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振り向けば、君がいた。  作者: 菩提樹
中学1年生編
24/147

タイガー&ドラゴン~虎と蝶編~

少し長いです。

未成年の飲酒や喫煙シーンがあります。ちょっぴり「エッチ・スケッチ・ワンタッチ!」風の表現があります。


『……あんだよ、貴子じゃん』


 男は煙草を灰皿でもみ消し、ユラリと立ち上がってこちらに近づいてきた。鮮やかな赤い色の短髪に耳の周辺を彩っているのは無数のピアス。しかも背が高く威圧感あり。その姿はまるで生身の人間を襲うゾンビ……のような迫力。


『ななななんで、とら……いやっ、そうじゃなくてっ! え~と、そうだ! お、お兄ちゃん! そう、なんでお兄ちゃんがここにいるのっ!』

『はぁぁ? そんなの見りゃわかるだろ、バイトに決まってますがな。最近金欠でよぉ~、オマエも早く大人になってオレに貢いでくれや』

『バカなこと言ってないで、蝶子ちょうこさんは?!』


 いきなりヒモ宣言した赤髪ピアス男は、私達が来ることを知らされていなかった様子だ。仕方なく笹谷さんが説明すると、「あんだと?! ……ったく、あのクソジジィ、また言い忘れてたな!」と悪態付いた。その怒鳴っている姿は、まるで地獄の閻魔大王そのものだ。

 笹谷さんは滅多に拝むことのできない不良を目の前にして固まっている私達に気付き、「あ、この人、大丈夫だから、危害加えないから、取って食ったりしないから!」と慌てて弁解らしき言葉を捲し立てた。


『おい、貴子……そりゃどういう意味だ?!』

『友達なの。うんとサービスお願い』


 笹谷さんは赤髪ピアス男のツッコミを華麗にスルーして、私達を簡単に紹介した。


『サービスなどいらぬから、普通の店員とチェンジ可能かな?』


 な~んて台詞は心の中だけで留めておく。

 逆に赤髪ピアス男を私達に紹介する時は、


『この店のオーナーである『蝶子』さんの甥っ子さんで、ん~なんて言ったらいいのかな。私にとってはお兄ちゃんみたいなもんで……』


 などとなんとも歯切れの悪い言い方で、何故か視線を逸らした。

 私達は笹谷さんの曖昧な言葉よりも、目の前の不良が強烈過ぎて、「……あぁ、そうなんだ……どうぞよろしく……」としか言えなかった。

 ご丁寧に身体を90度曲げて挨拶する私達に、赤髪ピアス男は満足したのか、「ん!」と頷いたのだが――次に放った一言はこれだった。


『ホ~、貴子のダチねぇ。こりゃまたずいぶんと地味なダチだな、オイ』


 これには4人の引き攣り笑いも固まった。

(そりゃアンタから見たらこの世の人間は全て「地味」かろうよ……)

 心の中で吐き捨てていたら、「ん~でもこのチビッ子ちゃんは可愛いね~お名前はなんでちゅかぁ?」と大柄な4人とは違って148センチしかないチィちゃんに迫っていた赤髪ピアス男が、急にギラっとこちらを睨んだ。


『おい! そこの女!』


 全員ビクっとして直立不動の姿勢を取った。まさかとは思ったが、男は私を指さしている。「えぇ?! 思考を読むなんて反則ですがなっ!」と思ったが、そんな筈はない。超能力者でもあるまいし。

 お好み焼きにありつける前に根性焼きでもされるのかと、冷や汗を垂らしながら一応周りを見回し、「……私?」というように自分の事をそっと指差した。


『そうだ! オマエ、いくつだ?!』

『え?』

『え? じゃねぇんだよ、いくつだって聞いてんのよ!』

『あ……13、です』

『バカヤロウ、オマエの年齢なんか興味ねぇんだよ! オッパイのサイズに決まってんだろぅが、もっと空気読めよ!』

『………………は?』


 赤子相手にしか聞かない衝撃的な言葉を質問に織り交ぜながら偉そうに言う男に、間の抜けた疑問形で返してしまった。

 だが相手は非常に友好的な顔つきではないうえに、肩で風を切りながら近づいてきそうな不良。ここは素直に「Dカップでございます」と、バカ殿様の腰元のように答えたほうが無難かなとスライディング土下座の態勢に入ろうとしたとき、奥の暖簾がフワッと揺れた。

 いきなり出てきた白い物体にギョッとなった。

 物体は人間で、白い割烹着を着た大柄な女の人だった。赤髪ピアス男の背後に音も立てず能面のような無表情で近寄っていく。


『「は?」じゃねぇだろうよ?! これだから最近のガキはなっちゃいないって言われんだよナァ。ま、貴子のダチだし? 初対面だからとりあえずその失礼な口のきき方だけは許してやるか。ん~オレの見解だと、Dカップってところか。だがよ、もうちっとスリムになれ? 痩せたらもう一度出直して来い! 今日は……まぁしょうがねぇなぁ~、ちっとだけ俺様が相手してやるか。ということで、とりあえずそのボインを触らせ』


 次の瞬間、衝撃的な映像が繰り広げられた。


 グワ~ン!


 ドリフのコントで上からタライが落ちてきた時の音が響き渡った。

 見事にへこんでいる銀色のお盆を持つ大柄な女の人。声も出ず震えながらうずくまる赤髪ピアス男。それ以上に言葉の出ない、山野中学校1年女子バレー部員5名。


『ぢょっとぉぉ! お客様になんて口、きくのぉぉっっ?!』


 掠れた低い濁声が店の中を通り抜けた。


 こうして、「過ぎちゃったクリスマスパーティー」というより「この場を過ぎ去りたい乱交パーティー」というほうがシックリくる時間が幕開けとなったのだった。


*******


(……くそぉ、このろくでなしの不良め!)

 ブサイクというトドメをさされた私は、怒りを我慢しながらタネが入っている器を机の上に置いた。多少なりとも自覚があるだけに言い返せないところがまた悔しい。

 もし本当にサンタクロースというものがいるのならば、「どうか赤髪ピアス男の息の根を止めることができる最強の武器を靴下に入れてくれ」と念じる――いや。いっそこと、息の根を止めてズタ袋という名の靴下に入れ、東京湾に沈めてくれと願うところだ。


「お兄ちゃぁん、ダメよぉ? 女の子相手に『ボイン』とか『ブサイク』なぁんて言っちゃぁ~」


 艶めかしい濁声が奥から聞こえてきた。

 厨房とフロアーを仕切っている暖簾をかき分けて出てきたのは、不良にお盆を叩きつけた年齢不詳の大柄な女の人だった。

 あまりのインパクトにぶりに頭の上からマジマジと観察してしまう。

 キューティクルありまくりのテカっている茶金の髪はボブカット。アイシャドーは真っ青、そしてマスカラバリバリの色っぽい流し眼。真っ赤なグロスを塗ってあるポッテリとした唇。上唇の近くには色気をかもし出す黒子ほくろ。もちろん顔には皺一つ見当たらない。極めつけは、色は浅黒いがキメ細やかな肌とこれでもかというボンキュッボンの豊満なボディ。

 しかも私の「ボイン」など足元にも及ばない大きい胸が割烹着をさらに盛り上げていた。その下は超ミニのラメスカート……なのだが、割烹着に隠れているので後ろを振り返らないと見えない。その姿はまるで男性が一度は夢見る「ハダカエプロン」そのものだ。そのさきはむっちりとした太ももだけど、キュッと締まった細い足首。

 どっからどう見ても、いや、完全に所謂いわゆる世間で言うところの「ベティちゃん」にしか見えないのだが、何かがおかしい。

 さっきから気になっていたのだが、首のところの盛り上がっている喉仏はいったいどういうことなのか。しかも女の人にしては若干声が低いし。

 まさか? ……いやいや、そんな、ねぇ?

 とりあえず現時点でハッキリわかっていることは、暗い夜道で積極的に出会いたくない部類の人物であろうということだ。

 そんな未知なる地球外生命体は……もとい。艶めかしい女性はクネクネした動きをしながら、お盆にのせたジュースとグラスをこぼさずに近づくというスゴ技披露していた。


「べつに顔が『ブサイク()』とは言ってねぇ、『ブサイクになってる(・・・・・)』って言ったんだよ」

「…………」


 問題は決してそこではない。

 赤髪ピアス男は豊満ボディのベティちゃんにピクリとも反応せず、小指で耳をほじり、一度眼で確認した後フッと汚物を飛ばした。飲食店にあるまじき行為を堂々するその姿に、言葉も出ない女子中学生5名。


「そ・う・い・う・問題じゃないのぉぉっ! ……本当にお兄ちゃんはしょうがないわねぇ。ごめんねぇ? こんな店員でぇ。あとできっちりオ・シ・オ・キ、しておくからぁ。ゆるしてくれるぅ?」


 どうやらベティちゃんは、私が赤髪ピアスから集中攻撃を受けていることに申し訳ないと思っているのか、さっきからチラチラ私と赤髪ピアスの顔を交互に見ては、切なそうに眉根を寄せていた。今も私の目の前で胸元をグッと寄せながら前かがみで迫る涙目のベティちゃん。今にもチッスをされそうな至近距離具合にのけぞる一方、「オシオキ」と聞いていかがわしいことを思い浮かべてしまった私は異常だろうか。


「あ……いえ。お、お気遣いなく……」


 私は引き攣りながらもなんとか笑顔で返した。

 ベティちゃんはジッと私の顔を穴が開くほど見た後、パァっと華のような笑顔を浮かべた。極めつけは、「もぉうっ、イマの若い子は、デキてるのねぇぇぇ~? お兄ちゃんに見習わせたいわぁ」と男を落とすようなウィンクを投げつけ、鉄板の火をつけてくれた。あまりの迫力に、笹谷さん以外の4人は若干引き気味。


「こ、こっちこそ、好き勝手言っちゃてるし。気にしないで? 蝶子ちょうこさん」


 笹谷さんは涙をぬぐいながらベティちゃんに向かって言うと、「まっ! タカコちゃんったらぁ~。そぉねぇ、お友達もどんどん、お兄ちゃんに注意してやってぇん?」と再び熱いウィンクをかまし、獲物を目の前にして舌舐めずりするジャッカル……いやいや、悪戯っぽいスマイルを浮かべた。


「ホラァ、お兄ちゃ~ん、せっかくだから焼いてあげなさぃよぉ。こんなに可愛い子がそろって、ウハウハなのにぃぃ、ねぇぇ? あ~あ、たまにはこぉいう子を連れて来てほしいぃわぁぁ。そぉそぉ、聞いてよぉぉ! この間なんかぁ、お兄ちゃんったら、私よりぃ年上っぽいホステスさぁん、お店に連れてきてぇ、イチャイチャしてたのぉよぉ~?!」

「ありゃホステスじゃねぇよ、センコーだ。ジジィ」


 ヒュン!

 ガァっ~ン!

 グァン! シュンシュンシュン……


 何か銀色のものが目の前を横切り、金属同士がぶつかる派手な音が店内に広がった。


「……へ?」


 目の前に広がる光景は、ベティちゃんがカウンターの方へ向いて何か投げた後のような腕を伸ばしている態勢と、赤髪ピアス男が金属製のお盆を取り上げて確実に攻撃を防いだ姿だった。そのお盆にはクッキリと窪んだ跡があり、鉄板の上ではヘラが空しく音を立てながら回転している。


 猛獣……ではなく、人間2人が睨み合うこと数秒後。


「もうぅぅ、この子ったら、何言ってるのかしらぁぁあっ! 本当にぃどうしようもないんだからぁぁ。ごめんなさいねえぇ? こんなヤツぅ、無視無視ぃっ!」


 ベティちゃんは急にクルリと私達の方へ向いて、「本当、デリカシーのなぁい野蛮な男ってぇ最低ぇっ! や~よねぇ~」とプンスカ怒った。笹谷さんも「そうそう! 家に女なんか連れ込む二股男って最低!」と誰のことを思って言ってるんだか、酷く不機嫌な態度で吐き捨てた。

 2人とも何事もなかったかのようにしているけど、今確実に「人」が狙われました。

(スイマセーン、ここで殺人未遂事件が行われましたよー!)


 ヘラをなんの迷いもなく投げつけたベティちゃん。

 先生をたらしこんで連れ込んでいる赤髪ピアス男。

 非日常的な光景そっちのけで別な男を怒っている笹谷さん。


「「「「…………」」」」


 他の4人は「この店のお盆のストック数、大丈夫なのかな?」と心配することと、ダンマリングを維持する以外に何ができるというのか。


本当、何ができるというのか。いや、できることは何もない。(漢文重要句形の反語形の用法より)勉強になって、イーネッ!


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