキッとした。薄暗くて表情がわかりにくい彼の顔を恐る恐る見上げる。


「本当にビックリした」

「……ななな何が……?」


 星野君の熱っぽい視線が私に降り注いだ。

「隊員一融通が利かない無口な朴念仁」というキャッチフレーズの星野君とは思えぬ積極的な行動に、私は内心動揺しながら、「……もしや……これは告白されちゃったりするのでは?!」などと身構えてしまった。何気に星野君のことまんざらでもないんじゃん、私と逸る……というか早とちりする心にホクホク、いや、ドキドキしながら。

(考えてみれば、星野君って優しいし、背も高いし、野球も上手で運動神経もいいんだよね。なんせ真面目だから、浮気なんて問題外だろうし。これは絶対お買い得だよね。良く見ればカッコイイとまではいかないけど、男らしい顔してるし。なんてったって、未来のプロ野球選手だし! ……今迄モテなかったのが不思議だよなぁ)

 この短い一瞬で呑気に星野君の分析と勝手に都合のよい夢を託していた私だが、何故星野君の名前が女の子同士の間で騒がれないのかは後々知ることになる。この年頃の女の子は目立つ男の子に夢中になったり、あからさまにモテそうな男の子の名前を上げたりするもんだが、その実星野君みたいな男の子の方が地味にモテるし、本命度の確立が高いのである。それこそ後の同窓会などで「……実は私、あの時星野君が好きでさぁ」「あ、私も~!」などというパターンが多かったりするのだ。


「荒井さん、良く似てたから」

「……は?」


 星野君の一言は、私の勝手なオメデタイ思考から現実に引き戻すほどの力を持っていた。彼の言葉に籠められた思いのようなものが、彼の瞳と私の腕を握っている手から溢れ出し、徐々に私の鼓動を速めていく。


「こういうのって、『デジャブ』っていうんだろうな。3年前に戻ったみたいで」

「……さ、3年前……って?」

「荒井さんてさ、もしかして『モモタ』って言う人と……」



 星野君がある名前を言った途端、私は食い入るように目の前の彼を見つめてしまった。

 逆に私を見下ろしている星野君の眼差しも何かを必死に訴えているような、一生懸命探し出すように真剣で――。


  


『…………なんでその名前が君の口から出てくるの?』





 頭では星野君に問いかけているのに。

 実際は口は開きかけているだけで、言葉は喉もとで詰まり、音となってこの世に吐き出されなかった。


 


 ザッザッ、ガサガサガサッ!



 

 星野君が言おうとしている先の言葉を聞きたくない、この状況から逃げ出したいと動揺する私の心を見透かしたのか――木々や雑草が揺れる音と足音が上から聞こえてきた。


とうとうやってしまいました、「たけしメモ」。すみません、絶対何処がで出したかったんです。お付き合いくださいまして、ありがとうございました。m(__)m

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