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振り向けば、君がいた。  作者: 菩提樹
中学2年生編
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エイプtoキャンプdeハプニング⑧

この章は多分に過激な表現が出てきます。PG12指定とさせていただきます。読む際にはお気をつけ下さい。


 カモを見て一瞬連合軍の幹部達は躊躇した。

 そりゃそうだろう。連合軍の最高司令官である尾島マッカーサーを筆頭とした幹部達と私は、数時間前まで最悪の関係だったからだ。果たして彼女に頼みこんで素直に「いいよ」と快く引き受けてくれるか甚だ疑問だ。むしろ逆に密告され捕虜になる可能性が大だった。

 再び諦めモードに入った連合軍。

……が、代々続いているこの奇襲作戦が自分たちの代だけ中止して撤収するなど、プライドの高い最高司令官が納得する筈もなく。カモを力づくで捕獲し脅して共犯にしてしまえばいいという考えに達したのだ。


『どうせ地味でドンくさい荒井美千子のことだから、ちょいと脅せばコロっと言いなりよ』


 実に物騒で失礼極まりない話である。

 しかし連合軍は尾島マッカーサーの意見に頷いた。言いだしっぺである最高司令官と幹部達自ら捕獲に乗り出し、作戦は見事成功! ……だったのだが、ここで誤算が生じる。思った以上に捕虜が暴れ、泣きだす始末。さすがに暗闇の中で、か弱い女子生徒を手篭にするのはマズイだろと仏心を出したのが失敗だった。危険を承知で懐中電灯をつけ安心させようとしたのが仇となり、突如現れた裏番の顔に捕虜がビックリして白目向いて気絶してしまったのだ。お陰で私が起きるまで5分のロスタイムができたという。もちろん無理矢理起こしてもパニックになる始末。


『別になんにもしないから、とにかく落ち着け!』


 裏番の御言葉に、落ち着けるか! と文句を言いそうになった。

 大体背後から羽交い締めして口を塞いだ挙句、草むらに連れ込むなんて……どう見てもまっとうな人間のすることじゃない。本気でリンチか貞操の危機かと思ったのだ。あの時の恐怖ったら、味わったものでないと、女でないとわかるまい。涙目で睨むとさすがに連合軍はバツの悪そうな顔をしたが、ここで時間を食ってられない、と思ったらしい。

 未だに懐中電灯を顎の下から照らしながら、目の前でヤンキー座りをしていた桂龍太郎が、強硬突破に出た。


『ボインに頼みがある』

『おおおお断りします』


 目の前の亡霊は途端に険しい顔になった。

 けど私は日ごろの彼らの行いから、どうせロクなことではあるまいと反射的に口応えしてしまった。非常にマズイと思ったが、時既に遅し。出てしまった言葉は取り戻せない。もしなにかされたら大声を出し、雄臣推薦の痴漢撃退装置の紐を解除するつもりだった。さっさと逃げようと立ち上がろうとした私に、いまだ背後から抱きついている尾島に引っ張られ、目の前の桂龍太郎に肩を押し込まれた。いよいよポケットに忍ばせた警報機の出番だと取りだす前に、後ろの最高司令官に頬をガシっと抑えられ、痛いほどグリンと後ろを向かされた。

(イデデデ~!)

……どうでもいいが、首がグキっと嫌な音がなった。それに、腰に回されている腕が徐々に上へ上へと上がってきてるのは気のせいだろうか。ちなみに風呂上がりの上に、こんな大事件に巻き込まれると思わないので、ガッチリタイプのブラではなく、生地が薄めの可愛いピンクのレースが付いているブラである。 非常に危険極まりない。


『……いいか、良く聞けよ、ヒョットコ! 大人しく交渉に応えるなら危害は加えない。約束する。しかし俺達の交渉を断った場合、この先の中学生活がどうなるか、わかってるよな? それが嫌だったら、俺達に協力するしか、ねぇよな? おっと、ここで暴れて大声を出しても無駄だぜ。この状態で見つかれば、オマエも立派な同罪だ。つーか、絶対道連れにしてやる!』


(つーか、この状態、既に危害加えてんじゃん……)

 実に文句を言いたかったが、この時点で捕虜に選択権はない。私は仕方なく頷くと、連合軍は安堵のため息を漏らした。やっと頬を押さえている尾島の手も外れ、「ヒョットコ」から解放されたが……なにより首と頬が超痛い。


『そんじゃ、交渉開始だ。わりぃんだけどよ、女子の宿泊棟の1階の奥、大浴場へ行く廊下の突き当たりを右側に行って、さらに奥に非常用の出入り口があるんだよ。けど鍵がかかっていて外から入れねぇんだ。そこで、ボイン、オマエの出番だ。そこのカギを中から解除しろ。いいか、誰にも見つからないようにしろよ。途中センコーの部屋がある筈だ。そこは特に気をつけて行け。以上だ』


 なにが「以上」だ、裏番よ。

 そんな高等なミッション、この地味でドンくさい私にできるとお思いですか? ……という不安そうな顔を裏番に向けると、裏番は無言で「健闘を祈る」と頷き返してきた。後ろの最高司令官はよいしょと立ち上がり、私の脇に腕を通して持ち上げ立たせてくれた。そしてクルッと自分の方に向けて、肩にポンと手を置く。


『そういうことだ。全ては君の腕に掛っている。このミッションが無事達成されれば、君の1組での学校生活は保障される。このオレ様が約束しよう。なんなら昨日のこと、オレ様自ら噂をばら撒いてもいい。東雄臣に彼女がいるってな。大体な、チュウも悪いんだぜ? あんな紛らわしい態度とるからこんなややこしいことになるんだよ』

『…………』


 オマエにだけは言われたくない、そう思った。


『ま、確かにあの男とチュウじゃなぁ~どう見てもおかしいと思ったんだよ! 気の毒だけどさ、幼馴染ってそんなモンだよ。ハッハッハ~』

『…………』


 既に尾島啓介という名前は、「マル秘! 美千子のイ・ケ・ナ・イ☆ブラックリスト~迷わず瞬殺したい人間達~」に掲載済みだが、たった今瞬殺優先順位第1位の雄臣を抜いてトップに躍り出た。

 しかしそうとも知らない目の前の司令官の瞳には、数時間前まで感じていた冷たさは既になく、好奇心旺盛で悪戯好きな少年の輝きが戻ってきている。おまけにずうずうしい態度まで。


『お、そうだ。さっきの歩腹前進の時、ここケガしたんだよな。確かオマエ絆創膏持ってただろ。カレーん時、星野かずゆきに渡していたもんな。遠慮せずに出せよ。しょうがねぇから? オレ様ももらってやるぜ』

『…………』


 厄介な大物妖怪がもう1人増えた。

 そっと見えないように星野君に渡した筈なのに……あの距離で一瞬の出来事を見ていたとは。わかっていたが、普通に人間ではない。無言で絆創膏を取りだし渡すと、ごっそり持ってかれ、『他に怪我した人~』と勝手に配布する始末。私はそれを複雑な気持ちで眺めていた。

(事態が悪くなってる……いっそのこと、今までの最悪の関係の方が良かったのでは)

 私は不安と不満で胸を一杯にしながら、満天に輝く星空を見上げた。


*******


「つ、疲れた……」


 やっと連合軍から解放された私は、ヨレヨレな姿で自分の大部屋へ戻った。

 リラックスと身体を綺麗にするためにシャワーを浴びに行ったのに……連合軍のせいで髪は乱れるわ、服は汚れるわ、最悪である。

 部屋に入ると既に奥住さんと光岡さんの姿はなく、大人しめな感じの女子が数人いた。彼女たちは部屋に入ってきた私を遠くから眺めていたが、私は極度の疲労の為、挨拶する余裕もなく静かに自分のカバンのところに戻り洗面道具をしまった。

(2人とも、先に行ったのかな)

 乱れているであろう髪型を整える為に手鏡を覗けば、私はすっかり生活に疲れた中年のオバハンのような顔をしていた。ボサボサに乱れた髪、目は充血し、涙の痕まである始末。しかも髪を止めたいた黒いクリップが拉致られた時に落ちたのか、いつの間にかとれていた。

(あ~あ、探しにいくのも面倒だし、あんな暗いところもう行くのヤダし……。それより、絶対和子ちゃん達に何かあったのかとツッコミ入れられるなぁ。行く前に絶対顔を洗わなきゃ!)

 少しでもマシになるように、髪に念入りに櫛を通した。


「あ、あの……荒井さん」


 背後から弱弱しい声を掛けられ、後ろを振り向くと、2人の女の子が立っていた。それも少し複雑な表情をしながら。


「……は、い?」

「……あ、その……えっと、奥住さんと光岡さんがね? 先に2組に行ってるからって、伝言頼まれたの。帰ってきたら、3階の『百合の間』に来てねって、言ってた」

「あ、ありがとう」


 普段ならありえない光景だった。

 誰かさんのせいで、クラスの連中は男女問わず私に話かけるなど滅多にない。これがいつもの私だったら、それこそ尾島に拉致される前だったら、飛び上がって喜んだかもしれない。けれどもこの時の私は疲労困憊の状態でグッタリしていた。我がままを言わせてもらえば、このまま2組に行かず寝てしまいたいくらいだった。なので、お礼の声も覇気がなく素っ気なくなってしまったのだ。けれどそんな私の態度を彼女達は何を誤解したのか、ますますバツの悪そうな顔をして顔を見合わせた。2人のうちの1人、縄跳びで一緒の回し手だった「鈴木さん」が私の前に座った。


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