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振り向けば、君がいた。  作者: 菩提樹
中学2年生編
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エイプtoキャンプdeハプニング⑥

この章は(特に)多分に過激な表現が出てきます。PG12指定とさせていただきます。読む際にはお気をつけ下さい。

 人は本当に恐ろしい場面に直面すると声が出ない、そんなことを聞いた気がする。



 「っ!」



 悲鳴を出したつもりなのに、声にならない空気のようなものが口から洩れただけだった。

 心臓の鼓動がガンガンと鳴り出し、夢中でいくつもの手を振りほどこうと暴れると、手に持っている懐中電灯の光があらゆるところを照らした。しかし頼みの懐中電灯もとうとう洗面セットと共に地面に落ちた拍子に消えてしまう。

(う、うそぉっ~!)

 同時に後ろから両腕と口をガッチリ塞がれると、やっと声らしきものが出た


「ムムムムうぁっ!! (だだだだれかっ!!)」


 宿泊棟の窓から差し込むぼんやりした明かりだけが頼りの真っ暗闇の中、私は無理矢理横の草むらの方へ引きずられて行った。空しく響くいくつかの足音と私が引きずられる音。私はこれから自分の身に起こる最悪な事態を想像して震えあがり、必死にもがいた。

(ままままさか、そんな! この小説、たしか年齢制限してないわよねっ?! 良い子の皆さんが読む、清く正しい全年齢向けの小説でこんな破廉恥なことあっていい筈ないわよねっ?!)

「貞操の危機」という文字が頭を過り、マジで逃げないとヤバイと渾身の力を込めて動かすがビクともしない。それどころかますます建物から離れていく始末。見えない相手との攻防の中で、息は上手く吸えず、心臓が嫌な感じで収縮と拡張を高速で繰り返す。とうとう感情の高ぶりが最高潮に達し、出したくても出せない慟哭が別の形で目から溢れた。

 涙の粒がいくつも落ちると、私の口を塞いでいる主が一瞬身体を震わせ手を緩めた。その隙をついて大声を出そうと息を吸い込んだ途端、私の身体を押さえていた腕と口を塞がれていた手の力が一層強くなり、ギュゥっと抱きしめられた。

(ヒィィィ、もう、もうダメ~!)

 とうとう覚悟をするように、こっちもギュッと目を瞑ると……。




 耳裏、次に耳へとなぞるように柔らかい感触を感じた。それはフワッとしたマシュマロのような感覚。




「ッ?!」


 その生温かい得体のしれない何かに、思わず恐怖の震えとは違う種類の感覚が身体を走り抜けた。


『……めん、な……もし……ぇから』


(え? え? ななななにっ?!)


 聞こえるか聞こえないか微妙な大きさの囁きが聞こえ、ゾワっと鳥肌が立った。そして、わずかにカレーとスナック菓子のソースの匂い……。


(キャベツ太郎?)


 こんな非常事態に、どうでもいいスナック菓子の名前が頭の隅に過った。そして生暖かく妙に柔らかい感触が首筋に強く押しつけられ――。


(あっ! ヤ、ヤダ……イヤ……ン……イッ?! ィデデデデ~っ!)


 押しつけられたと思いきや、急にガブリと首筋を噛みつかれ、離れたその時。

 目の前でパッと明かりが灯り、亡霊のような顔が映し出された。



「●△$&%#@π÷っ!!」



 私の意識はそこで途切れ、完全にブラックアウトした。


***


 ボンヤリとした意識の中。


 ペシペシ……。


(……なに? 頬になにかが当たっている?)


 重い瞼を開けると何か人のようなものが天井に映っていた。

 手を動かすと天井に居る人間も同じような仕草をしている。どうやら天井は鏡張りらしいことが判明したが、なぜこんなところに鏡があるのか。普段用途するには使いづらい場所ではないか。


『……私?』


 どうやら映っているのは自分の姿らしいのだが、薄い部屋着を着ていた筈なのに、何故か芸子のような着物姿だ。派手な天涯のついた丸いベッドの上に着物を着ている自分がゆっくりと回っている。いや、回っているのは私じゃない、ベッドそのものが回っているのだ。オマケにムーディー満載で、無駄に薄暗い。


(……つーか、ここ何処よ? 確か私、キャンプ場にいた筈では?)


 目をぐるりと回し、少し起き上がると……どう見てもチンピラ風情の男が、いきなり視界に入ってきた。


(ヒィィィッ!)


 ビックリして仰け反ると、目の前の男はニヤリと笑いながら人の上に跨ってきた。

 その男は白いスーツの上下に紫のシルク素材の派手なシャツをインし、薄い色のレイバンなサングラスとゴールドチックなアクセサリーを嫌味な感じで身につけ、下品な笑いを浮かべていた。

 手にしている諭吉の束で、私の頬をもったいぶるようにシバきだす。

 一瞬見たときは元裏番かと思ったが、よく見ると……チンピラは桂寅之助というより尾島啓介だった。

 どうでもいいが、その格好、意外としっくりキテるぞ。


『やっとお目覚めかい! ったく、手間取らせやがって……まぁえぇわ。ほんなら早速エキサイティングな営みといってみましょか! とりあえず……まずはそのボインで「パフパフ」やな。今夜は寝かさへんで~』

『……はぁ? なななんでアンタがここに……って、パフパフぅ?! な、何寝ぼけたこと言ってるのよ!』

『寝ぼけてるのはオマエの方や。ホレ、ここに束が2つあるさかい。一晩でこれなら、文句あらへんやろっ!』

『ダダダダメ! そんなはした金程度で……じゃなかった! おおお乙女の身体をお金で買うなんて最低よ! 人間じゃないわ! そこどいてよっ、この人でなし!』

『ホォ~よぉわかったのぉ? そうや、ワシは人間じゃおまへん……人間の皮を被った化け物や!』

『とうとう自分で言っちゃったよ、この人! ……今更だけどこれって夢よね? 夢ならこっちのもんよ! 取り巻きがいない今がサシでヤるチャンス! 日ごろの恨みつらみ、カレーの屈辱を晴らしてくれるわっ!』

『はぁ? なんやねん急に! え、ちょ、アワワワ……なんでそないな怖い顔……やっ、だから! ちゃう、ちゃうねんって! あれはな? 俺と言う男がおるくせにオマエが勝手に星野カズとイイ感じでようやっとったから……。だだだ大体なぁ! 俺のお気に入りのオモチャのくせして、雄臣だの、龍太郎だの、カズだの、浮気したのはそっちやん! ……って、そないに睨まんでもぉ。あれはその……そう! こう、お仕置きしとくかっ! ……て、感じで、やな……』

『お仕置きってなによ! それにいつアンタが私の男になったのよっ?! 勝手なことばかり……お気に入りのオモチャのわりには、よくもあれだけ飽きもせずに可愛がって(いためつけて)くれたわねっ! オマケに私は無視するくせに、他の女とイチャイチャイチャイチャイチャイチャ……もうアッタマきた! 問答無用で成敗してくれる!』

『わっ、こらっ、ホテルの備品投げるなやっ! わわわわかった! 謝るから落ち着かんかい! とりあえず、え~ここはこの束2つと、俺の熱い大砲で勘弁してくれや、な?』

『オバカ! そんなんでこの1年2ヵ月の鬱積が勘弁できる訳ないでしょっ! 大体本当に熱い大砲を持っている人はね、自ら大砲なんて言わないもんよっ!』

『……鈍臭くて地味な割には、言うことごっつぅキツイやんけ……』

『アンタにだけは言われたくないわっ! それにそんな200万程度でエキサイティングな営みができると思ったら大間違いよっ! ……そう、慰謝料と操を合わせて最低でも2億! それくらいサクッと大盤振る舞いしなさいよっ!』

『……オマケにえらいガメついのぅ。ていうか、金さえあればヤル気まんまんちゃうん……?』

『悪いけど、私は金髪碧眼と出会うために全てをかけてんの! これから留学費用諸々でお金が必要なのよ! ……って、ちょ、やめ、汚らわしい手でそんなっ!』

『ヒッヒッヒ~とりあえずこの先を期待する読者様を待たせるわけにはいかへんので、先イカさしてもらいまっせ!』

『待てないのはむしろアンタでしょ! ……て、えッ、いきなり?! あ、ダメッ、そこはもっと優しく……それより料金2億、キャッシュ前払いでヨロシク』

『そうそうキャッシュ前払いせなアカンな! ……って、オイ! まだ何もシとらんわっ! 大体このオレ様目の前にして金髪碧眼ってなんやっ?! なにより2億はどう見ても高すぎるやろっ、もっと勉強せぇっ!』

『なによ、見た目も小さけりゃ懐も小さい男ね! それにここまできたら、もうヤッたも同然でしょ!』

『んなアホな話、あるかいっ?! しかも見た目も小さいって何気に失礼なやっちゃな……言っとくけどな、オマエよりは大きいわいっ! ……5ミリやけど……って思いっきりギャグ路線に逸れてムード台無しじゃ! え~いクソッ、仕切り直しじゃわいっ! 喚くなやっ、こっちは大枚はたいてるさかいっ! 大人しく覚悟せぇ!』

『あ~れぇ~御無体なぁ~』

『よっしゃ、身ぐるみ全部剥いで、ウッフン☆タイムや!』

『……ウッフンよりむしろウップ……ま、回り過ぎて……気持ち……わるい、オエェ~』

『わぁッ、このドアホ! こないなイイ雰囲気の場面で吐くなやっ~!!』


 私はチンピラに帯を解かれ、グルグルと回り……しかもベッドもグルグルグル……。

 それこそウッフンじゃなく鬱憤を吐きだして心は軽く爽快だったが、ついでに胃の中も軽くなりそうな勢いだ。

(うぅ、カ、カレーが!)


 ペシペシ!


(カレー……いや、顔はやめな、バディバディ……って、三原順子姉さんも言ってるでしょうが!)


 バチッ、バチッ!


(マジで、地味に痛いんですけど……)


 遠くの方で誰かの声がする。それもドスの効いた声が。夢の筈なのに何故か頬の辺りに感じる、リアルな鈍い痛み。


『……きろ、ボイン……』


(ちょっと、そのボインがいま貞操の危機に晒されて……)


『オイ、オイッ! 起きろ、ボイン!』


 その声と肩を揺さぶられて完全に覚醒した。

 ハッと目を開けると、そこには諭吉の束を持ってるチンピラ……ではなく。懐中電灯を下から照らした、ある意味立派なチンピラ候補である、裏番の顔がドーンと目の前にあった。



「ぎゃぁ、んぐぐぐぐ?!」



 ゴンッ!



『いてぇっ!』

(いったぁ!)


 悲鳴の途中で再び口を塞がれ、慌てて起き上がろうとしたら、後ろのに居た人物に頭をぶつけ、目から星が出た。


『バカッ、落ち着け、ボイン!』


 恐る恐る目を開けると、裏番の姿をした亡霊……ではなく、亡霊のような裏番・桂龍太郎が相変わらず懐中電灯を下からかざしたまま、「静かにしろ!」と鋭く言い放った。

……どうでもいいが、亡霊ちっくなヤンキーはそれはそれで恐ろしい。

 目を見開いたままその亡霊を見上げていると、目が暗さに慣れ、彼の周囲に何人か人がいるのがわかった。薄暗いながらも、そのメンツが誰だかわかると途端に震えが襲ってきた。

(まままさか、リンチ……とかっ?! カレーの時の腹いせ……って、あれは私のせいじゃないでしょうがっ!)

 炊事場の件で復讐をされるとガクガク震えていると、後ろから聞き覚えのある低い声が聞こえてきた。


『……ドウモ、コンバンワ。ゴ機嫌イカガデスカ、荒井美千子サン』

『モガッ?!』


 普通に挨拶されているのに、何だこのプレッシャー。

 口を押さえられているにも関わらず、無理して後ろを振り向けば、見覚えがある……どころではない。ついさっきまで(夢の中で)2億円払わず私の大事な操を無理矢理奪おうとした、忘れたくても忘れられない「ザ・悪魔」が、眼光を鋭く放ちながらか弱い乙女を羽交い絞めにしていた。


ほひは(おじま)っ!』

『おっと! ……随分と暴れてくれたうえに、気絶をしたと思いきやご丁寧に寝言や頭突きまで……イテーうえに、世話が焼けるったらありゃしねぇ! ……デ、ゴザイマスネ。荒井美千子サン』

『んむむごぉぁっ~!』


 暴れる私に、シーっと一斉に口に指を当てる、数名の亡霊……ではなく男子生徒達。

 夢の続きにしては性質が悪すぎる。しかし、背中の感触が「こんどこそ現実だよん☆」と物語っていた。夢同様張り切って悪魔に応戦したいところだが、モノホンの尾島は……こう、なかなか、手強そうだった。



『静かにしろ、チュウ! 大声を出したらどうなるか……わかってるんだろうなっ?!』



 史上最悪な展開だ。



※パフパフ…ドラゴン●ール参照。

一部健全な良い子の皆様には相応しくない表現がありましたことを深くお詫び申し上げます。m(__)m

ちなみに、チンピラの姿は一見見「ねずみ先輩」のような姿を想像していただければ幸いです、ポッポ。そして、夢の中の関西弁は意味はありません。ただ雰囲気を醸し出す為使ってみただけですf(^_^;)菩提樹は関西がじもぴーではないので、文法の使い方が正しいとは限りません、ご了承ください。

また、今時のラブホには回るベッドはないと思う……私は当たったことがありません(笑)。「今でもここにあるよ!」と知っている方、ご一報お待ちしております!

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