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振り向けば、君がいた。  作者: 菩提樹
中学2年生編
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最高で最悪のクラス②

――あの始業式の放課後。

 雄臣の魅力に取りつかれた幸子女史たちは、私の制止も聞かず、雄臣を取り囲みながら学校案内をかってでた。全校生徒から注目……いや、避難と嫉妬を浴びながら一通り学校を見て回ると、雄臣は殺人スマイルとウィンクを投げつけ、やっと帰って行った。部活があった私たちは、蕩けた顔をしながら雄臣の姿が見えなくなるまで見送ったのだが……雄臣が見えなくなった途端、私以外の7人は一瞬にして「鬼」に変わった。

 私はまだ何人か残っていた和子ちゃん達のクラス・2年2組の教室に無理矢理連行された。「さぁ、吐け、吐くんだ!」と『なまはげ』達に詰め寄られる荒井美千子。


『あんなイイ男の存在を黙っていた、わるいごはおめぇが?!』


 机をバンバンと叩き、デスクライトをかざされるがごとく、7対1の事情聴取が始まる。


『ちょっと、なんなの、あのお方は!』

『どういう関係なの?!』

『なんで今まで黙ってたの?!』

『んで、どこまでいったの? A? B? 思い切ってCかっ!』

『『『『『『『オイっ!』』』』』』』


 最後の奥住さんの鼻息を荒くしながら言ったきわどい質問は置いておいて、それ以外の質問に納得いくまで応えるよう要求された。

 私はなるべく簡潔に、しかも嫌な「黒い過去」は触れないように答えた。

 あれ(・・)は個人的なことだし、私の醜い影の部分を知られたくなかったし、それに勝手に過去の雄臣とのやりとりを言う気にはなれなかったのだ。第一信じるてもらえる可能性は限りなくゼロに近い。

 私の説明にみんな半信半疑の様子だったが、必死こいて縋りつくと「わかった、わかった」と許してくれた。それでも貴子と和子ちゃんは「一言言ってくれればいいのにぃ! 友達でしょっ」と、お怒りが暫く続いてしまったのだが。

 私はシュンと落ち込む半面、彼女達が私と真剣に友達として接してくれていることに、本気で怒ってくれたことに感激してしまいジーンとしてしまった。怒られているにも関わらず心が温かくなってしまった。はにかんでいる私を見て、「ちょっと、いったいどうしたんだ? もしかして怒られて喜ぶM体質か」という彼女達にそのことを正直に告げると、逆に黙ってしまい……照れ臭そうに「しょうがないなぁ~」とお怒りを解いてくれたのだ。

 けれど、「東先輩とヤマシイことは一切なし!」という言葉は全面に押し続けた。ただでさえ上級生からヤッカミを受けてるのに、友達まで信じてもらえなくなったら元も子もない。


「それにしても荒井ちゃん、先輩からの呼び出し無くなって、よかったねぇ?」


 光岡さんが愛読書の「My Birthday」という占い雑誌をペラペラめくりながら言った。


「やっぱ、あんな裏番に『喝』入れられたら……ねぇ? あの不良が教室にいるだけで怖いもん。ねぇ、チィちゃん?」

「……う、うん。いるといないとでは10組の雰囲気全然違うんだよ……。よくミっちゃん、耐えられたね、スゴイ」


「あんな裏番」と一緒のクラスである幸子女史とチィちゃんは、お互い顔を見合わせて気の毒そうな視線でこちらを見ると、私はあの日(・・・)の事を思い出しブルルと震えた。


***


 5回目の呼び出しを受けている最中に、怒鳴り散らしながら登場した、桂龍太郎。

 それ以来3年女子からの体育館裏への呼び出しがピタリと止んだのだが、ありがたくない噂がその日の放課後に山野中を駆け抜ける。


『裏番の次なるコレ(小指)は、荒井美千子らしい』


 史上最悪のピンチである。

 一体誰が本鈴間近の時間がねぇ時に、体育館裏などを呑気に見ていやがったのか。

 私が泣きながら裏番に土下座して浮気していたことを謝罪していただとか、裏番は荒井の腕をねじり上げながら、次やったら外国へ売り飛ばしてやると睨んでいただとか……。

 合ってるんだが間違っているんだか、肝心なところが非常に歪んでいる事実が流れたのだ。

 どうしたら説教以外なにものでもないあの時の会話が、いきなり「カレカノ」の修羅場の現場になってしまうのか。

 これには私も「ムンクの叫び」のようになった。雄臣の次は裏番……つくづく荒井美千子も不幸な女である。けれどもこの噂はすぐ下火になった。素行の悪い3年男子の先輩達が、ひやかし半分で桂龍太郎に真実を問い合わせたところ、


『あんな鈍くさくて地味な女、死んでもお断りだ! 今度そんなふざけた事を言った奴はその場で地獄を見せてやるぜっ、夜露死苦!』


……というような内容を、殺気を伴いながら思いっきり親指を下げて宣言してくれたおかげである。オマケに裏番は、興味本位で騒ぐ生徒達に熱光線デビルビームもお見舞いしてくれた。


『もしかして私に対して失礼なことを言ってやしませんかね?』


……的な桂龍太郎の発言には、噂を即効沈下させた優れた手腕に免じて大目に見てやることにした。が、実際は腸が煮えくり返りそうだった。誰が好き好んであんなデビ●マンみたいな男と噂にならなければならないのか。それこそ死んだってお断りだ。人の愛を知り、その優しさに目覚め、正義のヒーロー並みに更生してから出直してこい! と言いたい。

 噂の放課後、少し機嫌が悪かった貴子の態度も次の日には軟化し、逆に私の評判が「鈍くさくて地味な女」に成り下がった事を怒ってくれた。……なんとなくわだかまりは残るが、結果オーライである。

 それでも貴子には裏番との会話は事細かに説明しておいた。「そ、そんなのどうでもいいしっ」と言っていたが……非常に大事なことだ……うん。


***


「あ、あのときは本当ヤバくて……こここ殺されるかとっ」


 私は震えを抑えるように机に手をついて俯いた。私が本気で怯えている姿を見た乙女達は、貴子以外ゴクリと息を飲んだ。貴子は「もう大袈裟だよ、あんな奴怖くないって!」と怒ってはいるが……あの恐怖はその場にいた者でないとわからないだろう。


「だっ、大丈夫! 今、荒井ちゃんの星座見てあげるから! ええええーっと、●●座だよね? 今年の運勢は……『前半は……荒れた海の上に漂う子船のように……浮き沈みが激しく……翻弄され……非常に……苦しみ……ま……す』…………って」

「「「「「「「…………」」」」」」」


 光岡さんは急いで愛読書バイブルを捲り今年の運気を見てくれたが、「大丈夫!」と豪語した割にはあまりにイタイ内容に段々声が小さくなっていく。

 シーンとした教室には、それを黙って聞くことしかできない乙女達六名と翻弄されまくっている子船が一艘。


「こっ、こんなの占い占い、大丈夫大丈夫! これから絶対運気上がるって! 続きあるし? ……えっとね、『……苦しみますが、後半は穏やかになり嬉しいことも重なるでしょう。人によっては、人生を委ねられる大きい船のような存在の人と接近できます。前半の苦しさに打ちひしがれず、諦めないで努力していきましょう』だって! ほら、すごいよ、良かったねぇ! えーとそれから、なになに? 『特に異性関係ではモテモテ期が到来しますが、……意中以外の人に甘い顔は厳禁です……キッパリとした態度をしなければ……争いごとが大きくなり……取り返しのつかない事態となる……可能性が……大……で……す』…………って」

「「「「「「「…………」」」」」」」


 微妙なモテ期が来ている、顔面蒼白のいたいけな女子中学生にトドメを刺す驚異の占い雑誌、「My Birthday」。


「……アハ、アハハ……ええええーっと! あらぁっ、解決方法があるよ! 『異性に対してハッキリした態度は必要ですが、かえって争いごとを招く恐れが……あります。……無理に出過ぎず、大人しく嵐が過ぎるのをジッと待ちましょう』……って、かなり微妙? やややっ、そそそそうだ! 『ラッキー・キーワード』! え~『湖、バンドエイド、公園、ハチマキ、野球観戦』かぁ。……ん~、なんかあんまり脈絡がないような……」


 バイブルの割には半信半疑的な光岡さんの言葉は置いといて。私は飢えているライオンが獲物に飛びつくが如く自分の席に戻り、ノートを開いてラッキーキーワードを書き出した。


「ええええーと、『湖、バンドエイド、公園、ハチマキ、野球観戦』だよねっ」


 全員の憐れみの視線を一身に受けながら、ご丁寧に復唱し真剣に書いていると、奥住さんが「あっ!」と言いながらポンっと拳を掌に打った。


「そんなことないよ、ミッツー。脈絡、意外とあるかもよ?」

「え?」


 奥住さんはミッツーと呼んだ光岡さんに対して、ニンマリ笑った。


「だって、早速キーワードが御登場じゃん。ホラ、私達来週には『湖』にいるっしょ」


 意味深に微笑む奥住さんに、全員「あっ!」と声を揃えた。


 私も思い出した。

 来週、確かに私達は『湖』にいる。2年の遠足の為に。


「My Birthday」懐かしいです! ちなみに本当にあった占い雑誌です。現在は休刊中です。あ、もちろん文中の占いの内容はフィクションです。別物の「My Birthday」としてお楽しみくださいm(__)m

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