表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
振り向けば、君がいた。  作者: 菩提樹
中学2年生編
69/147

B&M~残りモノには「福」じゃなくて、「訳」がある・前編~

(こんな生活、きっと2年で終わるわよね? ……ていうか、本当に終わるんでしょうねぇ。いや、確実に終わらせねば! クラス編成って、どうやったら裏工作できるんだろ? やっぱ先生に賄賂を送らねばならないのだろうか。手っ取り早くお中元、お歳暮から責めてみては……)


 そこまで考えたところでハッと我に返り、危険な思考を振り払った。

 どうも先程から思考があらぬ方向へいってしまう。悪い方へ悪いほうへ考えてしまうそんな自分に叱咤し、プリントを折る作業に集中集中と気合を入れれば、相変わらず淡々と不気味な様子を醸し出しているブキミちゃんが、トントンとプリントを揃えていた。


「それにしても、ウチのクラス奥住さんを始め、荒井さんの周りの友達って賑やかですのね」

「え?」


 今まで考えていた思考を読んだかのように、ブキミちゃんの口から奥住さんの話題が出たので、私はビックリして隣を見た。彼女の手元を見ると、折り目正しく折られてあるプリントがいくつも積み重ねられている。明らかに私よりも作業のピッチが速い。


「ほら、最近隣のクラスの笹谷さん達や10組の……中山幸子さん、でしたっけ? よくこのクラスに来るようになったでしょう。益々1組が賑やかになったものね」


 ブキミちゃんはバシッと整えたばかりのプリントで机を叩くように置いた後、ギラっとメガネを輝かせながら(もちろん本当に輝かせているわけではないのだが、不思議とそのように見える)クイッとメガネを上げた。どうもその仕草は彼女の癖のようで、最近よく一緒にいる為か目にすることが多い。私はブキミちゃんの意見にギクっと身体を縮め、「ごごごめんなさい」と慌てて頭を下げた。


「あら? どうして荒井さんが謝るのかしら」

「え、だって……に、賑やかというより、もももしかして、騒がし……いんじゃないかと……思いまして、ハハハハハ!」

「そうね、確かに」


 ブキミちゃんのズバッと遠慮ない意見にグッと笑いが詰まった。


「でも、1組(ウチ)の男子達の方がもっとうるさいし。それに奥住さんや中山さん達にいちいちチョッカイかけるんだから仕方ないわ。決して大人しい荒井さんのせいではありません。気にしていませんわ」

「……ハハ……」


(気にしてるんだな……)

 ブキミちゃんは否定してるけども、熱烈歓迎とは程遠いようだ。最近殺気だっている原口美恵や成田耀子達とは違う意味で、彼女も騒がしいランチタイムに納得できないようである。


『そうなんスよ~尾島達には私らも困ってましてね~!』


……などと言いながら朗らかに笑いたかったが、この場では引き攣り笑いしか出てこなかった。私は俯きながらプリントを折ることに集中し、今度こそ、確実に、さっさとこの作業を終わらせることを目指した。


「そういえば。荒井さんのお友達といえば、隣の2組の『笹谷さん』も体育際サポート委員では? 彼女去年もやっていたから、なにかあったら彼女に聞くといいわ。2組の学級委員は……たしか『宇井さん』でしたよね? 良かったですわね。ほら、ウチは『佐藤君』は頼りになるけど、当のサポート委員相方が全然頼りにならない男だし。荒井さん、頼んだわよ?」

「……ハイ」



――『体育祭サポート委員』。

 なんて憎い響きなのだろう。



 私は心の中でガックリと項垂れた。

 何故ならこれが悪女達の機嫌が悪いもう一つの理由だったからだ。


 それは、建てつけの悪い校舎にシトシトと雨が降り注ぎ、期末テストも迫った七月上旬の梅雨のある日。つい先日のホームルームでの出来事である。

 散々揉めに揉めた挙句、結局最終的にはジャンケンで委員が決まり、私と尾島がサポート委員をやる羽目になった時から、悪女達――特に原口美恵の視線が益々厳しくなり殺気だっているのだ。……まったく原口美恵も大袈裟だ。別にジャンケンで私に派手に負けたからと言って、尾島と永久に別れるというわけでもなかろうに。

(それにしても――原口美恵相手に無駄にストレート勝ちしてしまった私の右手、空気読めよ!)

 思わず自分の右手が恨めしくて、グッと握った拳に文句を言ってはみたが、決して私の右手も私自身にも罪はない。ましてや臨んだことでもない。

 大体原口美恵も尾島にアプローチしてる暇があったら、ジャンケンに勝つ必勝法にでもアプローチしてればよかったのだと心の中で悪態ついた。


*******


 雨のせいか、試験前のせいか、ジメっとして憂鬱な雰囲気が漂う、その問題のホームルーム。

 先生に一任された学級委員達は、席を立って教卓に向かった。


『それでは、第●回山野中秋季体育祭大会の体育祭委員を選出したいと思います』


 学級委員であるブキミちゃんがメガネをクイッと上げ、教卓からクラスメートをねめつけ……じゃない、見渡した。

 その他のクラスメートはダルそうに私語をしながら、明らかに「メンドクサイ」という雰囲気を隠そうともしない。それもそうだろう、体育祭は夏休み明けの2学期の行事であり、今の段階では実感が湧かないからだ。

 その時、ブキミちゃんの横に立っている同じく男子の学級委員である、佐藤伸君がバンバンと教卓を叩いた。


『オラオラ、オマエら良く聞けよ! これから体育祭サポート委員の大まかな仕事を、伏見から説明してもらうから。伏見、お願いできるか?』


 佐藤君はやる気のない返事を上げる生徒達に対して「しょうがねぇなぁ」というように顔を顰め、ブキミちゃんをチラッと見た。ブキミちゃんは頷き、低いハスキーボイスを淡々と教室内に響かせた。その内容は、


 一つ、体育祭サポート委員は男女一人ずつ選出すること。

 一つ、生徒会役員、通年の体育委員、学級委員は体育祭サポート委員から外すこと。(体育祭の運営メンバーになっている為)

 一つ、体育祭委員は色別対抗リレー・応援合戦のメンバーの選出、軍旗・応援合戦等のアイデアを各色別でまとめ、提出すること。


……などなど、ブキミちゃんが一通り説明すると、クラス内は一層ダルそうな雰囲気に包まれた。


『誰か立候補する人、いますか?』


 ブキミちゃんの問いかけで、今まで騒がしかった教室は急にシーンとなった。お互いに顔を見合わせ、「こんな面倒なこと、やる奴いるのかよ?」というふうに目配せをしている。もちろん私も俯いて学級委員の2人と目線を合わせないようにした。「ま、期待はしてなかったよ」というように佐藤君が溜息を吐き、ブキミちゃんがトントンと教卓を指で叩きながら仁王立ちしている姿が目の端に映る。


『仕方ありません、手っ取り早くクジ引きにしましょう。先生、それでいいですか?』


 待つだけ無駄というような口調で、先生に指導を仰いだブキミちゃん。急に聞かれた我が1組担任・社会科歴史担当の青島チンタオ先生は、穏やかな動作で手を上げ「いいぞ、それで。こっちは気にするな」という合図を送った。その合図を受け、佐藤君はサッと「クジ」が入った2つの紙袋を教卓の下から出した。何気に用意がいい。

 再び教室内は文句と非難で騒がしくなったが、『文句のある奴にやってもらうぞ!』という佐藤君の一言で生徒たちは不満を飲み込んだ。


『それでは体育委員の後藤君と成田さん以外の人、クジを引いて下さい』


 佐藤君とブキミちゃんはそれぞれ紙袋を持ちながら窓際の席、つまり私の方に寄って来た。その紙袋の中のクジを順番に引いて行くのだろう。私がブキミちゃんがズイと前に出した紙袋に手を入れようとしたその時、甲高い声がそれを遮った。



『ちょっと待ってください!』



 生徒達がざわめく教室に、鼻にかかった耳障り……じゃない、可愛らしい声が響き渡った。その声にクラス中の視線が集中する。声の主は教室の中央辺りに座っている「成田耀子」だった。


『……あら? 成田さん、何かご意見でも? それともあなたが委員を決めてくれるのかしら?』


 進行を妨げられ明らかに機嫌の悪いブキミちゃんが、メガネをクイっと上げながら低いハスキーボイスを轟かせる。それに対して成田耀子は、そんな訳ないでしょと睨んだ後、「ちょっと提案があります!」と鋭い目線と間逆な甘い声を上げた。


『いっつも出席番号の早い人からクジを引くのは不公平かと思いまーす。たまには、最後の方の人から引いてはどうでしょうかっ!』


 ブキミちゃんにガンを飛ばしたまま発言する成田耀子の意見に、教室内はまたざわめきだした。反対する者、賛成する者、再び騒がしくなった生徒達に佐藤君が「おい、静かにしろよ!」と声を掛けた。


『それ賛成です! 私も不公平だと思います』


 言い出したのはやはり原口美恵だった。女子のナンバー1、2の意見に、その他の女子は抵抗できずに黙っている。オマケに廊下側の出席番号後半の生徒も賛同し始めた。

 私は伸ばした手を引っ込めてブキミちゃんと佐藤君を見た。すると佐藤君は「どうする?」というような顔をブキミちゃんへ向ける。そのブキミちゃんは、


『うるさい雌豚共め!』


……という意味がこめられているかどうかはわからないが、あまり感じのよろしくない視線を悪女2人に向けた。しかし反論するだけ時間の無駄だと思ったのか、無言で佐藤君に目配せしながら出席番号の最後尾の席までツカツカ歩き、クジ引きが開始された。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ