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振り向けば、君がいた。  作者: 菩提樹
中学1年生編
26/147

タイガー&ドラゴン~龍と猿の群れの襲撃編~

少し長いです。

未成年の飲酒や喫煙シーン、ちょっぴり「エッチ・スケッチ・ワンタッチ!」風の表現があります。。

 暖簾をかき分けて出てきた数名のメンツは、決して冬休みに出会うことのない、いや、出会いたくない顔であった。


『正面の引き戸からではなく裏口から侵入する奴がいるか、この卑怯者!』


……という想定外な出現に、5人の乙女たちは口をポカンと開けたままだ。いや、もはやこのショックの原因が、


「衝撃の事実! エロ店員は、忘れ去られた『伝説の裏番』こと桂寅之助先輩だった!」


なのか、


「謎の生物発見! 不時着したまるやきは『猿の惑星』だった!」


……か、わかりません、隊長!


「ちょ、ちょっと……なんでアンタがここにいんのよっ?!」

「そ、そうよ! この店『ただ今準備中』の筈でしょうが!」

「あっらぁ~? アンタ達、今は乙女限定の貸し切りよぉぉぉ?! ムサイ男共は出て言ってちょ・う・だ・ァァい!」


 ガッキン!


 和子ちゃんと幸子女史はすぐ我にかえり、謎の生物達のヘッドである尾島に文句を言った。それにベティちゃんが心強い援護をしながら、赤髪ピアス男から目線を離さずに渾身の力を込めてヘラを一押しした後、勢いよく離した。熾烈を極める攻防戦は一応引き分けに終わったが、まだ「ハァハァ」言っている怪獣……いや、虎とモスラはお互い睨み合っている。


「じゃぁ、なぁんで蝶子と寅ニィはいるんだよ」

「しっかも地味な中学生侍らしてんじゃねぇよ」


 ベティちゃんに向かって無謀な発言をする『猿の惑星のリーダー』こと尾島と、どこぞの不良なエロ店員と同じことを言う、忘れ去られていない現在の『裏番』こと桂龍太郎。

 一方、忘れ去られた『裏番』こと赤髪ピアス男は、自分の立場も危ういくせに呑気に大爆笑だ。

 尾島と桂龍太郎の余計なひと言は、「兄弟って通じ合うものがあるんだな、とっても不思議☆」とどうでもいいことを思ってしまった宇宙一オメデタイ私と、チィちゃん以外の女性(?)陣に、一気に怒りの炎を焚きつけた。

 ベティちゃんと笹谷さんの手からヘラが2本、猿と龍に向かってに勢いよく飛んだのは当然といえよう。


***


「あの『山野中の鬼夜叉』がコレ?」


 和子ちゃんはそう言って赤髪ピアス男を疑いの目で指差した。笹谷さんとベティちゃん、類人猿達は頷いている。……どうでもいいが、人数が増えすぎて座敷はギチギチだった。ギュウギュウどころの騒ぎではない。私達女子中学生が5名、ベティちゃん、大野小隊ロクでもないんジャーのヤロー共、そして。


「そうそう、コレが忘れ去られた『裏番』なんだよぉ」


 私達のお好み焼きを「ちょっと頂戴ね?」と頬張りながら言ったのは、なんと小関明日香こせきあすかだった。

 ようするに振って湧いたメンバーは6名だったのである。後藤君と小関明日香がいたので、「もしかしたら田宮君も?!」なんて思ったが、残念ながら思うだけで終わってしまった。

 あれからどうなったかというと、ベティちゃんと笹谷さんが投げつけたヘラがゴングの合図となり、壮大な宇宙大戦争スペースオペラが始まった。主な登場人物は、ベティちゃんと筆頭とする和子ちゃんと笹谷さん、対抗するのは尾島と桂龍太郎と諏訪君だ。

 まとまりのない勝手な言い合いが悪口合戦に変わり、流血者が出る前にそれを止めたのは、最後に出てきたリスみたいに小さくて、唇ポッテリのショートカットな可愛い女の子だった。小関明日香が「ハイハイ、そこまで」とパンパンと手を叩きながら両者を宥め、一時休戦状態になったのだ。


「こらぁ、明日香! 『忘れ去られた』は余計だ!」


 何度も訂正し悪あがきを繰り返す、赤髪ピアス男こと桂寅之助先輩。

 彼は予定外の客が増えた為、ベティちゃんによって強制的に厨房へ追いやられた。エロだろうが飲食店に相応しくなかろうが、店員は店員である。給料をもらってる限り文句は言えない。ていうか働け。


「いやだって、まさか、ねぇ?」

「こ~んなドスケベだなんて、聞いたことないよねぇ?」

「私、強面の部下1000人連れてるって聞いたんだけど、どこにもいないじゃん。っていうか、いるの類人猿だし?」

「チェーンソーで人を切り刻むって話だけど、実際切ってるのキャベツだし?」

「そう言えば身体に筋肉強制ギブスを巻きつけて日々励んでるって聞いた。しかもモヒカンだったって!」

「そうそう! そのモヒカンで人を刺すって聞いたよ!」


 桂寅之助先輩は「一体どんだけ俺は凶暴なんだよ!」と言わんばかりの酷い言われように、苦虫を噛み潰したように顔を歪めて口を尖らせた。


「オイオイ、ガキ共……そんなの真に受けんじゃねぇよ。第一モヒカンでどうやって人刺すんだよ?!」

「あぁ、威力、なさそうですよね」

「結構マヌケですよね」

「……コノヤロ」


「ハイハイ、わかってますよ」と適当に流す、和子ちゃんと幸子女史。

 私は思わずモヒカン姿の桂寅之助が、不良相手に殺傷力ゼロの凶器を突進させているマヌケな姿を想像してしまい、ホワッと生温かい笑いが出てしまった。私の想像していることがわかったのだろうか。寅之助先輩は私に向かって「今すぐその想像を止めないと、全員の前でそのチチ揉んでやるぞ、オラァ!」というような目で睨んできたので、大人しく笑いを引っ込めた。

 しかし、である。

 本人目の前にして言いたいことを言っている和子ちゃんと幸子女史、気まずい顔で俯いている私とチィちゃんは新一年生であり、噂でしか「桂 寅之助」を知らなかったのだから仕方がない。しかも和子ちゃん達が言った事は実際に広まっている噂話だったのだ。


「それよりも貴子ちゃん、今日はどうしたの? 『まるやき』にお菓子なんか持ち込んでさぁ。しかもいつものメンバーと違うじゃん?」


 小関明日香が遠慮なくお菓子に手を伸ばしながら屈託なく聞いた。

 再び固まる女子中学生組。さっきから度重なるデジャブな現象にいい加減頭が痛くなってきた。笹谷さんは既に落ち着きを取り戻し、普段通りのクールで落ち着いた雰囲気で髪を掻き上げながら、小関明日香をジロッと見上げた後お好み焼きをつついた。


「……別に。明日香には関係ないでしょ? 過ぎちゃったけどクリスマスパーティーっていうことで、こうしてみんなでワイワイ食べてた訳」


(……あ、あれ?)

 私は内心驚き一杯の気持ちで笹谷さんを見た。

 いつもクールで落ち着いている彼女。人当たりも良く大人っぽい雰囲気で余裕があるのに、何故か少しイラっとしている。私の知っている限りでは、仲の良かった原口美恵と小関明日香の関係は良好だった気がする。そうなると自動的に笹谷さんともいい関係を築いているかと思ったのだが、そうではないのだろうか。しかしそんな疑問も次の瞬間吹き飛ばされてしまった。


「女同士でクリスマスかよ、色気ねぇの」

「「違いねぇ!」」


『まるやき』の店内温度が5度下がった。

 色気ねぇと、とんでもないことを言ってくれたのは、金髪でこれまた兄と同じく煙草をふかしていた桂龍太郎だった。余計な相槌を打ったのは尾島と諏訪君。


「お、お猿さん達、なんていうことをっ!」


……とは言えなかった。笹谷さんの方を見ると桂龍太郎を凍死させる程の冷ややかな冷気をまとっている。「温度が下がった原因はこれかぁ!」と納得している場合ではない。


「ちょっとぉ、そんな言い草ないじゃん? あんたらだってムサイ男がさみしく5人揃ってお好み焼き食べに来てるんだからさぁ」


(おっとぉ、小関さん、ナイスフォロー!)

 小関明日香のクリティカルヒットに胸をなでおろす私。それにしてもあの桂龍太郎に意見を申すとは、この小関明日香も侮れない。まぁ、尾島の親戚だというし、口と度胸は遺伝なのだろう。ありがたいことにロクでもないんジャーの分のお好み焼きのタネが出来上がったようで、寅之助先輩が「できたぞ~」と器を次々とカウンターに置いた。

(さっすが『元裏番』、だてに不良のヘッドやってないよこの人! 空気読んでるぅ~)


「おら、ボイン! 菓子食ってないで、運んでくれや」


 前言撤回。

(さっすがありがたくない言葉を店内に響き渡らせた、空気を読めないあの赤髪ピアス男を地獄に送ってよろしいでしょうか、神様!)

 思春期真っ最中な男子生徒と女子生徒がこちらを凝視する中、笹谷さんに続くように一気に零下を身にまとう私。お供え物より呪いの藁人形のほうが先だなと本気で考えていたら、またもやベティちゃんが「そうそうぅぅ、ジュース補充しなくちゃぁぁぁ」と冷蔵庫に行く振りして、ナチュラルに寅之助(もう呼び捨てで構わぬ)の背後にまわった。

 何のためらいもなく、お盆を上から下へ振り切るすベティちゃん。


「アンタぁぁぁ! いい加減にしなさぁぁい!」


 ベティちゃんの攻撃をまともにくらった赤髪ピアスを見て、僅かに留飲は下がった。が、出てしまった言葉は取り消せない。ニヤけた顔でボソボソ囁く男子の姿に恥ずかしくて俯いてしまった。何を思ったか、小関明日香がズズイと近寄って私の隣に座り、ジィっと私のバストを凝視した。


「ねぇ。ちょっとだけ、いいよね?」


 質問と言うより確認と言った感じで小関明日香は手を伸ばした。「え、何を?」と聞く前にいきなりとんでもないことが身に起こった。



 ガシっと私の胸を掴んだ、小関明日香。



「×●△◆@☆÷*っ?!」



 悲鳴を上げる女子中学生と目を丸くする男子中学生の皆さん。


「うわぁお、本物だよ!」


(そりゃそうだろう、何が悲しくて偽物をいれなければならぬのか……って違う! そういう問題じゃない!)

 まだモミモミしている明日香さんは「やわらか~い」と屈託ない笑顔だ。


「あああああの、ちょっと!」

「どけ、明日香ぁ! 次は俺に触らせろぉぉぉ!」

「あ……へっ?! バババカッ、やめろっ、明日香! 寅ニィもマズイだろ!」


 参加しようとしてきた赤髪ピアスと慌てて止めにはいる尾島。小関明日香は手を離して「本当にやわらかいんだねぇ~うらやましいぃ~」と目を輝かせながら屈託ない笑顔全開でジィっと私の胸を見ていた。動悸が激しくなり言葉が出ない、というか出てこない。

(荒井美千子、中学1年で「ABC」のAをすっ飛ばしていきなりBまで行きました。しかも初めての相手は女性です!)

 思わず胸を庇いながら心の中で未来の夫に事後報告&謝罪していたら、さらにスゴイ言葉が店内に響き渡った。私のボインを揉まれた事態なんて足元に及ばない程の爆弾が、前触れもなくいきなり投下されたのだ。

 小関明日香は両手で胸を揉む仕草をしながら小悪魔的な微笑を湛えて言った。



「ねぇねぇ、龍太郎。やっぱ晴美先輩はるみせんぱいも、これくらい胸デカイの?」


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