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振り向けば、君がいた。  作者: 菩提樹
中学2年生編
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1月は氷解~Mr.タイガーの写真③~

 朝からカツアゲ同然の行為を受けた私は、当然授業の方も散々だった。

 思いっ切り遅刻した一限目は運悪く一之瀬の英語。立ちっぱなしの刑だけでなく、集中攻撃の刑も受ける羽目になったのだ。

 しかもこういう日に限って他の授業でも先生にあてられることが多かった。「どうやってお金を工面しようか」などと真剣に悩むばかりで授業もロクに聞いていなかった私は、先生に注意されっ放し。

 桂龍太郎の脅しと先生からの注意というダブルパンチを受け、ショボンとしている私にさらなる追撃を掛けるのは、隣に座っている男。しかも例の加害者がこの男の友人だけに苦痛は倍増だった。

 その男とは、二年近く同じ学び舎で過ごしながらも、とうとう3学期の席替えで隣になってしまった1組のボス猿こと尾島啓介である。

(この尾島ヒトもなぁ……)

 おぞましい草野球の一件以来、一時期完全無視のころとは比べものにならないくらい、荒井美千子へ過剰なスキンシップ振りを発揮するようになった尾島。その勢いたるはあのマイケルと二分するほどの人気ぶりだ。おまけに何故か私の行くとこ、神出鬼没であるブキミちゃん並みの出現率で尾島ヤツが現れる。

(ここまでくると、完全に妖怪?)

 妖怪ポジションとしては間違いなく「ベロ」だろう。なんせ「ベム」と「ベラ」の穴は埋まってるし、見た目も背的にもバッチリだ。

 ともかく。そんな若干ウザい尾島は、私が先生に注意されるたびに嫌な薄ら笑いを浮かべていた。もちろんそれだけで終わるはずもない。こういう時こそ本領を発揮する尾島は、悶々と一人真剣に悩む私の横でボソッとどうでもいいこと――例えば、「教頭ってズラらしいな。この間カラスに持ってかれたんだってよ、ダッセ!」だとか、「一之瀬っていまだに白ブリーフを愛用してるらしいぜ」だとか、「知ってるか? 一昨年箕輪、プールの授業中飛び込んだ拍子に海パン脱げちゃったんだってよ。どうするよオイ!」などなど――を呟いたり、歴史の教科書に載ってる歴代の有名人物の顔に色々落書きして、綺麗にデコった力作を予告もなしに見せつけたりした。

 普段なら引き攣り笑いだとか、「あン、授業中なんだから、ダ・メ☆」などと控えめに注意したり、調子が良ければ「それはそれはなんともショッキングな話ですなぁ」などと相槌を打ったりできるが、さすがにこの日は人の好い荒井美千子さんでも無理だった。

 完全にシカト体制に入っていたのに、超不機嫌な鈍臭い地味女子の空気を読めなかった尾島は、何故だが時間がたつにつれて焦ったように話し掛ける回数を増やすばかり。しまいには一言もしゃべらず明後日の方を向いて授業に集中している私に、デリカシーのない言葉でトドメを刺すという暴挙に出た。


『……おいおい、なんだよ。さっきからダンマリじゃねぇか。しかも顔がどんどんブサイクになってるぜ? せっかく未来のダンナが……ッホン! ……あ、その、なんだ、ダン、ダン……そうだ! いやぁ~「段田男だんだだん」って最近見なくね? どうしてんだろ、ハハハハ~』

『…………』

『あんだよ、その感じの悪い目つきは! あ~いやだいやだ。オレ様が気を使って気分を盛り立ててやってるというのによ? その態度はイカンでしょ、キミ。いやいや実にイカンね!』


 その心の籠ってないペラッペラした軽い口調と恩着せがましい言葉を聞いたとき、色々な緊張と不安のせいで張りつめていた神経がブツリと音を立てて切れた。ズラやパンツネタを披露する憎いくらい整った尾島のツラにワンツーパンチをお披露目したい衝動に駆られるほどに。


(こちとらそのブサイク顔のせいで、おのれのマブダチからどエライ目に合されとんのじゃ! 気分を盛り立てる暇が合ったら、アタイの代わりに裏番に取り立てを中止するよう土下座してこんかい!)


……とは言える筈もなく。

 とりあえず、感じの悪さ三割増しパワーアップさせた目つきでギロリと睨むだけに留めておいた。それでも腹の虫が収まらなかったので、脳内で公開処刑ショーと言う名の超高度で禁断なダブル攻撃を尾島に繰り広げる荒井美千子。内容としては、最近生意気にも茶色く染めた尾島の短い髪を掴んで前後に振った後、よろけたところをすかさず鼻フックをかましながらボディーにフックをお見舞いするというイカした妄想だ。

 しかしそんな妄想はすぐに消した。こんな小うるさい猿を相手にしている場合ではなかったからだ。

(どうしよう、時間がない……大体時間やるからと言う割には今日中に払えってどういうことよ? 普通に日本語おかしいだろ!)

 どう考えても性質の悪い高利貸しにしか見えない、裏番どころかすでにチンピラの頭角が現れている桂龍太郎に文句を言いたいが、足軽のスキルじゃどう考えても無理がある。

 それにしても……普通筋の通った大物の不良と言うのは見掛けはアレでも、実際は心優しく弱い者や素人には手を出さないのがお約束――例えば雨の中捨てられた子猫や子犬を拾ったり、実は地味専だったり――の筈なのに。どうやらそれはおとぎ話の中だけみたいだ。


 結局尾島を無視して悪徳高利貸し対策に頭を捻り続けても、解決策を見出すことは出来なかった。

 そんなこんなで時は既に放課後。自分一人で解決させるのは無理だと悟った私は、超強力な助っ人である「あの御方」に援護を頼むことにした。本当は彼女に桂龍太郎と接触したことを知られるのはどうかなと思ったけど……ここは土下座の謝罪もいとわない覚悟で頼み込んだ。なんせあの悪魔軍団に対抗するには、「あの御方」の力無しではどうしても無理だったから。

(ちなみにこの場合、裏番の秘密も1つか2つくらい握っていそうなブキミちゃんに頼むのもアリだが、かぐや姫ばりに超限定された雄臣と言う名の貢物を要求されるのがオチなので、思うだけで留めておいた)


『わ~ん、たたた貴子ぉ~!』


 掃除当番じゃなかった為、ホームルームが終わるや否や速攻で隣の2組に駆け込む荒井美千子。もちろん、取り立て屋にまだ学校に残っていると悟られぬ為に、荷物を全部持っていくことも忘れずに。(つまり夜逃げですね)

 身振り手振り付きで事情を説明すれば、貴子は潤んだ茶色い美しい瞳に仄暗い青い焔を燃やし、静かに般若の面を装着した。そのまま顎をクイッと動かし、「ついてきな!」という合図を送る貴子。10組へ続く廊下を私の目の前でズンズンと闊歩する彼女の姿は、まるで超アフロにした髪の毛に武器を隠し、左袖に「喧嘩上等」、右袖に「仏恥義理ぶっちぎり」、トドメは背中に「天上天下唯我独尊」の刺繍を施した白い特攻服に襷がけをしているスケ番、またの名をレディースの女総長そのもの!


(イカすぜ、ネェさん!)


 さすが伝説のスケ番・笹谷厚子を姉に持つだけのことはある。

 しかし――


『たのも~!』


 2年生のクラスの中でも訪問者数ワースト1という10組に突撃した貴子と舎弟の私は、肝心の桂龍太郎がいないという肩すかしを食らった。ゴミ捨てに行ってるという幸子女史とチィちゃんの代わりに対応してくれた女子に裏番の所在を尋ねれば、彼は昼休み後フケたというのだ。

(ワッホ~イ! もしかしてこのままスルーってな感じで事件も解決しちゃったりして!)

 舌打ちをする貴子の隣で呑気に喜びに浸る私に、対応してくれた10組の女子達はフフフと忍び笑いをした。「え? なんですか?」という私たちの不満そうな顔に、慌てて女子達は弁解らしき言葉を捲し立てた。


『あっ、ご、ごめんね! 誤解しないで? 笑ったのはそう深い意味はなくて……。ここだけの話なんだけどさ。実はお昼休み、小関がね? 桂君から何か受け取ったみたいで……それがその、え~と……荒井さんの写真というか……。二人してね? 黒板に写真を貼りつけて笑いながら品評会してたんだよ。あ、でも、茅野と中山が注意しようとしたんだよ? でもほら、相手は裏番でしょ? みんなも強くも言えなくてさ。小関は小関であんな感じで裏番と仲いいじゃない? もう滅茶苦茶だったんだよね』

『『はぁっ?!』』


 ちょっとぉ! 思いっ切り深い意味あるやんけ!


……などと文句を言ってる場合ではない。人の顔見て気の毒そうに苦笑する10組の女子によりとんでもない事実が発覚したのだ。どうりで10組の生徒が私を見て笑っている筈だ。事の真相を小リスに吐かせ……いや、聞き込みしようとしたら、小リスもすでに教室にはいなかった。貴子は鬼の形相で女子に詰め寄れば――


『え、小関? 多分1組に行ったんじゃないかな? なんか取り立てがどうのこうのと言ってたような……』


 彼女たちの言葉を聞いた途端、貴子は「しまった!」と舌打ちして来た道を猛ダッシュで戻り始めた。私は10組の子にお礼を言って後を追いかけ、急いで1組の教室に戻ってみれば――。


 そこには1組の生徒に囲まれて、教卓越しに尾島達と和子ちゃんが睨み合っていた。

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