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振り向けば、君がいた。  作者: 菩提樹
中学2年生編
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最高で最悪のクラス③

 新年度に入って初めて迎える学年行事が「遠足」である、我が山野中。

 1年はバスで隣県の海へ。3年は2泊3日の「京都・奈良へ修学旅行」。そして2年は、1泊2日の「富士五湖へキャンプ&レクリエーション」と決まっていた。生徒達の間では「寺ばっか見学する修学旅行より数段マシ」と毎年好評な、この2年の遠足。中間考査も終わった2年生の間では、この話題で持ちきりだった。


 これをキッカケに男子も女子も急接近しちゃおうぜっ!


……な、「ドキドキお泊り遠足」。「桃色ハプニング」が起きそうな予感に心が浮つく生徒達。特に女子。何故なら山野中の伝説の1つに、この遠足を機会に恋が成就する可能性が高いと噂されているからである。

 それに各クラスの保体の時間などは、キャンプ初日に催される「クラス対抗大縄跳び大会」の練習で盛り上がっていた。


 キャンプの醍醐味である「自主炊事・カレー作り」に並んで催されるメインイベントで燃えるぜっ!


……な、「クラス対抗大縄跳び大会」。これには並々ならぬ意欲を注いでいる生徒達。特に男子。何故なら優勝したクラスには、なんとカレーの肉が3割増しになるからである。


 この時点でこの年頃の男子と女子の成長度の違いが垣間見えるが、多分気のせいだろう。



「キャンプといえばさぁ。そっちの2組(クラス)、今日の縄跳びの練習どうだった?」


 奥住さんがキラッと目を輝かせながら聞くと、和子ちゃんも怪しい光を目に湛え奥住さんを見た。


「……そういう1組はどうなの? 全員の息がピッタリと合っているのかしら?」


 奥住さんと和子ちゃんは腕を組み、「フフフフ」と不敵な笑みを浮かべながらお互い牽制している。

 この会話から「桃色ハプニング」より「カレーの肉3割増し」に傾いているように見えるが、絶対気のせいだろう。

……たぶん。


「こっちは運動神経バッチリなのが揃っているからね。そちらさんには負けないわよ?」

「あ~ら、どうかしら? そりゃ男子限定の話じゃなくって? 要は女子の部で勝てばいいのよ。それに男子なんかに頼っていたら、あの尾島バカ、女子にまで肉を回さないんじゃないかしら?」


 火花を散らす2人に、まぁまぁと言いながら宥めたのは幸子女史だった。


「2人とも落ち着きななって! ま、残念だけど、男子の部は1組で決まりだね。ちょっとすごいのが揃いすぎだもん。なんてったって尾島サルを筆頭に運動部のホープが集中しすぎ」


 ねぇ? と幸子女史が私に向かって同意を求めると、私は動揺を隠すように曖昧に笑った。


 尾島サル


「本当、1組ちょっと揃いすぎだね。一体何を基準に選んだのかな? 他のクラスの女子からもブーイング上がってたよ、『絶対1組が良かった』って。私には気持ちが全然わからないけど」


 騒がしい男子が苦手という加瀬さんは厭きれた様子で肩を竦めると、奥住さんは「いや、そうは言ってもねぇ?」とニヤニヤしながら答えた。それを見てあからさまに眉根を寄せたのは和子ちゃんと貴子だ。


「加瀬ちゃんの言う通り! 女子全員眼が腐ってるんじゃない? どこをどうすれば『1組が良かった』になるのかね? あんなロクでもない尾島バカがいるクラス、どっこがいいのか全然わかんないよ。『史上最高のクラス』って言うけど、私にとっちゃ『史上最悪のクラス』だわ」

「それ、私も同感」

「私も」


 2人に続いて迷わず即答し、溜息を漏らしてしまった私。

 全員一斉に私を見た。なんとも言えない表情をしている面々から視線を逸らし再び深い溜息を吐く。和子ちゃんと貴子が気の毒そうな顔をしながらこちらに寄ってきて、そっと肩を抱いてくれた。


「……ミっちゃん元気出して? 1組じゃなくて、2組だったらよかったのにね。あんな連中(・・・・・)と一緒だなんて、本当に気の毒だよ」

「狼の群れに生息する羊みたいなもんだもんねぇ。美千子、辛くなったら、いつでも2組においでね?」

「……うう、あ、ありがとう……和子ちゃん、貴子! 遠足の時即効行くかも」

「10組にもおいでよ『ミチ』! 『裏番』がいるけど、チィちゃんもいるし。ね?」

「そうそう、幸子ちゃんと2人で待ってるから」

「さ、幸子ちゃん、チィちゃん……。うう、あ、ありがたいけど、気持ちだけ受け取っておく、かも……」


 半べそ掻きながらヒシっと抱きあう5人に、歪んだ顔でツッコミを入れるのは奥住さん。


「ちょっと、ちょっと! 荒井ちゃん、そりゃないよ! 私達がいるじゃん? そりゃぁさぁ、尾島や佐藤君たちにベッタリな原口や成田耀子は相変わらず小ウルサくて荒井ちゃんを睨んでるし? その尾島は荒井ちゃんを完全無視だし? おまけに『ロクでもないんジャー』を中心に男子は騒がしくて授業中超迷惑だし? …………って確かにロクなクラスじゃないな」


 奥住さんにまでそんなことを言われ、私は顔を歪ませてガバっと机にうつぶせた。本気で涙が出そうな私を慌てて宥める和子ちゃん達。慰めてくれるのは非常にありがたいが、厳しい現実はどうあがいても変えられない。


 そう。2年に進級した私を待っていのは、地獄だった。

 新クラス名簿の中に尾島の名前を見かけた時、ガン! っという衝撃を全身に受けた。漫画なら2トンの錘が頭上に落ちてくるベタな展開だ。その前までは何を血迷ったのか、「寂しいかなぁ」なんて思っていたのに。あれは単なる勘違いだったのだろう。その証拠に始業式の朝一番に類人猿と顔を合わせた時、ニヤリと例の悪魔顔で微笑まれた時、意味もなく「人生終わった……」と思ったのだから。


 しかし、悪夢はそれで終わらなかった。


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