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振り向けば、君がいた。  作者: 菩提樹
中学2年生編
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最高で最悪のクラス①

 カラカラカラ……ガコンっ!



「「「「「「「キャーッ!」」」」」」」



 古く建てつけの悪い扉を開けると、乙女達の悲鳴が教室内にこだました。

 開けた当人である私も驚いてその場で固まってしまったが、教室内にいる友人たちが私の姿を見て目を見開いた後に安堵のため息をつくと、こちらもホッと息を吐いて扉を閉めなおした。


「……あ~びっくりした、『ミチ』か! すっごいタイミングで入ってくるんだもん、驚いた~」


 幸子女史は大袈裟に言った後、机の上に顔を伏せた。そしてすぐに焦った様子で貴子と和子ちゃんに向き直ると再びふーっと息を吐く。


「さっすが! 2人とも、10円玉から指離してないし」


 幸子女史が言うと、和子ちゃんと貴子は生真面目な顔で当然というように頷いた。


「……ちょ、ちょっと、幸子ちゃん。その『ミチ』ってヤメテよ……。せっかく騒ぎが治まっているのに」

「まぁまぁいいじゃないの! どうせ私達だけだし? ウルサイ3年もいないしね。それよりも今まさに東先輩のこと聞いて(・・・)たんだけどね? そしたら、応えてもらってる途中で荒井ちゃんが入ってくるんだもん。超ビックリした~」


 私の言葉に応えたのは、トリオのリーダーである奥住さんだった。

 好奇心旺盛な目をクリクリしながら私を見てたけど、すぐに和子ちゃん達の手元の方に視線を移した。


「……やっぱ、来てるねよね。荒井ちゃんがこのタイミングで入ってくるあたり、信憑性大きいよ」


 奥住さんのムードあるヒッソリとした言葉に全員ゴクリと唾を飲み込んだ後、机の上に乗っている1枚の紙と10円玉、そして10円玉を抑えている2人の指を凝視した。私もさっきまで座っていた席にそっと腰かけ、紙に書かれていた鳥居やひらがな、「はい・いいえ」の文字を目で追う。2人が押さえている10円玉は「み」の文字で止まっていた。


「な、何を聞いてたの? 奥住さん」

「『東先輩』の好きな人」

「……え」

「これさ、『みちこ』って言おうとしてたんじゃない? だって、だって……10円玉がっ!」


 そこで奥住さんが音を立てて席を立つと、全員再び悲鳴を上げた。私は一人冷静に、そんなアホなと溜息を吐いた。


***


 気候がいい5月下旬の放課後。

 本来ならば部活に勤しんでいる筈の時間帯であるが、珍しく雨が降りだしたので、野外での練習が中止になり、室内でトレーニングをした後早々解散となった。こんなに部活が早く終わるのは、3年とバレー部顧問の岩瀬が修学旅行で出払っているからであり、2年の天下のお陰だ。すでにバレー部の後輩と2年のほとんどは下校していた。……私たちを除いて。


「ちゃんと紙、破っておかないとね」


 貴子は今まで使っていた物騒な紙を音を立ててビリビリと破いている、「あ~怖かった」と呟きながら。

 幸子女史は答えを望む者に真実を導いてくれる……というか、好奇心をそそるようなイベントをやるキッカケとなった、『とんねるず』の2人がポージングしている本を手に取った。おもむろにカバーを外すと、裏表紙には貴子が破っている紙に書かれたものと同じ絵図が描かれている。私も一緒になってその裏表紙を覗き込んだ。


「奥住って、『とんねるず』好きだったんだ? けどさ、カバーの裏にこれはちょっと怖いよね……」

「そうなんだよ! 私も買った後、何気なく表紙を取ったら出て来てさ。ビックリして本落としちゃったわ」


 本の持ち主である奥住さんはそう言いながら、使っていた10円を財布にしまおうとしたが、「そういえば……この10円って、2日以内に使わないとマズイんだっけ?」と慌わてて取り出した。


「あれ? その日のうちにじゃないの?」

「私は3日以内だと思ったけど」


 情報があやふやである。まぁ、この手のものは噂が噂を呼び、確かな情報もなければ信憑性も薄い。和子ちゃんが「一応今日中に使ったら?」とアドバイスをすると、奥住さんが「そうだね」と頷いた。

 私は教室の空気がなんとなく籠った感じで気持ち悪かったので、窓を開けに席を立った。

 今私達がいる教室は、学校の校舎の中でも一番端の古くて小さい、不気味な雰囲気が漂う2階建ての建物の中にあった。2階に理科実験室と準備室、そして第2音楽室があるからかもしれない。ちなみに1階は教室が2クラスと生徒会が使用している教室があり、計6つしかなかった。古いせいでどの扉も建てつけが悪く、窓を開けるのにも苦労する。思いっきり力を込めて開けると「ピシャン!」と言って窓が開き、湿気を含んだ空気が教室に入り込んできた。水を含んだ土の匂いがするのは、窓の下に花壇があるからだろう。すっかり晴れて夕日もでている空を眺めながら爽やかな空気を吸い後ろを振り向くと、バレー部の部室でもあるこの「2年1組」には、5人の女子バレー部員が本を覗きこみ、2人の生徒が談笑していた。


「それにしても、3年がいないってすごい開放的だよね~。それも今日で終わりかぁ」


 本から目を離し、伸びをしたのは奥住さんだった。

 バレー部の2年副部長を引き受けている彼女の噂好きな性格は相変わらずで、去年までは「尾島と荒井が怪しい!と豪語してたのに、2年に進級した途端「荒井と東先輩は怪しい!」に変わった。よって彼女が振りまく噂の信憑性は、先程盛り上がったイベント同様に薄い。2年に進級する時、どんな人とクラスが一緒になるかとドキドキしたが、2年1組の名簿の先頭に自分の名前を発見した後、すぐ近くに彼女の名前があった時は喜んでいいのかどうか……ちょっとだけ不安になったことは内緒だ。


「そっか、今日帰ってくるもんね、3年生。『東先輩』ようやく来週見れるジャン! ね、和子? 『ミチ』?」


 ニンマリとした顔で言う幸子女史の言葉に、途端に顔を歪める私。何度訂正しても『ミチ』と呼び続ける幸子女史は、今はもう「東先輩」の大ファンだ。

 忘れもしない、あの忌々しい始業式の日。ホームルームが終わって「同じクラスで良かったね~」と奥住さん、光岡さんと手を取り合って喜んでいたその時、この教室にのこのこやって来た雄臣は、教室を覗きこみながらご丁寧にも名指しで「ミチ!」と呼び出した。私は慌てふためきながら、雄臣を無理矢理この校舎から撤収させようとしたら、一番遠いクラスの筈なのに、目をハートにした10組の幸子女史が背後霊のように後ろに立っていたのだ。憐れにも「わ、私も一緒にお供させて下さい!」と雄臣フェロモンにやられた犠牲者第一号となりながら。


「えぇ?! そ、そうだね……」


 話を振られた和子ちゃんの顔は真っ赤だった。

 それは廊下から差し込む夕日に照らされて……というわけではない。第一この教室まで夕日は届いてない。和子ちゃんは途端にモジモジし出し、慌ててエチケットブラシを取り出して制服を撫でつけた。いつもは「男は年上の大人でなければならぬ!」という強気な発言をしていた和子ちゃんだが、雄臣の話題になると途端に大人しくなる。どうやら雄臣は和子ちゃんのアベレージを軽く超えたようだ。彼の前では借りてきた猫のように大人しくなり、挙動不審であった。

 幸子女史が屍状態になった始業式の放課後。そのまま廊下で奥住さん達に渋々雄臣を紹介してたところ、ホームルームが終わって出てきた隣の2年2組の生徒達が全員固まってこちらを見ていた。その塊りからスーッと幽霊のように出てきた和子ちゃん。幸子女史同様「雄臣フェロモン」に引き寄せられるように近づいて来たのだ。その絵図らは、まるで美しい花に群がる昆虫のようだった。

 普通こういうシチュエーションの場合、男女逆のような気もするが……。


「それにしてもミチコったら、あんな『最終兵器』隠してるんだもの。初めて見た時はビックリしちゃったよ」


 貴子はプーっとワザとふくれながら、和子ちゃんに「ねー?」と同意を求めていた。和子ちゃんも顔を赤くさせたまま、腕を組み「ウンウン」と頷いている。


「イ、イヤ……だだだだって、実際2年も会ってなかったし、すっかり忘れていたし……親同士が知り合いってだけだし! 大体雄……いや、ああ東先輩と何にもないし!」


 私はいつものようにどもりながら慌てて弁解すると、私以外の昆虫……いや、女子7名が一斉に吹いた。


「ハイハイ、わかってるって。『ただの知り合い』なんでしょ?」

「『ミチ』って、東先輩のことになるといっつも力入れて否定するよね~。ちょっと東先輩可哀そうだよぉ。それに貴子も和子も、もう怒ってないって、ね?」


 奥住さんが全然信じてない表情をしながら肩を竦め、次に幸子女史は貴子と和子ちゃんに確認するように聞いた。貴子も「そうそう、怒ってないって!」と膨れ顔を崩し、笑いを漏らした。

 私はその言葉を聞いてホッと安堵の溜息をついた。


ミチコ達がやっていたのは「コッ●リさん」です。(怖くてなんとなく伏せ字です、わざと小説上に名前を出すのも控えました。今でも巷の中学生さんや小学生さんはやるのかな?)確かとんねるずの「ホルマリン漬け」という本の裏表紙にこの絵図が書かれていたと私は記憶しています。現在その本を手にすることが難しいので違っていたらゴメンなさい!!(_人_)その際には訂正します。

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