表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
振り向けば、君がいた。  作者: 菩提樹
中学2年生編
60/147

エイプtoキャンプdeハプニング④

この章は多分に過激な表現が出てきます。PG12指定とさせていただきます。読む際にはお気をつけ下さい。

 私はこの時、後悔をしていた。雄臣の忠告をすっかり忘れていたことを。


 確か、「一人で行動するんじゃない。常に誰か友達といろ」と言っていた。まだ24時間経っていないというのに、どうして私はこんな大事な言葉を忘れていたのか。


 私はついさっき、決心をしたばかりだった。本気で尾島達と関わるのを止めることを。


 数時間前、カレー作りをしている最中のことだ。24時間どごろか、半日も過ぎていないというのに、どうして私はこんな危険な事態に巻き込まれているのか。



 声を出したくても出せない私の前で、懐中電灯の僅かな明りの中で口に人差し指を当てて静かにしろという仕草をするのは、数名の男子達。そして、私の腕や身体を抑え込み、口を塞ぐ物騒な男は、その男子達のボス猿である――、



『静かにしろ、チュウ! 大声を出したらどうなるか……わかってるんだろうなっ?!』



 尾島の鋭い声が、耳元で囁かれた。


*******


 話は少し前に遡る。

 不穏な雰囲気で始まった冒頭の直前まで、私は穏やかな……でもなかったが、普通にキャンプを過ごしていた。


「荒井ちゃん、私達大浴場に行ってくるね!」


 洗面セットを抱えながら、満面な笑みで大部屋を出る奥住さんと光岡さん。

 遠足のメインイベントその2、3である、カレー作りとキャンプファイヤーも終わり、生徒達は未だ興奮冷めやらぬままだ。この後のガールズトークに備え、大浴場へ向かった我が1組女子。私は引き攣った笑いを湛え、「い、いってらっしゃい……」と弱弱しく手を振った。

(……ごめん、2人とも! その大浴場、死角から驚くほど丸見えらしいけど、うちのクラスはお風呂の順番が早いから、きっと大丈夫! ……だと思う。男子がたどり着く前に上がれるよ! ……多分)

 心の中で目一杯謝罪しながら、彼女らの後ろ姿に向かってエールを送った。


「さて、私も行こうかな」


 私は大部屋を出て、洗面道具を抱えながら大浴場とは反対側の廊下を歩いた。

 これから向かう個室シャワーは、団体用の宿泊施設の中ではなくて少し離れたバンガローやテントが密集しているところにあった。もちろんこれを使うのは女子だけだ。言わずと知れた女性特有の事情の為であって、こちらに男子がくることはまずない。

 この時ばかりは、妖怪からの垂れ込み情報に感謝した私。

 別にインチキをしたわけではない。実際本当に生理だった。……ほとんど終わりかけだったが。しかし全裸ウォッチングの餌食にはなりたくないので、背に腹を変えられなかった。こんな胸だけ発達してあとは大したことない身体を見たって仕方がないとは思うが、一応私だって年頃の女子。やっぱり全裸を見られるのは抵抗があった。他にも生理の人がいますように! ……と心から願ったが、我が1組では個室シャワーを使う希望者がなぜか私1人。成田耀子や原口美恵らはこっちを見てヒソヒソ囁き合っていたが、無視した。別に彼女らの全裸が男子に見られようが見られまいが、私にはどうでもいいことだったからだ。


***


「……1人で行かないといけないけど、しょうがないよね」


 私は懐中電灯を付けながら1人寂しく呟いた。仕方なく月と星が夜空に瞬く満天の頭上を眺め、ロマンチックな気分に浸ろうとした。……が、ロマンチック以前に――。

(……暗い、それにしても暗過ぎる……)

 宿泊施設玄関を背にして裏手の方にまわり、静かに歩き出す。施設がある周辺はかろうじて明るかったが、数メートルも離れてしまうと真っ暗闇だった。バンガローに続く細い道に明かりはなく、手元にある懐中電灯と遠くに見えるバンガローがある辺りの明かりが頼りだ。

(ううう、怖いよぉ)

 ガタガタ震えながら、鬱蒼とした茂みの間に続く細い道を恐る恐る進んだ。

(……つーか、なんで今まで女子風呂が丸見えという事実がバレなかったのか、そっちのほうが怖いよ。どんだけ男子の間で秘密厳守なんだ!)

 女子風呂の外に覗きスポットがあるらしい、今回のキャンプ宿泊地。だが実際は、男子と女子の寝泊りする棟が別という、思春期対策を施した施設だった。オマケに男子の棟と女子の棟の間にたちはだかる、「広くて暗いグラウンド」という小憎らしい障害物付き。その結果、年頃の男女がお泊りと言うアダルティーなシチュエーションで「ノルマンディー上陸作戦」……ではなく、「桃色ハプニング大作戦」を遂行しようものなら、そのグラウンドを突破しなければならなかった。

 しかもこれが只のグラウンドではない。周囲に明かりはおろか、敵襲対策の為にグラウンドの周囲を、今年2年の男子保体且つ10組の担任に着任した箕輪ヒトラーを筆頭としたナチスドイツ軍が、交代制でウロウロしている超厄介な代物なのだ。よって毎年この包囲網を突破するのが連合軍である男子生徒達の、その奇襲を迎え撃つのがナチスドイツ軍である教師達の、それぞれの腕の見せ所となっていた。

 この攻防戦が名物な2年の遠足キャンプ、連合軍(男子生徒)が無事包囲網を突破すれば、ご褒美として乙女達(女子生徒)との桃色トークタイムが待っているが、もし途中で見つかったり捕獲されれば、一晩じゅう正座の刑に処せられた上、反省文を書かせられる刑が待ち構えている。


 たかが女子とのトークタイム、よくて告白かラッキーチッスごときで、なぜそんな危ない橋を渡ってまで女子の元に男子がやってくるのか。


 それは、この世に人が誕生した時から繰り返される歴史。男と女の身体に深く刻み込まれた本能……という高等な理由かどうかはわからないが、少なくとも、映像や紙面ではなく目の前で「生全裸」がタダで拝める至福の時間が待ち構えているとなれば、そりゃ別ってもんだろう。

 告白が成就する伝説か肉三割増しか……精神的な恋愛面に関しては、女子生徒の方の成長度に軍配があがるが、肉体的な欲望面に関しては、俄然男子生徒の成長度に軍配があがるのがこの年頃の特徴である。

(つーか、アホ過ぎるだろ。でもそんなすぐには、ねぇ? いくらなんでも来れないよ、ねぇ?)

 たとえ女子の大浴場に覗きスポットがあろうとも、まずグラウンドを突破しなければそれも無理なのだ。時間帯からして、まず我がクラスはセーフであろう。……後半のクラスは怪しいが。

 これでも私は全女生徒の操を守るため、事前に先生に報告しようと思ったのだ。だが、事実かどうかわからないし、宿泊施設にケチつけるようで、とても実名で進言する勇気はなかった。誰から聞いた? と詰問されても困るし。もしガセだった場合恥ずかしい。ただ私にできることは、「1人でも多くの人が生理になりますように」と祈ることと、自分の身の安全を守ることだけだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ