学校行事的宿泊前夜ノ怪~鬼神的心中未理解編~
この章は多分に過激な発言が出てきます。PG12指定とさせていただきます。読む際にはお気をつけ下さい。
『そんなに怒るなよ、ミチ』
肩を怒らせながら自転車を引く私の背中に、雄臣はからかうような言葉を投げた。肩越しにジロリと睨むと、雄臣は「わかった、わかった、謝るよ」と言ったが、どう見ても口だけだ。
(くそぉ……どうでもいい内容までペラペラしゃべりやがって!)
もう一生関わりたくないと正面を向いたが、雄臣は本性を隠さなくていい人物と2人きりで気を許しているのか、怒る様子もなく小さい笑いをこぼした。
『まぁ、誤解が解けて良かったじゃないか。これでミチも少しは学校で過ごしやすくなるだろ?』
『は、初めっから、彼女がいると言ってくれれば、3年から呼び出しを受けることもなかったんですけどねぇ』
『バカ。それじゃぁ、面白くないだろ?』
『ハァ? おおお面白くないって、なんなんすか?!』
『初めてミチの教室に行った時さ。アイツ、すげえ睨んできたんだよ』
『――え? 熱いクソゲーになんて飽きたんだよ?』
『すぐピンときてな』
『スカドンのコーナー?』
『確かに恋は障害がデカイほうが燃えるし、ライバルがいると張り合いが出るよな』
『密かにコーヒーはジョナサンの方がイケるし、フォルクス、ガスト、バーミヤンか迷うよな?』
『こりゃ本腰入れてやるかって思ったんだ』
『コリアンホンコンヤンバルクイナでホモったんだ……って、ちょっと、雄兄さん大丈夫ですか?』
『……おい。そのセリフ、そのまま熨斗つけて返すぜ。そっか、ミチは気付いてないのか。奴も気の毒にな、敵ながら同情するよ』
『は?』
『いや、いいんだ。奴のことは永遠にそっとしといてやれ。ま、ミチが気付いてもこれまた一興だけどな』
『一休?』
『……いい加減にしろよ。トンチ効かせてどうすんだよ。どうせなら愛の言葉を聞かせろ。いい加減中2になったんだから、恋愛のスキルをアップさせろよな』
『おっしゃる意味がまったくわかりません』
『いいだろう。スキルアップ作戦その一だ。今日ミチを送ったのは他でもない。例の昔からの約束、まだ無効じゃないってことを言いたかったんだよ』
『……約束が無効って……まさかっ?!』
『喜べ。親父同士はそのつもりらしい』
『ちょちょちょっと! 嫁がどうのこうのって話じゃないでしょうね?!』
『そのまさかだ』
『ヒェ! そそそそれは雄兄さんの方から冗談じゃないって断って、とっくの昔に無効になりましたよね?!』
『残念ながら、そんな過去の事は忘れたよ。それに償いするって言っちゃったしな。もし嫌なら抵抗しても構わないぜ。その方が達成した時の喜びが倍になるし、なんせ俺は個人の自由と基本的人権を尊重する男だからな』
『とてもそういう風には見えないのですが……』
『ま、うかうかしてるうちに東美千子になってたというのがオチだな。東が嫌なら俺が荒井になってもいい。この際名字はどっちでもいいだろ、同じア行だし。そんな大した問題じゃないよな』
『バッバババカなこと言わないでっ! そそそそんな償い、いらない! そそそそれにさっき彼女いるって!』
『目障りで気に入らないライバルにはな、牽制しつつも、ちょいちょい甘い情報を流して油断させておくんだよ。トドメは目一杯高いところまでのぼせ上がって安心したところを、こう思いっきり叩きつけた方が威力があるんだよな』
『……あのですね……訳わかんないんですけど。わ、私が聞いた質問の答はっ? 付き合ってる彼女はどうするんですかっ!』
『残念ながら、どんな天才でも未来の事はわからないんだ。それに今付き合ってる彼女は単なるライクだよ、セックス込みのな。ラブじゃない』
『…………(何気に最低だな、オイ)』
『誤解するな。ミチの期待に添えるような男になる為に必要な過程なんだ。暫く目を瞑ってくれ。だがな、ヤキモチはいくら焼いてもいいけど、間違っても警察沙汰は勘弁してくれよ』
『…………(最低と言うより、ここまできたらもはや外道だろ)』
『一緒に中学生活が送れるのもあと10ヵ月か。ミチ、俺が行く高校のランクまで全力で成績を上げろ。先に行って待っててやるから』
『私まだ中2になったばかりで、ア・テストもまだなんですが』
『それまでは秘密の清い関係でいこうぜ。いくら親公認って言ってもな、この手の印象は大事だからな』
『…………(親公認の前に、私の意見聞けよ)』
『いいか、間違っても俺をミチの中から追い出そうと考えるなよ。そんなことしたら、俺の気に入らないリストのトップにミチの名前が載るぜ? そうすると自動的に学校に居られなくなる。俺の威力、この2ヵ月で十分わかったよな』
『その威力、なにか間違ってるような気がします』
『とにかく、明日のキャンプは気をつけろ。こういうイベントになると浮かれて気が緩むバカがいるからな。桃色ハプニングなんてふざけた伝説もあることだし、用心に越したことはない。ったく、ただでさえミチは中2の身体じゃないっていうのに……。そうだ! 言い忘れるところだった。キャンプに行ったら、大浴場に入るな。あそこは死角があって、外から覗けるんだよ。この目で確かめたから間違いない』
『私の記憶が正しければ、雄兄さんは確か今年の3月まで他校だった筈では……』
『言っとくけどな、わざわざ見に行ったわけじゃないぞ。俺だってそんなに暇じゃないんだ。たまたま前の学校も去年そこでキャンプしたんだよ。その時確認した。驚くほど丸見えだ』
『…………(犯罪だろ、それ)』
『だから今回は生理と言って、個室シャワーにしておけ。おっと、それから夏のプール授業も生理とか理由付けて全部休め、わかったな』
『普通に無理なんスけど』
『そこは気合いでなんとかしろよ。いいか、ミチ。良く聞くんだ。人間にはな、時に死ぬ気でやらなきゃならない場面があるんだよ。スキルアップ作戦その二だ、覚えとけ』
『プールごときで、どんな場面ッスか、それ』
『残念ながら、キャンプに付いて行ってやることができない。だから貞操はガッチリ自分の力で守るんだ。絶対一人で行動するんじゃない、常に誰か友達といろ。間違っても男に愛想振りまくなよ? そうだ! 念の為にコレを渡しておく。痴漢撃退用の警報機だ、紐を引っ張れば音が鳴る。俺だと思って常に肌身離さずもっておけ。本当はスタンガンにしようかと思ったが、そこまで大袈裟にすることはないだろ。……ッチ、油断はキャンプの後にすりゃよかったなぁ。少し早かったけど、まぁいい。この2ヵ月、奴の態度からして、そう急にコロっと態度は変えられないだろ』
『やっぱり言ってる意味、良く分からないッス』
いい加減日本語でしゃべってくれと言う前に、コンパクトサイズの警報装置を私の手に握らせた雄臣だった。
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(……一体、あの男は何をしたいのだろう)
いきなり豹変したあの鬼神・修羅の目的がわからない。
とりあえず当面の目標は、あの傲慢で自分勝手な妖怪から逃げ切ることなのだが、逃げ切るなんて簡単に言える相手じゃないのが厳しいところだ。
(とりあえず、一緒の学年じゃなくて本当によかった!)
どうせあの男は先に卒業してしまうのだ。そしたら何処へ行こうとこっちの勝手だ。念の為、雄臣が転校できないところを狙えばいい。
(そうなると……やはり女子高か)
本格的に英語に力を入れている女子高をしらべよう。キャンプから帰ったら大忙しだ。
(女子高から女子大に進み、海外へ高跳びだな。いや、この際高校出たらいきなり留学っていうのもアリだろ! そうなると、私立高校に、留学費用……ウチ、お金大丈夫かな? ……って、その前に家族にバレないようにしないと。バレたら完全にアウトだ)
悪いがウチの両親や安西先生、学校の先生も信用できない。
今のところは、ギリギリまで極秘に事を進めることを決心した荒井美千子であった。
――ちなみに。
いただいた雄臣の修学旅行の土産を開けてみれば、「家族全員で食べてください」と、八つ橋のお菓子と漬物だった。ここまでは良い。問題は個人的な土産だ。開けた瞬間、私と真美子は文字通り固まった。
真美子には京都のペナント、私には「奈良」、「大仏」と書かれた提灯。
「「…………」」
ご丁寧にも2人揃って金閣寺のミニチュア模型がオプションでついていた。
どうみてもいやがらせにしか思えない私は、普通の神経だと思う。それとも、性根が腐ってるのだろうか。
「スカドンの奇人変人コーナー」を知っていますか? 知っていたら、同志ですね、フフフ。ちなみに「ガスト」はまだこの頃には世に出てなかったかも。提灯のネタは創りました。本当にあるかどうかは不明です。でもありそう。奈良、大仏という字がセットの提灯を見かけた方は、ご一報ください。m(__)m