学校行事的宿泊前夜ノ怪~鬼神修羅対足軽編~
この章は多分に過激な発言が出てきます。PG12指定とさせていただきます。読む際にはお気をつけ下さい。
雄臣の華やかな笑い声が夜の公園に響いた。
(なななんなのよっ!)
私は勢いを削がれたことに完全に頭にきて、今度は雄臣の背中の方を勢いよく睨んだ。
雄臣は私の殺気に気付いたのか、ゆっくりと振り返り、挑戦を受けるように好戦的な笑みを浮かべながら私を見下ろした。お互いの目から炎が出て、導火線を舐めるようにバチバチと伝い、中央で一気に弾ける。
「ハハハ、困っちゃうよな。デート、デートって、なんだか照れるよ。な、ミチ」
「そうよね。なんの冗談かしら。これのどこがデートなんでしょう」
「幼馴染って本当微妙だよ。いくら言っても全然信じてもらえないし。みんな本の読み過ぎじゃないか? それともさ、よほど俺たちお似合いのカップルなのかな」
「ホホホホホ~お戯れをっ! 私なんかとてもじゃないけど、雄兄さんに釣り合わないってもんですわ!」
「釣り合わないって、大袈裟だなぁ。恋は釣り合う釣り合わないは関係ないんだよ。だれに強制されるものでもないし、自由な筈だろ?」
「わわわ私には雄兄さんは過ぎる人ですっ。それより真美子の気持ちに応えてあげたらどうですっ? もしかして彼女いるの? きっといるのよねっ!」
「俺はマミもミチも同じくらい好きだよ…………兄としてな。大事な妹じゃないか。ずっと見守っているよ。約束する」
「本当に? たとえ真美子と何かあっても、泣かすようなことはしないでね? あの子はまだ中1なの、姉として泣く姿は見たくないわ」
「わかっているよ。大丈夫、大事な妹を泣かすもんか。父さんや天国の母さんの名に誓って、絶対だよ」
「一生よっ?!」
「当たり前じゃないか。これでも紳士を心掛けているつもりだよ。父さんに習ってね」
「そうよね、小父さまはとっても誠実な人だもの! 雄兄さんもきっときっとそうなると信じてるっ」
「ありがとう。ミチは優しいな。いつも俺の歩む道を応援してくれる。感謝してるよ。是非期待に応えないといけないよな」
「いいのよ。こんな私だけど、東小父さまにしっかり頼まれているし役に立ちたいの。それに妹として兄を応援するのは当然でしょ?」
血の絆を超越した麗しい兄妹愛。
……というより、血反吐が出るサムイ三流芝居。
正式に訳すと、
『ハハハ、そんな顔するなよ! いいじゃないか、デートにしておけば』
『冗談はその意地の悪い性格だけにしてくれる? それにこれのどこがデートなのよっ?!』
『いちいちムキになるなよ。どうせ幼馴染って答えても、だれも信じないだろ? 昔からそうなんだから、いい加減適当に流せよ。それよりもさ、よっぽどみんな俺たちをくっつけたいみたいだぜ?』
『ホッホッホ! そのギャグ笑えない。あまりに寒くていっそスベルわ!』
『ここはどうだい? 期待に応えて付き合ってみないか? 幼馴染から恋が芽生える、結構王道だろ?』
『悪いけどその気は全く無いの、雄兄さん。真美子と彼女さんに悪いわ。いるんでしょ? 100人くらい』
『この際マミも一緒で構わないよ。俺は平等にみんな愛せる、約束するよ。考えてみないか?』
『できれば真美子の夢、壊さないで上げて。あの子はまだ中1なの。姉として心が痛むわ』
『そうか、そりゃ残念だな。結構いいカップルになれるかと思ったのに。……やっぱり、父さんには敵わないのかい?』
『一生ね!』
『速答かよ。つれないな。これでも父さんに近付けるよう、努力してるんだぜ?』
『私は一般女子らしく、健人小父さまのような、まともで誠実な人が希望なの』
『ありがたいお言葉、感謝するよ。それならご期待に応えて彼女一筋にしておこうか。もう少しで俺もまっとうな道を踏み外すところだったぜ。是非止めてくれた礼をしないといけないよな』
『結構よ! こんなどうしようもない他人様だけど、東小父さまによろしく頼まれているし。不本意な妹という立場として、どうでもいい兄の間違った道を正すのは当然でしょ』
……となる。
以上が殺気を伴いながら長い間鍛錬を重ねた鉄壁の防御で跳ね返す足軽と、余裕綽々で戦いを仕掛ける鬼神修羅の会話の全てだ。本音と建前に若干誤差が生じているが、この際外野は棒読み大根役者並みの建前だけで、本音は知らなくてよい。大体当事者2人の問題だし。
暫く睨みあっていたが、先にこの試合から撤収をしたのは、雄臣の方だった。
「……と、いうわけで。残念だけど、ミチと俺はただの幼馴染で、お熱くも冷めてもいない。ましてや逢瀬でもない。だから安心していいよ、尾島君」
雄臣は完全に置いていかれ気味の唖然としているその他大勢の方に向かって、ひどく真面目な表情と声で言った。しかし私にはわかる、必至に笑いを堪えていることを。鼻がピクピクしてるし。一方、急にふられて我に返り、慌てたのは尾島だった。一瞬キョトンとした顔をした後、カァァァと真っ赤な怒り猿のような顔になる。
「ハァッ?! な、な、なんだよ、そりゃっ!」
「言葉通りだよ」
雄臣はとうとう堪え切れず、爆笑し始めた。まったく何が可笑しいのか、「いやいやいやいや」と膝を叩いたている。
さっきまで緊迫した空気が流れていたのに。
見目麗しいイケメンが涙を流しながら「ヒーヒー」爆笑しているこの事態に、その他大勢はどうすることもできず、辺りを漂う微妙な空気の流れを感じることだけ。
「アッハッハ! ……ごめんごめん、クク、い、今更なんだけど、俺、彼女いるんだよね? 前の中学校に。だからミチは本当に違うよ? ……それに、俺、とっくの昔にミチに振られてるし。な、ミチ?」
雄臣はなんとも朗らかな顔で、どうでもいいことをのたまった。