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振り向けば、君がいた。  作者: 菩提樹
中学2年生編
76/147

8月15日の乙女たち⑤

この章は多分に過激な表現と未成年の飲酒を促す表現が出てきます。PG12指定とさせていただきます。読む際にはお気をつけ下さい。

 夏休み前までほとんど口をきかなかった私と尾島は、ただのクラスメートとして淡々と日々を過ごしていた。

 ところが夏休みに入った途端、ブキミちゃんがいないせいなのか、部活の練習で顔を合わせるたびに私に話し掛けてくるようになったのだ。それもどうでもいい小言ばかりで、嫁を苛める姑ばりのくだらない内容のオンパレード。ハッキリ言って、ウザイし迷惑だった。


『おい、ブルマに毛玉ついてんぞ、プラネタリウムのつもりか? ちゃんと星座になってねぇじゃねぇか!』

『チュウさぁ、すね毛くらい剃れよ? 蝶子を見習え、男に負けてるなんてありえないだろ!』

『オマエな、白いTシャツにピンクのフリルがついたブラジャーなんかしてくんなよ、透けて見えるだろうがっ! ほら、あれ、ベージュのスポーツタイプにしろ!』


(オイ、一体オマエは何処を見ていやがるんだこのエロ猿!)

 毎回毎回顔を合わすたびにセクハラまがいな捨てゼリフを吐き、元裏番や雄臣に似てきてるぞとツッコミを入れたくなるような小言を言う尾島。

(ここで断わっておくが、私のすね毛はそんなにぼうぼうと生えている訳ではない。そりゃちょっとは伸びていたかもしれないが、あくまで「ちょっと」である。決して蟻んこができるほど伸ばしている訳ではない!)

 それを見たバレー部の後輩達は、普段は私のことを先輩と思ってないようなナメた態度を取るくせに、こんな時は近寄ってきて顔と運動神経だけはよろしい尾島に群がる始末。それも他の女バレの連中と女バスの皆さま方から睨まれているにも関わらず、だ。


『やだ~尾島先輩のエッチィ、スケベェ~』


 そんな死語同然な黄色い声を出す女バレの後輩をからかってはキャーキャー言われている尾島。

 猿の鼻の下が伸びに伸びまくっている姿は見ているだけで不愉快極まりないので、とっとと現場から撤収し完全無視を決めるというのが、ここ最近の私の行動だった。大体いちいち相手にするのも疲れるし、何故か訳もなくイライライライライラ! ……いや、そんなことより、その姿をチィちゃんが後ろからジッと見てるもんだから、下手に誤解を招くようなこともできないからだ。

(チョッカイ出すなら、チィちゃんや原口にでもやれよ!)

 それこそ人のブラやブルマなどを観察する空しいことをしなくても、愛の告白をされちゃったり、レモン味のファーストチッスや禁断の青い果実なムフフまでもれなくついてくることだろう。


 しかも頭が痛いことはそれだけではなかった。尾島の小言に続けというように、あの小関明日香も一緒になって、悪乗りをするのだ。


『ほんとだ~ブルマに毛玉が付いてるよ~私が取ってあげる~』


 ……と言ってブルマを引っ張ったり、


『ミっちゃんってすね毛伸ばしてるんだ? 男らっしぃ~!』


 ……と感心しながらジロジロ眺めまわしたり。


 しまいには、


『相変わらずオッパイおっきいねぇ! 羨ましいぞぉ~エイッ!』


 などと言いながら一発でブラのホックを外したり!

(マジで笑えないんだけど)

 しかも隙を狙って「だ~れだ!」といいながら目ではなく背後から胸を掴んで揉むのだから勘弁してほしい。さらに触ったその手を「ミっちゃんのオッパイの感触」などと言いながら、尾島の頬や胸にこすりつけるのだ。それはまるで、小学生同士がやる実にくだらない「ヤベ、荒井美千子菌ついちまった!」というような具合に。もちろん尾島が黙ってヤラレているわけはなく、顔を赤くしながら怒り出す始末。


『明日香ぁ! テメェ、勝手に俺のボインっ……い、いや、そうじゃなくって……と、ともかく勝手に馴れ馴れしく触んじゃねぇ!』

『やっだぁ、啓介ケースケったら。ちょっと身体触ったくらいで怒んないでよ~』

『怒るわっ! 大体、ちょっとじゃネェじゃねぇか? ドサクサに紛れてガッチリ掴んで揉みやがって! 俺だって揉んだことないっ……あ、いや、その、なんだ……ととととりあえず謝れ!』

『なによ、そんなにガッチリ触ってないじゃん。身体にちょっと触ったぐらいでいちいち目くじらたてないでよ、手で擦りつけたくらいで大袈裟ぁ。女じゃあるまいし、自意識過剰ぉ~! でもぉ意外と柔らか~いんだねぇ』

『や、柔らかいっ?! そそそんなに柔らかいのかっ』

『やぁねぇ、そんなに興奮するところじゃないでしょぉ。本当啓介ケースケのほっぺたって本当に柔らかいねぇ。え~い、つまんでのばしちゃえっ!』

『……は、ほへほほっへは……へ(……あ、オレのほっぺた……ね)って、イテェんだよっ、明日香ぁ!』


 などというクソ面白くない夫婦コントを披露し、その姿を見ながら女バレの皆さんとバスケ部の皆さんが笑って一騒動になるのであった。さらに最悪なことに、原口とチィちゃんはそれを見て複雑そうな顔をしているのだ。

(小リスよ。アンタ原口やチィちゃんと普段仲いいんだから、もうちょっと空気読めよ)

 笑っている集団に背を向けながら心で突っ込みを入れるが、考えてみれば私が心配することではない。しかし、その原口の複雑な思いが結局怒りとなって私に返ってきたり、チィちゃんの心配を取り除くために私が余計な気を使わなければならない事を心配しなければいけない私は一体なんなのだろうか。

(……結局私に被害が回ってくるんだよね)

 想像するだけで落ち込んでしまうほど実に憐れで可哀想な自分の現状に、私は段々紫色になっていく夕焼け空を見上げて思わず大きな溜息を漏らした。


「ハァ」

「どうしたの、美千子? 大きな溜息吐いちゃってさ」

「ううん、なんでもない……。生きるって大変だなっと思って」

「は?」

「なんか『とかくこの世は儘ならぬ』という言葉が浮かんだの……」

「……美千子……。そ、そうだ! 今日の夜さ、ホットプレートがあるから思い切って焼肉にでもしない? 肉なら姉貴も大好きだしね!」

「……え? 焼肉?」


 貴子は落ち込んでいる私を元気づけるように一生懸命明るい声で言った。さらにお姉さんは大の肉好きだという情報を披露し、軽くキロ単位でいけるという物騒な……いや、豪快な言葉に上手いコメントが浮かばず「ワ、ワイルドなお人だね」というのが精一杯だった。会うのが益々不安になってきたが、「焼肉」の言葉で元気になる私も人の事を言えた義理ではない。夕焼けに向かって「今夜は焼肉!」と宣言し、長い影を作りながら私達はスーパーへ向かったのであった。


尾島は相変わらずイタイ勘違いをしてるようです。ところでスネ毛を処理するタイミングっていつだと思いますか? この長さならギリギリOK! ……などと思っていた、いや現在も思い続けている私は乙女失格でしょうか。


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