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振り向けば、君がいた。  作者: 菩提樹
中学1年生編
8/147

恋せよ、乙女!~中編・恋はある日突然に~

少し長いです。

『ドテチンとなんて、最悪だ』

『それはこっちの台詞だっつーの!』

『委員なんてメンドくせぇ、お前適当にやれよ』

『クジを引いたアンタが無責任こと言うな!』

『こうさぁ、そのデカイ身体をいかしてさ、サラッとやってくださいよ?』

『身体は関係ないでしょ!」


……言い合いは長く続いたが、相性が良くても悪くても関係ない。決定事項は曲げられず、実行委員は「尾島&宇井ペア」に決まった。決まった筈だった。

 しかし和子ちゃんではなく、何故か私が委員のミーティングに来ているというこの事実。

(てか、なんで私なの?!)


 2話にまたがり、ここまで引っ張った割には答えは意外とアッサリ風味。ミーティングの日の朝、ホームルームで和子ちゃんが珍しく風邪で休みと聞き、終了後先生に呼び止められた。嫌な予感100%。


『すまんけどさぁ、荒井。実行委員さ、風邪で休んでいる宇井の代わりに出てくれるか? お前友達だろ? 相方の尾島はあんな感じだからなぁ~心配でよ』

『……え?! で、でも、そんな委員、私には……』


 押す、リポーター。

 ホント、無理ですから! ……と怯む美千子。


『ま、そう言うなよ。あくまでも代理だから。一昨日の英語の課題、尾島と宇井にお前の答え写させただろ? そのペナルティとしてさ』

『えぇ~?!』


 威嚇射撃を放つ、リポーター。

 うっわぁ~なんで? 即効バレよってる! ……危うし美千子!


『荒井は頼られてるんだよ、英語得意だし人徳ってやつだからしょうがねぇよな~! んな訳で、とりあえず頼むよ、な?』

『…………』


 トドメを刺す、リポーター。

 いや、英語得意はまったく関係ないッス、先生! ……もはや何ともならない美千子☆


 予感的中100%にうろたえ、なんのアクションを起こす間もなく先生は去っていく。ものの見事に押し切られる形でサクっと委員代理を引き受けさせられた。

(それにしても……なんで2人に課題見せたことバレたんだろう?)

 確かに一昨日の朝、慌てた様子の和子ちゃんが「英語の課題みせて~」と泣きついてきた。もちろん快く見せていたら、どさくさに紛れて隣の尾島も書き写していたのだ。

 今思えばあの先生のセリフはハッタリだったのだろう。大体中1の、まだ2ヵ月もたってない英語の内容、全員の答えがバラバラになるような訳など宿題に出るわけがない。何人かの生徒がまったく同じ訳でもおかしくないのだ。「ハメられた!」と思った時は既に遅かったのだった。


***


(はぁ……憂鬱)

 どうにもならないので教室に入った。何人かの実行委員が前の席に座っている。

 他のクラスは男女ペアで座っているのに、何が悲しくて代理が1人で座らなければならぬのか。どんよりした気持ちで廊下側の席に座ったら、ガラリと前の扉が開いた。


「あれ~啓介ケースケじゃん! なに? あんたも委員なんだぁ」


 自分の前の席に座っている子が、扉を開けた生徒に声をかけた。

 入って来た生徒は、「既にジャージ姿で部活行く気マンマンだよこの人」オーラのどっかのチビ猿だった。「あ」とマヌケな声を出した私に向かって尾島はジロリと睨みながら教室に入り、乱暴に隣の席のイスを引いてドカリと座った。別に悪いことをしている訳ではないが、ビクッと身体を震わせてしまった。


「……るっせんだよ、明日香あすかは。オレ様が委員でワリィかよ?!」


(え? 明日香?)

 尾島が大人しく委員のミーティングに来たことも驚きだったが、まさか下の名前で呼び合う異性の人間関係を持ち、そんな羨ましい……じゃない、本の中でしか見れない男女関係が実在することにビックリした。

(ほほぅ、これは――)

 意外な関係に怖いもの見たさか、好奇心がムクリと湧きあがってくる。尾島をチラ見し、続いて前に座っている女生徒に視線を向けると、明日香と呼ばれた女生徒は嬉しそうな顔をしながら尾島を振り返った。


「別に悪くはないけどぉ。それよりいい加減バスケ部入んなよぉ。今からでも遅くないって! もう辺見先輩ガックリきちゃってさぁ、気の毒だよ? せっかく私も一緒にやれるって楽しみにしてたのにぃ」


 彼女はポッテリとした形のいい唇を尖らせ、大抵の男は思いっきり勘違いしそうな告白まがいの言葉を吐いた。しかし隣から漂うのは甘いなんて言葉とは程遠い嫌な空気。尾島は横を見なくてもわかるぐらい険悪なオーラを出し、彼女の肩を前に押した。


「……いいから、前向けよ! オレが何処の部活に入ろうと勝手だろーが! オレ様は運動神経がいいから特にバスケにこだわらなくてもいいんだよ!」

「ちょっと痛いわね! なにも押すことないでしょうがっ? ……あ~そっかぁ。どうせま~だアノコト(・・・・)気にしてるんでしょ? やだやだ、これだからチッサイ男は! ホント、いやよねぇ~、荒井さん?」

「え……えぇっ?!」


 驚いたことに前に座っている彼女は、おもむろに名指しで私に同意を求めた。目の前の彼女は愛嬌のあるというか、どっかで見たことのある顔に小悪魔っぽい微笑みを浮かべている。突然話しかけられただけでなく、名前も言われたことに驚いてアワアワしていると、横から「だまれ!」と険しい尾島の怒声が飛んできた。しかし彼女は怯みもせず、「啓介ケースケこわ~い」と言っただけ。尾島は何か言い返すかと思ったが、以外にも不貞腐れたまま面白くないという顔をしただけだった。その様はクラスで天下を取っているガキ大将の「チビ猿」とは程遠い。

(このチビ猿が軽くあしらわれてるって一体……。それに「アノコト」って、何だろう?)

 

 非常に「アノコト」の内容を聞きたいが、残念ながら私じゃ役不足だ。あぁ、和子ちゃんだったら確実に聞いてるだろうに!

 それにしてもこの2人の間に漂う親密さ。この明日香と言う人は尾島と同じ大野小なのだろう。「あれぇ~? もしかして、ムフフ……な関係だったりするぅ?」と思うと自然と頬が緩んできた。心の中で思いっきりヒヒヒと笑いながら、明日和子ちゃんに報告するべきことがミーティングの内容以外に一つ増えたことにほくそ笑む。


「もったいないよな、あんなに上手いのにさ。今からでも遅くねぇよ、バスケに入れば?」


 明日香さんの隣の席にいた男子生徒が振り向いた。

(……え?)

 柔らかそうな短髪に日に焼けた肌、形のいい唇からこぼれる歯は白く、歯並びもきれい。何よりも優しそうな眼もとで目尻に皺をよせながら微笑んで――。


 ズキューン!


 ヒットマンに狙われた音ではない。いや、ある意味ヤラレた音ではある。

 この世にキューピットが本当にいるとしたら、まさにこの瞬間その矢で打ち抜かれたと断言できる。理想の王子を思い描けと言われたら、今目の前にいる彼を描くだろう。漫画なら確実に薔薇の花とキラキラのスクリーントーンを背負っていること間違いなしだ。

 尾島と明日香の存在は完全に消え去り、彼と私しかいない感覚におちいった。私の前に、いや、正確には斜め十時の方向に運命の人がっ!


『出会った瞬間に、君が運命の人とわかったんだよ』


 そんなありきたりな台詞が載っている恋愛小説を読みながら「そんなのナイナイ!」と突っ込んでました、神様ゴメンナサイ。


 ああ、私にはこの人しかいないと思っていた「リバー・フェニックス」も、小学校の時憧れだった「佐藤伸さとうしん」も、潮が引くように過去の男になっていく。

 動悸が速くなり、顔が火照るのを感じ、視線が泳いでしまった。本当は飽くることなく顔を眺めたいのに、後光が差しているように眩しくて目を合わせられない。『そんなあなたにフォーリンラヴ!』な決め台詞とポージングをしている状態の私を、一気に青ざめさせ現実に戻したのは尾島の一言だった。


「はぁ? お前だれ?」


(オオオィィッッ!)

 どこぞの野生猿は恐れ多くも荒井美千子の運命の王子様に信じられないほど失礼な口をきいた。

(もう一度ペキン原人から進化し直してこいや!)

 心の中で猿の頭にスリッパをはたいていると、その熱意と怨念が天に通じたのか、明日香さんがガツンと尾島の五分刈り頭をチョップした。


「ちょっと、アンタね~! 小学校の時に試合で何度か会ったことあるでしょ? ほら、下山野小の田宮くん! センターのさ!」


 明日香さんは呆れた声で抗議し、隣の王子に「ごめんね、こいつ超口悪いし」と謝っている。


「いいよべつに。けど覚えてなかったとは残念だな。俺は尾島の事印象的だったのにさ。あんなに威勢がいい奴初めてっだったし、シュート率も良かったし? やっぱりもったいないよ」


 王子は苦笑しながら言うと、隣の明日香さんも「そうよね~もっと言ってやってよぉ~」と腕を組んで頷いていた。


「あ? ……あぁ~わりぃ。覚え、ねぇ」


 隣の猿は頭を掻きながら面倒そうな声を出すと、明日香さんに再び「本当、失礼なヤツだな」と言われた。

 不貞腐れたのか照れくさいのか。尾島は両手をジャージのポケットに突っ込み、身体と首を縮こませ、だらしなく椅子によりかかった。


「…………」


 わりと整った尾島の横顔を眺める。

(……ふ~ん、尾島こいつもバスケ部だったのか。どうりで、ね)

 私の心に暗い影が差した。どうも苦手だなぁと感じた訳が良くわかった。

(どうして……バスケをやっている人とは合わないのだろう)

 全国のバスケ部の人や愛好者の皆さまには大変申し訳ないが、昔からバスケをやる人とはウマが合わなかった。この会話の流れからいくと、残念ながら「田宮君」と呼ばれた王子はバスケ部なのだろう。しかし彼からは嫌な感じは受けない。……あくまでもこの時点での話、ではあるが。是非自分と気の合う穏やかな人であってほしいと願わずにはいられなかった。


「それよりもアンタが委員のミーティングに素直に参加するなんて、めずらしいよね。こういうのすぐサボるくせにさぁ」

「う、うるせぇな! ……さっき『リポーター』に捕まって言われたんだよ、せっかく部活に行こうとしていたのに。それに――」


 こいつ代理だし、頼んないし。


(ナっ、ナンですとぉっ?!)

 野生猿のくせに器用に私を顎で指し、しかも不機嫌な声で「頼りない」とは聞き捨てならなかった。

 バカ殿様が怒って刀を取り上げる時のバックミュージックと共にカァっと血が上り、「テメェ、いい加減にしないと叩き切るぞ!」という勢いの半分以下の抗議をしようと思ったら、再び教室の扉が開いた。

 やってきたのは実行委員であろう生徒4人。


「なんだよ~尾島も実行委員だったのかよ!」


 声もデカけりゃ、身体もデカイ。ノッポの男は「ラッキー!」と顔を綻ばせながらズカズカと入ってきて、尾島の首にヘッドロックを掛けた。


「やだぁ! 後藤ごとうも実行委員なんだぁ」


 明日香さんは後藤と呼んだ図体の大きい男をバシンと叩いた。


「後藤も、とはなんだよ! それよりも小関こせきと尾島、ま~た一緒かよ! 仲よろしいですねぇ~?」


 ヒヒヒと笑いながらからかう後藤という男に対し、尾島は「ざけんなっ!」と顔を赤くして首にまわされた太い腕を解いた。どうやら小関というのは明日香さんの名字のようだ。後藤君は田宮君にも「よう!」と話しかけていた。すっかり尾島の周りは賑やかになり、抗議するタイミングを逃してしまった。いや、そんなことはどうでもよい。



 問題は後藤と言う人と一緒に入って来た他の3人。



 一人は同じ女バレの「原口美恵はらぐちみえ」。

 実は初めて顔を合わせた瞬間から反りが合わないと思った。いくつになっても相性の合わぬ奴というのは、不思議なことにお互い言葉を発しなくても臭いだけでわかるのだ。案の定、「恐らくこの人とは上手く付き合えないだろうな予感」は見事的中した。初対面の時から原口から「アンタ嫌い」オーラを受け、2回目の顔合わせでガンを飛ばされた。彼女は1年の部長になった途端私をコキ使い、パシリにしている。被害妄想かと思ったが、それにしては酷過ぎた。彼女に何かした覚えもないのに……。


「尾島も小関も久しぶり~!」


 原口美恵はすごい形相で私を睨んだ後、隣の尾島と明日香さんに向って嬉しそうに挨拶していた。尾島は素っ気なく「おぅ」と返し、明日香さんは「ありゃ~大野小元バスケ部揃ったねぇ!」と笑顔で返している。

(そっか……この原口美恵おんなもバスケ部だったのか)

 どうやら私の中のジンクスは破られていないようだ。


 そして、もう一組。


「田宮君も小関さんも委員なんだ? やった、バスケ部率多くて安心!」


 気のせいではない。王子にだけ思いっきり可愛らしい笑顔で微笑んだのは、なんと「成田耀子」だった。

(原口美恵に成田耀子……最っっ悪や!)

 当然のごとく、この女も私を完全無視した。まぁ、小学校の時と変わりない。例え声を掛けられても挨拶もしたくないし、こっちからお断りだけど。

 しかし最後の一人は違った。


「8組の委員は尾島と荒井かよ」


 そう声を掛けてくれたのは、すこぶる爽やかな男子生徒。


「よ! 荒井、久しぶりだな!」


 数分前過去の男になった、「佐藤伸さとうしん」その人だった。


登場人物が多くなってきました。やっと「田宮君」本登場です。

小関明日香、原口美恵、佐藤伸、後藤、これからもよろしくお願い致します。

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