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振り向けば、君がいた。  作者: 菩提樹
中学2年生編
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学校行事的宿泊前夜ノ怪~妖怪大決戦終結後編~

この章は多分に過激な発言が出てきます。PG12指定とさせていただきます。読む際にはお気をつけ下さい。

「……疲れた」


 お風呂から上がってやっと一息つくと、私はベッドにダイブした。

(今日は本当に……本当に本当に本当に本当に史上最悪な厄日だよ!)

 枕に顔を埋めながら溜息を吐くと、顔全体が自分の吐いた息で温かくなった。暫く埋めていた顔を横にして、机の上に用意してある明日のキャンプの荷物を見上げた。


「よりにもよって、キャンプの前日。よっぽど運が悪いだろ、私」


 明日休みたいと思った。今日の疲れが風邪を引き起こし、高熱の状態にでもならないだろうか。とりあえず明日、尾島や小関明日香に会いたくない。

(絶対、明日のキャンプの夜、話のネタにされるな……)

 それでも、心は僅かに軽かった。

 雄臣に彼女がいると判明したいま、これで忌々しい噂は解消されそうだ。それに自分の感情を押し隠し、ビクビク生きてきた今までと違って、ちょっとの勇気で雄臣にあそこまで対抗できるとは……私もやればできるのかもしれない。これも全て中学生になってからできた友達と「尾島」という名の試練のお陰だ。

 そうだ、第一勇気が出たキッカケは尾島の余計な一言だった。よくよく考えてみれば、あの時理性が吹っ飛び、前後見境いなく怒鳴ろうとしたではないか。


「よくそんな勇気でたな……」


 中学1年まではあんなの日常茶飯事だった。

 久しぶりの嫌味におそらく過剰反応したのだろう。それか雄臣のせいでよっぽど虫の居所が悪かったのか。結局尾島への怒りの矛先は雄臣に変わってしまったが、この際結果が良ければ過程はどうでもよい。今日をお手本に、これからはこの調子で勇気を持って対抗しなければならない。

(これでも少しは成長してるんだよね。それにしても雄臣め、今後どうやってこの1年を乗りきって行こうか……)

 私はベッドの上で胡坐をかきながら今日の出来事を頭から追い出し、ウンウン唸りながら、今後の妖怪退治のプランを練った。


*******


 あれから私達は、もう夜の8時を過ぎて図書館も閉館しているし、区民センターの職員さんがチラホラ出てきたので、「万が一学校に通報されたらイカン」ということで解散になった。

 その直前までは、「彼女いるんだぜ、オレ!」宣言した雄臣に、辺見先輩や飯塚先輩達3年から質問責めだった。


『なによ~、やっぱ彼女いるんじゃないの、東君。それならそうと早く言いなさいよねっ? こんな2ヵ月も引っ張っちゃって。錦戸も、東君の彼女さんも可哀想じゃん』

『そうだよな。てっきりそこの(・・・)幼馴染と本当にデキてるかと思ったぜ。ま、そんなわけないか』


(そこの幼馴染とそんなわけなくて、スミマセンねぇ……)

 思わず尾島流に悪態付いてみた。無論心の中で。

 すぐさま「マル秘! 美千子のイ・ケ・ナ・イ☆ブラックリスト~迷わず瞬殺したい人間達~」に、3年バスケ部部長・辺見と名前を書き込んだのは言うまでもない。

 まったく、雄臣も雄臣だ。彼女がいるならいると、さっさと初めから教えてくれればいいのに。2ヵ月間、あることないこと噂された私の方が、錦戸ラフレシア先輩や雄臣の彼女よりよっぽど可哀想だ。


『それにしてもぉ、ミっちゃん、東先輩振ったんだぁ? もったいな~い』


 どうでもいいところに着目するのは、小リスじゃなくて小悪魔こと小関明日香。「小」という字がトリプルで付く癖に、吐き出す言葉と声は「小」なんて控えめどころか、厚かましく無駄に音量がデカイ。しかも今言った言葉はどう頑張って受け止めても好意的には聞こえない。むしろ、『こんなイイ男振るなんて、アンタ何様?』という風に聞こえる。



『雄臣の見かけに騙されてると、痛い目に合うわよ。外見は素晴らしくても、中身は真っ黒焦げで食えないから。アンタみたいにね!』



……という視線をお見舞いしてやった。普段なら引き攣った笑いをするが、今日はさすがに私も気分が悪く頭にきていたので、そんな気遣いは出来なかった。よくよく考えてみれば、そんな必要もないし、答えてやる義務もない。

 ご丁寧にも黙秘権を貫く私の代わりに小リスの疑問に答えたのは、雄臣。要らぬ情報を投下し、私の怒りをさらに煽った。


『アハハ、振られたって言ったけど、ガキの時の話だよ。ミチは俺じゃなくて、俺の親父(・・・・・)が好きなんだよ。なんてったって初恋だもんな、ミチ?』

『ちょ、ちょっと!』

『いやぁ、初めて会った時、親父がさぁ。ミチと俺を結婚させるのどうのとか言ったら、ミチ、なんて言ったと思う? 俺じゃなくて、親父の方がいいって言うんだぜ? さすがの俺も子供ながらにショックだったよ。つれないよな、ミチ』

『…………』


 なんという地獄耳であろう。

 東小父さんと2人だけの内緒の秘め事で、淡い桃色の思い出だと思っていたのに……。どうやってあの時の会話を聞いたのか。さすが妖怪親玉クラス、普通に人間ではない。

 益々殺気立つ私を置いて、幼い思い出話に和む雄臣と、尾島以外のその他大勢。


『え~そんなに東先輩のお父さんってステキなんだぁ』


 小リスの言葉に、雄臣は笑顔で頷いた。身内の自慢なんて、この年頃なら絶対にやらないが、雄臣がやると厭味にならないのだから不思議である。そんな彼は機嫌がいいのか、次々と言葉が出るようだ。


『俺から見ても頭くるほどね。あんな父親を持った俺が可哀想だよ。特にバスケやらせりゃ、天下一品だし。な、ミチ?』

『……そうね。小父様はホントにすごいわよね』


 私は素直に認めた。心の中で「アンタと違ってね!」と付け加えながら。


『でも、ミチの親父さんだってそうだろ?』

『は?』

『なんてったって、強豪●●大学のバスケ部のポイントガード、且つキャプテンだったもんな?』


 突然雄臣はとんでもないことを言い出したので、ギョッと目を剥いてしまった。朗らかに笑っている雄臣以外の皆さんが「え?!」と驚いた顔でこちらを見る。その顔には全員揃いも揃って「以外」「マジで?」と書いてあった。


『……あれ? 尾島君、知らなかった? 確かミチと同じクラスだったろ? バスケの話、ミチから出なかった?』


 朗らかだが完璧に毒が含まれている笑顔で言った雄臣の言葉に、尾島はさらに目を大きくしながら私の顔を凝視した。


『俺の親父もすごかったらしいけど、ミチの親父さんも負けていなかったんだぜ? 確か当時のキャッチフレーズが……そうそう! 甘いマスクで恋もボールも自由自在! ウケるだろ?』


 人の親を褒めてるんだかおちょくってるんだか……調子に乗っている幼馴染にキツイお灸を据えたかったが、それどころではなかった。身内の事情を暴露され、恥ずかしくて顔から火を噴きだしそうだったから。


『久しぶりに親父さんとあったけど、全然変わんないもんなぁ。春休みの時もバスケの腕、落ちてなかったし』

『……ハハハ、いえいえ、お恥ずかしい過去ですよ。今はただのしがないサラリーマンですよ。普通のオヤジですよ!』

『そんな事言うなよ、悟小父さん可哀想じゃないか! せっかくだからミチもバスケやればよかったのに。きっと親父さん喜んだぜ? そういえば、マミも辞めちゃったもんな。なんでだ?』

『さぁ、どうしてでしょうねぇ……』


 そう。素直な真美子は誰かさんの為にバスケットを始め、小学校の特別クラブのチームに入っていた。

 が、入った小学5年生の1年間は大変だった。何故なら、当時小6だった成田耀子とまったく気が合わなかったからだ。真美子と成田耀子、お互いそれなりに自信があってメチャ気が強い者同士。上手くいくわけがない。この点に関してだけは不思議と気が合う私たち姉妹。成田耀子をツマミに、軽く一晩談義がイケるほどだ。

 真美子は成田耀子の嫌がらせに決して負けなかった。もともとバスケ部の間で当時の小学5年と小学6年の仲が悪いことが幸いして、何度も食らいついては必死に対抗していた。しかし最終的には真美子に軍配が上がる。どうやら父親の血筋が目覚めたらしく、1年もしないうちにレギュラーの座を実力で勝ち取り、成田耀子と同じ土俵に上がったからだ。まぁ、正規の試合には「チームワークが乱れるから」と試合には出してもらえなかったようだが。それでも成田耀子が卒業し、真美子がキャプテンになった途端、山野小は結構強くなったという話だ。

 そんなバスケの実力十分な真美子なのに、中学の部活は英語部に敗れた途端、何故かアダモちゃん率いる和み美女系の可憐な体操部。理由は、


『はぁ? バスケ? ちょっと、雄兄さんが入らないのになんで成田耀子のいるバスケ部入らなきゃならないのよ! バカバカしい。それにね、バスケはある程度極めたからもういいの。それより体操部よ! 見た? このレオタード、可愛いくない? 私のナイスなプロポーションにピッタリでしょ? むしろ私が着ないとレオタードが泣くってもんよ。この姿、雄兄さん見たらきっとイチコロだわ! リンダ、困っちゃう~』


……だそうだ。

 英語部で惨敗したにも関わらず、すぐさま立ち直り、次の作戦で雄臣を狙い撃ちするリンダ。脱帽である。

 目の前の雄臣は真美子がバスケを辞めた理由をわかっているのか、いないのか。しきりに頭を捻りながら「どうしてだろうな?」などと言っている。呑気なもんだ。ここは大人しくリンダに狙い撃ちされてしまえ。


『どっちにしてもオヤジさんガッカリだな。娘両方ともバスケやらないんだから』

『……本当、何故でしょう。非常に残念です。でも真美子は体操部楽しいみたいですよ。一度くらい(レオタードを)見に行ってあげてはいかがですか。(そして体操部に変態扱いされろ)私も何故かバレー(の方)が(何十倍も)楽しいんですの。今度生まれ変わったら、考えてみるわ(きゃないだろっ!)』


 ホホホ~

 ハハハ~


「「「「「「「…………」」」」」」」


 どう見ても不自然に笑い合っている私達に、またもや黙りこむ、オーディエンス達であった。


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