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振り向けば、君がいた。  作者: 菩提樹
中学2年生編
143/147

1月は氷解~Mr.ブルーの告白⑥~

大変長らくお待たせして申し訳ありませんでした。m(__)m

 星野君から受け取ったミルクティーの缶をハンカチで包みながら、静かに溜息を吐いた。

(ジーンズの裾を踏みさえしなければ、鼻血ブーなんてならずに済んだのに……)

 絵に描いたコントっぷりに、自分が情けなくなってくる。ブー高木を見習ってブー荒井に改名して一から出直すべきかと真剣に反省をしていたら、星野君が「あ」と声を上げた。急にどうしたのかと星野君を見れば、彼はキャップのツバを上げながら観覧車を見上げていた。


「あ、いや。啓介たち、乗ったみたいだ」

「……え?」

「あそこの揺れるゴンドラの方に乗ってる」


 指さす方を見れば、どうやら尾島達はこの遊園地のシンボルである観覧車の、それも派手に揺れるゴンドラの方に乗り込んだらしい。でもハッキリと尾島が乗っているとはわからなかった。最近視力が落ち気味なのか、人が手を振っている程度しかわからない。

 星野君には一応「そうなんだ」と答えておいたが、すぐに手元の缶へ視線を落とした。元々確認する気もない。只でさえ高さがあるのに、派手に揺れるなんとも罪作りなゴンドラなんて、見てるだけで薄ら寒い気分になる。高いところが苦手な私には、たけし軍団でお馴染みの「Theガンバル●ン」並みの苦行だ。


「啓介、手振ってる」

「あ、うん」

「ん? 明日香や後藤と諏訪もいるな」

「…………」


 星野君は手を振り返したが、私は観覧車を見ずに、無言のままミルクティーで手を温めるようにゆっくり回した。

(……小関さん、ね)

 ゴンドラは4人乗りだ。だから目がいい星野君の言葉が正しければ、彼らはグループデートに来たはずなのに、一番デート気分を味あわなければならないチィちゃんと星野君ラブ女子が蚊帳の外になっていることになる。

 案の定、星野君の言葉がそれを裏付けた。


「茅野さん……達3人は、揺れない方に乗ってる」

「そう……」


 せっかくデートのフィナーレなのだから、気を利かせてカップルで乗せて上げればいいのにと思った。せめて尾島が乗っているゴンドラには、チィちゃんを乗せるべきではないのか。たとえ小関明日香が一緒だったとしても。

 星野君ラブの彼女も、星野君が高いところがあまり好きじゃないと観覧車を辞退したので気の毒ではあるが、せめて後藤君や諏訪君達と一緒に乗っていれば、多少なりとも気分が晴れたのではないだろうか。

(こういうことって、パイプ役の小関明日香が気を利かせないといけないんじゃないのかな)

 尾島と貴子の間に入った小関明日香の発言云々も合わせ、喧嘩を止めるどころか火に油を注ぐような事ばかりをする、まったく理解できない彼女の行動に溜息が出てしまった。


***


『まぁまぁまぁ、啓介ケースケも貴子ちゃんも、そんなに怒らないでよぉ。ね?』


 尾島と貴子の喧嘩に割り込んだのは、屈託ない可愛らしい笑顔の小関明日香だった。

 二人の顔を交互に見ながら、落ち着け落ち着けと大袈裟に両人の肩を叩いた彼女。だがそんな軽い言葉で宥められて、大人しく「そうだよね!」と聞く二人ではない。

 その証拠に、頭から湯気が出そうな尾島と逆に冷静さが戻るにつれて冷気を纏う貴子が睨み合っていた。

 だが小関明日香はそんな二人の暗黒空気を読まなかった。スルーしてさっさと尾島を連れ出してくれればいいものを、なんと二人の手をむんずと掴んで、無理矢理重ねたのだ! 


『んもう! 二人とも、もうい~じゃん。これで仲直り、ね? 昔は仲のいい幼馴染だったんだからさぁ~。なぁんせ、みんなで仲良くお風呂に入った仲だもん。ね~カズユキ?』


 遊園地のど真ん中に、魔導士もいないのに大きな隕石メテオという名の情報が落ちた。


『この絶妙なタイミングとピンポイントにどうでもいい情報メテオを落とすたぁ、アンタ相当の手練れ(ゲーマー)だねっ?!』


……的な展開に、悲鳴を上げながら互いの手を弾き飛ばした尾島と貴子はもちろんだが、話を振られた星野君もつぶらな瞳を大きくして固まっていた。

 一方後藤君は微妙な顔つきで、諏訪君は「ヒョ~マジかよぉ!」などとさらに煽るような冷やかす声を出したが、彼らはこの際どうでもよい。問題は残りの女子。特にチィちゃんと星野君ラブ女子は、衝撃的な事実にかこの寒さにか完璧に凍っていた。

(おいおい、もっと状況を察しろよ、小リス! なんでもかんでも事実を暴露するのはマズイだろ?!)

 今のセリフで、上手く行っていたグループデートが、完全に台無しになった感が否めなかった。お膳立てしなきゃならん仲介人が掻き乱してどうすると心の中でブッこみつつ、小関明日香の言葉にある出来事がポッと頭に思い浮かんだ。


『それこそ仲良く風呂まで入った明日香チャンや、修旅の時に布団の中でイチャコラしてた原口も待ってるんじゃ~ん』


 確か、こんな言葉だった。

 あれは――そう。去年の夏祭りのことだ。頭がチリチリフワフワパーマのチリチリこと伴丈一朗が暴露した内容だ。

(……やっぱり、あの時チリチリが言ってたことは本当、か)

 あの時は小関明日香の名前しか出てこなかったが、考えてみれば幼馴染である貴子も星野君も、そういう関係であってもおかしくない。そこにはおそらく、桂兄弟も含まれているのだろう。

 この状況、チィちゃんや星野君ラブな彼女には少々キツイだろうなと思った。実際二人に目をやれば、思った以上に彼女達が悪い方に反応しているのがわかる。

(幼馴染、ねぇ)

 別に幼馴染という関係をどうこう言うわけではないが、色恋沙汰になると、その関係は微妙な波紋を呼ぶ。当人たちは意識しなくても、周りから見れば非常に入りにくい雰囲気が漂っているのだ。特にこの尾島達と小関明日香の関係は、厄介さのレベルが高すぎるところがあった。

(尾島達や小関明日香ラブな皆様にとっては、疎外感半端ないだろうなぁ……)

 第三者である超関係ない私でもわかるくらいだから、当人たちは相当だろう。これが以外とダメージが大きくて後からジワジワとムカつく上にイライラするし落ち込むんだよねと考えたところで、ハタと我に返った。

(な、なによ。別に、私超関係ないしっ? 大体幼馴染なんて、実際はそんな大した関係じゃないし! 第一私も雄臣達とお風呂入ったけど、そんな雰囲気微塵もないし!)

 そうなのだ。それこそ巷の小説や漫画では、幼馴染同志秘めた思いを抱えてます的なお約束展開があったりするが、正直あれは漫画や小説の中だけで、現実はそう甘い展開はなかなか転がっていない。むしろ近いがゆえに辛辣な意見でダメ出しされたり、評価がすこぶる厳しかったりするものなのだ。

(むしろ雄臣との関係なんて、日に日に疑心暗鬼と溝が深まってるぐらいだからな)

 悪魔な幼馴染を思い出し、引き攣り笑いが漏れそうになった。

 まったく、小さいは頃はそれはそれは可愛くて、麗しい紳士予備軍だったのに。雄臣も私も一体いつからこんなに捻くれた性格になってしまったのか。



(雄臣の幼い頃……か)



 それにしても――先ほどから、やたら雄臣ばかりを思い浮かべるのは、どうしてだろう。

 チリッと差し込む、賑やかなスケート場と共に優しい幼馴染の姿ばかりが過るのは何故だろう。



 曖昧な記憶の断片で、

 氷の上で半べそを掻く私を優しく起してくれるのはだれなんだろうか。



 雄臣? 真美子? それともアラタ



 違う。



『うわっ、泣いちゃったよ!』


 

 だってこの子、雄臣より大きいんだもん。



『……ルカ!』



 あなたはいったいだあれ? 

 いま、なんていったの?



『泣かないでくれ』



 そう言って抱き上げてくれた、見知らぬ子の傍にいたあの人は、

 あの、頬に感じた、チクチクしたお髭の、低い声のあの人は、



 東小父さん?



 それとも、



 とうさん?



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