8月15日の乙女たち~オマケ~
この章は多分に過激な表現と未成年の飲酒を促す表現が出てきます。PG12指定とさせていただきます。読む際にはお気をつけ下さい。
この15日の夜、貴子の予想通りお姉様とその仲間達はアジトにご帰還……いや、団地にご帰宅し、私は皆様とご対面することとあいなった。
台所のダイニングテーブルで貴子と2人、焼肉をつつきながら部活の事やコイバナに花を咲かせていると、開いたままのベランダに続く窓から微かに物騒な音が聞こえてきた。平和に暮らしている限り絶対ご縁のないあり得ない音は、確実にこちらに向かっているらしく、次第に大きくなっていく。
……ラリラ、パラリラ、パラリラっ!
そんなベタな音が夜の住宅街に響き、音がピタリとやんだと思ったら急に轟く無数の爆音。団地の最上階であるにも関わらず、ここまで聞こえる排気ガスの音のすごさに無言のまま窓の方を見ていると、貴子はなんのためらいもなく席を立ってビールなどのお酒を用意し始めたのだ。
それから間もなく玄関の扉が勢いよく開かれ、とうとう笹谷厚子お姉様が若干酔っ払い気味の様子でご登場した。それも、湘●爆走族のような連中に身体を支えられ……いや、少々暴走チックな友人を脇に引き連れて。
『あ、いらっしゃ~い』
普通に笑顔で挨拶する中学2年生の貴子に、「ウィッス、今日もお世話になりまっス!」と礼儀正しく頭を下げるどう頑張っても品行方正とは程遠い強面のオッサン顔で、頭が鬼ゾリ&パンチ&レインボーカラーの暴走族達。その驚きといったらまるで「ひょう●んベストテン」には、
『まさか本物の歌手は出ないだろう~』
……と思っていたのに、モノホンのC-●-Bが出てきてあらまびっくら仰天! てな感じだ。そんな派手系部下達を顎で後方に下がらせ、千鳥足気味で私の前に立ちはだかったお姉様。
『アンタが噂の貴子の友達だね? 貴子や妙子から話は聞いてるよ。見舞いにも来てくれたらしいじゃないか。オマケに寅之助や尾島達が大変お世話になってるようで……今後とも変わらぬお付き合いをどうか夜露死苦っ!』
『ハハハハィ! ここここちらこそ、たたた貴子には大変おおおおおお世話になってますっ!』
どんな噂だろう……などと思ったことはさておき。
私は精一杯の力を振り絞って90度の角度で頭を下げ、キッチリ挨拶をさせてもらった。目の前の生お姉様は、少し目が据わって胸倉をを掴みそうな勢いだったが、貴子と同じワンレンのサラサラロングヘアーで、トレンディドラマの大御所である「W浅野」の片方と似た感じのお人であった。漢字は違うが名前も同じだし、普通にしていたらしっとり美人……の筈なのに。なにか、こう、色々と残念だ。
『……ほぅ、地味なわりには、なかなかいいボインもってんじゃねぇか。なぁ、オマエらっ!』
『『『『ウィッス、揉んでみたいッス!』』』』
『バカヤロウっ、中坊相手に犯罪だろうがっ! オマエらは適当にオッパイ饅頭でも食っとけっ! ……すまねぇなボイン、こいつらには手を出させねぇから安心しな。でもな? ボインに目が行っちまうくらいは許してやってくれよ? なんせヤリたい盛りの「てぃぃんえいじゃぁ」だからよ~。目の前にデカイボインがありゃ触りたいってのが男っつーもんよ』
『『『『ひどいや姐さん、そりゃないッス!』』』』
『いいか、オマエら。残念だが世の中思い通りにいかねぇってのが現実でよ、実際はそんなに甘かねぇんだ。よってオマエらはボインを眺めるだけで我慢だ。その我慢が明日への活力に繋がるってもんよ!』
『『『『キツイや姐さん、拷問ッス!』』』』
『つーわけでボイン、これからもアタイの大事な妹と仲良くしてやってくれ、な? 困ったことがあったらいつでも相談に来な。アタイに任せりゃ怖いもんなしさ、なぁ、オマエらっ!』
『『『『さすがは姐さん、最高ッス!』』』』
『フハハハ! オマエら、本当にカワイイ奴らだなっ! 貴子、酒だ、酒と肉だ!!』
「厚子」というより、「アッコ」と呼んだ方がしっくりくるようなお姉様は、「アッコに●まかせ!」というニュアンスの頼りがいある大物ぶりを発揮し、すぐさま「者ども、やっちまいNAっ!」的な号令で大宴会を開始させた。
それからの私は、厚子お姉様と暴走族達に交じってタンクトップを盛り上げている、そろそろEカップブラにしようか的な胸の辺りをガン見されながら和気あいあいと焼肉を食べるという、3回目の貞操の危機という名の拷問……もとい、貴重な体験をすることとなった。気が付けば、肉を焼く&お酒を奉仕するホステス係になっていた荒井美千子。しまいにはいくら食べても腹が満たされずに飢えている猛獣系暴走族……じゃなく、育ち盛りのティーンエイジャーな派手系男子達に酒のツマミを追加するため、おかずを作ったり、おにぎりまで握ったのであった。
この打撃的……間違えた、刺激的な大宴会は夜中まで続き、深夜になって私と貴子が寝室に引っ込んだ後も終わらなかった。次の日起きてみると、お姉様と仲間たちは居間で鼾の大合唱しながら雑魚寝をしていたが、以外にも台所はすべてキレイに片づけられ、宴会の跡はキレイさっぱりなくなっていたのだ。「片づけてくれたお礼に」と貴子と2人で全員分の朝食を用意し、若干中2にして立派な飯炊き女……というか、厚子部屋のおかみさんと化した荒井美千子。朝食が全部そろう頃には、のそのそ起きてきた部下たちの姿にも目が慣れ、普通にご飯とみそ汁を出していた。人間というのは意外と環境に適応できる生き物らしく、それに驚いたのは何をかくそう私自身だった。
完全ダウンしていたお姉様の代わりに、熱い日差しが降り注ぐ昼間がまったく似合わない部下たちを貴子と笑顔で送り出した後、私と貴子はお母さんのお見舞いへ行き、再び団地へ帰ってきたら、復活した厚子お姉様が待ち構えていた。
『ボイン、ここに座れ!』
酔った時とはまた違った迫力を持つ素面のお姉様は、いきなり「いかにしてイイ女を作り上げるか」という講義をしだし、これぞ「女の六道」(絶対地獄を見ない道、餓鬼呼ばわりされない道、畜生と地団駄を踏まない道、修羅場に勝つ道、人間女豹道、本命の天上天下唯我独尊になろう道)を懇々とレクチャーしていく。その授業内容は、
『男を撃ち落とす10の必勝法』
『これであなたも男に貢がせる女!』
『掴んだ男を離さない為に~男の育て(操り)方と寄りつく虫(女)の駆除方法~』
『正しい女豹のあり方~アバズレ女と色気のある女の違い~』
『必読! 女豹と雌豹、小悪魔と困ったチャンはここが違う!』
『実録シリーズ・これが女豹の実態だ! ~狩るも狩られるもあなたの心意気次第~』
……などなど、後のハウツー本の先駆け的な、中学生には必要ないんじゃないかな~というほどの濃い内容であった。講義の後は実践編として、男と2人っきりの場面や浮気相手と鉢合わせした場面などを想定し、厚子お姉様推薦の豹柄の勝負服やビキニなどを着せられ、将来美容関係の仕事に就きたい貴子に顔をいじられ、本番さながら実習が行われた。どんな逆境にも負けない清く正しい女豹としての厳しい指導を受けた荒井美千子。
ここだけの話だが、厚子お姉様直々に伝授してくれた「史上最強の女豹ポーズ」は、数年後見事に効果を発揮し、最終的にはサンタを完全に再起不能にさせるほどの驚異的な威力を見せることになるのである。
女豹レッスン修了書として厚子推薦勝負服、またの名を要らなくなった古着を授与され、笹谷姉妹に見送られた後の帰り道、また一歩大人の階段を登ったこの24時間の出来事を不思議な感覚で思い返していた。
それは――。
厚子お姉様は仲間想いの熱いハートの持ち主で、部下達はそんなお姉様を慕っていて絶対的な存在だということ。その部下達は貴子の言うとおり意外と気さくで、礼儀正しいシャイなお兄さん達だということ。昨夜はおかずを作った私そのものが、夜のオカズにされそうな現場だったということ。厚子お姉様や部下の皆様は私のことを結局最後まで「ボイン」呼ばわりしていたこと。そして、厚子お姉様は血が半分しか繋がらない貴子を随分と大事にしており、お互い信頼関係を築いている姉妹関係がちょっぴり羨ましかったこと。
この出来事は中学を卒業し何十年経っても強烈な夏の思い出として、私の心の中に深く刻まれるのであった。
笹谷厚子、最強です。
C-C-B、懐かしいです!菩提樹も好きでした。当時友人が関口さんの脱退最後のライブ、確か読売ランド?に行ってその時の写真を見せてもらった記憶があります。ちなみに仏教でいうところの六道は、「地獄道、餓鬼道、畜生道、修羅道、人間道、天上道」です。こんなん書いてたからパソコンがイカレるというバチがあたったのかなぁ、私。ホント笑えない。(-"-;)