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振り向けば、君がいた。  作者: 菩提樹
中学1年生編
19/147

初めての文化祭①

少し長いです。

~11月×日 AM.09:15 体育館舞台・本番第1幕~


「チロリアン?」

「そりゃ、お菓子だ」

「デカメロン?」

「そりゃ、少年隊の歌じゃよ」

「わかった、デトロイトだろ!」

「オマエな。そりゃ、アメリカの都市名だっつーの」

「じゃぁ、これだ! デストロイヤーだな?!」


 そう言いながらプロレス技をかけているエセ主人公『マーティ』と、「バ、バカモン! デロリアンじゃ……ギブギブ~」と叫び、本当に技を受けて痛そうにもがきながら舞台の床を叩く、頭も恰好も忠実に再現している『ドク』。

 手作り感満載な舞台の上で、無駄にスポットライトを浴びながらプロレスにたわむれるのは尾島サル江崎グリコ



 ワハハハ~!



 拝啓、ロバート・ゼメキス監督様。

 信じられないでしょうが、こんなしょーもない劇に対して笑いの渦が湧きおこっています。マジで。

 我がクラスメート達が知恵を絞って台詞をアレンジしてるとはいえ、「林家キク●ウでも言わないようなダジャレに反応するとはなにごとか!」と、舞台袖からそっと観客席に座って呑気に笑っている生徒達に一喝したい気持ちを必死に抑える荒井美千子。

 溜息を吐きながら後ろを振り向けば、総監督である「片岡君かたおかくん」が、何故か全員上半身裸でオバはんズラを被り、銃ではなく大型ハリセンを持ったテロリスト達に舞台に出るよう指示していた。(ピコピコハンマーの予定だったが、予算の関係上大型ハリセンになった)

 ロッキーのテーマ曲に合わせて出て行く、ランボーと呼ぶには若干厳しいボリュームの足りないテロリスト達。なんだかんだと一悶着ありながら、赤のダウンベストならぬ「ちゃんちゃんこ」を着た主人公が「デロリアン」へと飛び乗っていく。

 メチャクチャな演出だが、以外にも客には好評のようだった。

 クリスマスやら七夕の派手な装飾品を付け、どう見てもリアカーにしか見えない「デロリアン」は、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の映画音楽とは程遠い「吉幾三の『おら東京さ行くだ』」の曲に乗って発進する。主人公『マーティー』は、「デロリアン」を一生懸命引いている黒子とグレ子の2人に対してトナカイのごとくムチを振り、さらに笑いを誘った。


『……こうして主人公・マーティーは、博士の発明したタイムマシンに乗り込み、東京……いや、過去へとタイムスリップしたのであった』


 吉幾三のゴキゲンなラップと歌声が流れる中、体育館に響く和子ちゃんのやけにしっかりとしたナレーション。最早映画の原型から程遠い「デロリアン」の姿と奇抜すぎる音楽に涙する私とは裏腹に、予想以上の拍手とヤジを観客席から受けた我が8組。

 こうして無事、第1幕を閉じようとしていた。


*******


~10月△日 PM.03:30 1年8組・文化祭ミーティング~


「やっぱさぁ、映画通りの話じゃ芸がないわけよ? ちょっとはアレンジを加えないとさぁ。わかるかね、諸君!」


 偉そうに人差し指を「チッチッチ」と振り、学級委員、文化祭実行委員、主なキャスト、裏方の代表数名を目の前にして意見をするのは、不本意ながら主役の『マーティ』を演じることが決まった男。またの名を8組のお騒がせ者である「類人猿」こと尾島。


「……それはいいけどさ。そう言う尾島は何か具体的な案があるのかよ?」


 大江千里のような大きめの黒ぶちメガネを上げながら聞き返すのは、私と違って正真正銘生粋の真面目さでキリッとしている成績優秀な「片岡君」であり、「学級委員」且つ「総監督」を務める人だ。


「当たり前だろう、つるちゃん!」


 ピクリ。

 尾島の向かい側に座っている「つるちゃん」こと片岡君の太い眉がヒクついた。

 こんなふざけたあだ名を付けたのは、もちろんこの尾島バカだ。別に片岡君は油ぎってるわけでもなく、「プッツン」してるわけでもない。名字が「片岡」と言うだけ。「片岡=鶴太郎」、故に「つるちゃん」。

(なんて安易な命名……私や江崎君と同じパターンなのが逆に憐れだよね)

 尾島はわざと「プッツン」させる為に呼んでるとしか思えないほど、真面目な片岡君に毎度毎度絡んでいた。今も明らかにイラっとしているのに無表情を決め込んでいる片岡君に対し、わざと気付かぬふりをしながら、これまたわざとキリッとした表情で説明を始めた。


「実際映画と同じ内容のものを作るとなると、まず100%無理がありますでしょ? そこで! セットや小道具は一から作らず身近にあるもので済ますんですよ。大体、デロ……リ……ま、この際名前はどうでもいいですよ。ともかくあのタイムマシンだってカッコイイけど、かなり厳しいでしょうが? だからここは他のもので代用しようというわけですよ! こういうのは身の回りにある物のほうがウケるんだよなこれが。例えば事務のオッサンが使ってるリアカーとか?」


 途中までどっかの胡散臭い訪問販売員のごとく丁寧さを全面的に押していたが、結局最後はスタミナ切れのため、「ヒャヒャヒャヒャヒャ~」とお馴染みの笑いでサクッとまとめた。しかし「な?」と同意を求められたライバルの『ビフ』役を演じる諏訪君は、たいして面白くもなさそうに「そうか~?」とどうでもいい様子だ。すかさず尾島は隣に座っている「尾島ニ無理矢理引ッ張リ出サレタ被害者其ノ一」である『ドク』役の江崎君グリコにも、「なっ? そう思うよな?!」と肩を強く叩いておどし……いや、説得した。


「で、でもさ。事務のオジさん貸してくれるのかな? ……あれを体育館の舞台に上げるの大変じゃない?」


 バスの中でもないのに弱弱しい声を上げたのは、主人公の父親役である『ジョージ・マクフライ』こと野口君ノグティー。彼もまた「尾島ニ無理矢理引ッ張リ出サレタ被害者其ノ二」であり、文化祭本番はまだ先だというのに、既に目が泳いで落ち着かない様子だ。今からこんな状態では先が思いやられる。


「それをなんとかするのが我が8組の腕の見せ所じゃないですか! それよりノグティーよ。今からそんなに緊張して本番大丈夫か? どうでもいいけど、文化祭前夜と当日朝は絶対飯抜いてこいよ!」


 尾島の見勝手だけどもっともすぎる辛口な意見に全員苦笑した。ノグティーは「俺、別に裏方でもよかったんだけど……」と納得しかねるようで、小さく抗議をしている。彼の気持ちもわからなくはないが、まったくもって適任すぎるキャスティングの為、ここは是非とも内臓に気合を入れて頑張ってもらいたい。


「大変だけど、おもしろそう~! 意外とウケるかもよぉ?」


 可愛く尾島の意見に賛同するのは、主人公の母親の『ロレイン』を演じる「尾島ニ無理矢理引ッ張リ出サレタ被害者其ノ三」の島崎さん(アダモちゃん)だ。こちらも毎度毎度のことだが、彼女の無防備な笑顔にこの場にいる男子の顔が緩んだ。無論片岡君とて例外ではない。


「やっぱし? さっすが、アダモちゃん! 可愛い子は飲み込み速いし、一味違うねぇ」


 照れもなく思いっきり嬉しそうに頷く尾島と、「やだぁ、尾島君ったら相変わらず上手いんだからぁ~」と何気に尾島の言葉を否定しないアダモちゃん。2人の間には花が咲き乱れているアルプスの草原が広がっており、「ウフフ、アハハハ~♪」と手をつないで無邪気に踊っている「ハイジ&ペーター的な景色」が垣間見える。それとは反対に他の人達には「またかよ、この2人」という空気が流れ、諏訪君などは「アホらし」とだらしなくイスに寄りかかった。


「ゥオッホン! ……あ、え~と、他のみんなはどうだ? 監修の荒井はどう思う?」

「は? わっ、わたし?!」


 ロッテンマイヤーさんのような片岡君が急に話を振ったので、アルプスの世界を適当に流していた私は慌てて頭を上げた。既に全員の視線がこちらに集中している。しかも尾島は「なんだぁ? なんか文句あるのか、テメェっ?!」という内容の熱い視線……どころでなない熱光線ビームを目から発射中。「ここはやっぱりさ、映画に忠実にいこうよ!」という私の控えめな意見は陽の目を見る前に瞬時に破壊されてしまった。まぁ、この人数の前で言えるような勇気があれば、入学当初から「類人猿」ごときに苦労はしない。不本意ながらも、ヤツの意見を肯定するような言葉しか出なかった。


「え、まぁ……確かに『デロリアン』を実際作るとなると……限られた材料ではちょっと、大変かも……しれない」

「ほれみろ! ま、当然だよな~。つーことでさ、やっぱここはリアカーにしようぜ? もちろんそれだけじゃつまらないからさ、各自家にあるクリスマスの飾りつけでもすりゃ、ちっとは映えるだろ」


(そういう問題か!)

 アダモちゃんの時とは打って変わって、私に対してはいつもの強気で畳みかけるような発言に戻る尾島。あまりの豹変ぶりに最早言い返す気力すら出てこなかった。周りもアダモちゃんの時とは違った意味で「まただよ、この2人」と言う目で見ている。8組の連中は毎回私がこのような扱いを受けているので、間違っても「尾島と荒井はアヤシイ」という噂を誰一人として信じちゃいない。

(おかげで最近噂もほぼ皆無。バンザイなことこの上ない。……ないんだけどさ……)

 それでもイマイチ納得いかない。「いったい私が何をした? えぇ?!」と一度チビ猿を締めあげたいところだ。

(ま、それはいいとして――)

 そんなことよりも、心の中でものの見事にショボくなった「デロリアン」に落胆を隠しきれない、監修・荒井美千子。一方、細かい設定や台本作成を仰せつかった私の賛成ともとれる意見を得て、一気に機嫌良く話を進めるチビ猿。

 さらに勢いに任せて「衣装は赤いダウンベストじゃなくてさ~、赤いチャンチャンコでよくね?」だの、「いっそのことテロリストはランボーにしちまおうぜ」だの、「台詞ももっと捻ってさ~こんなのどうだよ?」など、人がさんざん苦労して集めた資料や台詞を書き出した台本に勝手に付け加えていく。

 そのうち他の人からも次々とアイデアが出て来て、いつのまにか多くの意見が飛び交い、私以外の生徒達は盛り上がっていた。今回ナレーションをやることになった和子ちゃんも珍しく、全員和気あいあいとなった尾島の意見に反対する様子はない。

 だいぶどころか、かなりオリジナルからかけ離れた「バック・トゥ・ザ・フューチャー」。それもまたクラス全員が協力して作り上げる文化祭の醍醐味の一つと言われれば、私の細かな意見などは無粋というものだろう。

(……ロバート・ゼメキス監督、ホントスンマセン。どうか、どうかお許しください!)

 私はクリスチャンではなかったが、心の中で天を仰いで十字を切った。


ここで映画ファンとハイジファンの皆様にお詫び申し上げます。しょーもない内容でけしからん! など、お怒りだとは存じますが、広い心で見守って下さるとありがたいです。

さて、文中の「プッツン」、流行語大賞にも選ばれたある意味すごい言葉です。プッツンと言えば、片岡鶴太郎の「鶴ちゃんのプッツン5」でございます。これも大好きな番組でした、ほんと懐かしいですねぇ。

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