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振り向けば、君がいた。  作者: 菩提樹
中学2年生編
102/147

山野中体育祭!~悪魔が迫りてミチビビる・中編~

この話は過激な表現と発言が出てきます。PG12指定とさせていただきます、ご了承くださいませ。m(__)m

『あ、あの……ノックもせずに、戸を開けたのは……すみませんでした。決して邪魔するつもりはなくて……その、ご、ごめんなさい。こ、ここに来たのは、顧問にこの教室の戸締りを頼まれたからで……それで、悪いんですけど……ここの教室を閉めたいのですが…………あの、オヤビン……いえ、桂君?』


 彼は私の呼びかけに少し顔をあげた。再び睨まれるかと思い身構えたが、彼は意外にも苦笑というか、「オマエ、ホントにアホだな」的な残念顔をしていた。睨まれずに済んだとホッとした半分、その憐れんだ顔がなんだかカチンとくる。俗にいうカンに触るってやつだ。こっちは低姿勢で謝っているというのに。


『な、なにか?』

『クク……別にぃ。……やっぱ「ハジメテで面倒極まりない」んじゃん。おかしいと思ったんだよな~ボインがあの東って奴と? ハッ! ナイナイ! 大体色気のイの字も出てねぇもんよ! 完全にアイツの考えすぎだな』

『え?』

『ああわりぃ、こっちの話。ま、心配すんな。オレは丈一朗と違ってボインに手を出すほど飢えてねぇから。つーより、わりぃけどオマエは完全守備範囲外。だからボインがご期待に添えない下着を身に着けよーが? 処女で面倒極まりないだろうが? 生理一日目だろうが? 興味ねぇのよ。まぁ、自ら告白したその度胸に免じて、クク……こ、今回は特別に聞かなかったことにしてやんよ?』

『…………』


 完全に誤解していた私の言動を蒸し返され、さらに顔を赤くしたまま横一文字に口を閉じてしまった。思いっ切り忘れてくれていいのに、なんでこの破廉恥男はしっかり覚えているのだろう。数分前に戻れるなら、余計なことを捲し立てる自分に確実にドロップキックを決めたいところだ。いや、その前に教室のドアを開けずそのままスルーしろと言うべきか。

 桂龍太郎は完全に身体を起して「ギャッハッハ~!」と爆笑した後、背もたれに片手で頬杖をつきながら、私を見上げた。

 男の顔からは既にスマイルという文字はきれいさっぱりなくなっており、いつもの強面顔だ。この男は365日年中無休で怖い顔だが、なぜか輪を掛けたように恐怖度が漲っている。その三白眼から放たれるギラッとした視線が、いやに真剣みを帯びているからなのか。

 ギクリとしながらも、よくこの男とチッスできた貴子や、それ以上のことをした晴美先輩、教室から走り去った女子に賞賛を送った。どこをどうしたらこの男とそういう雰囲気になれるのだろう? 一体この男は女子と一緒にいるときどんな言葉を吐くのだろうか? ……などと不埒なことを考えてしまった。


『……それよりさ。先月の祭りの時の啓介と丈一朗の喧嘩に、ボインが関わってるんだって?』


 桂龍太郎が眼光をさらに強めながら言った言葉は、私の不埒な考えを綺麗に吹き飛ばした。


 暫く2人とも固まっていたが、その緊張を切り裂くように、カーテンが私と彼の間を遮るように大きく揺れた。パタパタとはためくカーテンが鬱陶しいのか、桂龍太郎はチッと舌打ちしながら乱暴に振り払った。私はその音で我に返り、彼から無理矢理視線を逸らして逃げるように開いたままの窓を閉めに行った。ドクドクと逸る心臓を片手で抑え、ゆっくりと窓を閉める。完全に閉まると急に教室の中はシーンとなった。僅かに応援合戦の音楽が窓越しに聞こえてきたが、窓が開いた時よりも妙にリアルだ。

 何も言わないまま窓際に佇んでいる私に痺れを切らしたのか、桂龍太郎は再びため息をついて、「ま、んなこたぁ、どうでもいいか」と呟いた。


『オマエ、そんときのこと誰にも言ってねぇだろうな?』

『…………』


 彼の問いにはすぐ答えられなかった。頭の中が真っ白になってしまい、適切な言葉が思い浮かばなかったから。しばらくカーテンを握りながら「なんて答えたらいいんだろう」と焦り、「もう貴子に話しちゃったよ」と桂龍太郎に言ったらどういう反応を示すかと震えていたら、ふと重要なことがポッと頭に浮かんだ。

 そういえば――どうして桂龍太郎は、尾島と伴丈一朗が喧嘩したことを知っているのだろうか。確かブキミちゃんがあの場にいた全員に口止めした筈なのに。

 でも、出所はなんとなく予想がついた。おそらく尾島や小関明日香に違いない。桂龍太郎は彼らの尤も親しい幼馴染、だから気軽に話したのだろう。どこからか事実が漏れるかもしれないのに、そんな気軽に話して……と思ったが、それは私も人のこと言えた義理ではなかった。実際に貴子に話してしまったのだから。

 でも、例えブキミちゃんの許可が出たとはいえ、こんな大事なことを人に話してしまった罪が多少なりとも軽減された気がした。

 私が頭の中で思考を巡らせていたら、桂龍太郎は黙り込んでいる私に苛立ったのか、いきなり汚い上履きを履いた足で近くの机を乱暴に蹴り上げ、大声で怒鳴りつけてきた。


『おい、ボイン! 聞いてんのかよっ!』

『ヒィッ!』

『まさかっ、本当にペラペラと喋ってねぇだろうなっ?』

『ままままさかっ! そ、そんなこと……言って……ません……』


 完全にビビってはいたが、そこはきちんと否定しておいた。

(だって、言えるわけないでしょうーがっ!)

 おそらくコイツらの悪口を堂々とペラペラ言えるチャレンジャーは、ブキミちゃんや伴丈一朗チリチリだけだろう。第一こんな不良がバックについている尾島達を敵に回して、何の得になるというのだ。それこそ百害あって一利なしだ。その証拠にケンカの件で尾島が学校に呼び出された気配はないし、ケンカの噂だって立ってないではないか。シニアのグラウンドが移ったという話も聞いてない。大体貴子に話すのも時間が掛かったというのに。

 私はそっとカーテンを離し、意を決して桂龍太郎の方を振り向いた。


『あ、あの……本当に言ってません。こっこここれからも、もちろん言いませんっ! ……あ、あ、あの祭りの日のことは、も、もう忘れたので……だから……』

 

 あなた達もこれ以上私に関わらないで欲しい、とまでは怖くて言えなかった。でもそれっぽい真意は伝わったと思う。何様だ、とか言われそうだが。

 とりあえず、「このお話はどうかこれで終わりにしてくだせぇ、ゲヘヘ」という手もみニュアンスの視線を送って頭を下げれば、桂龍太郎はひどく真面目くさった表情をしていた。いつもの強面ではなく、いや、もともと怖いのだが、呆れているわけでもなく、嘲笑しているでもなく……僅かだがバツの悪そうな顔だった。


『……なら、別にいいんだけどよ。まぁ、啓介がキレたのがわりぃんだし……けどな? もし喧嘩の件がどこからか漏れて、その原因がボインだったら、女でも容赦しねぇ。だからさっきの言葉、絶対守り通せ。いいな?』


 最後にギラッと睨まれ、私は慌てて頷いた。桂龍太郎は確実に口止めをできたことに安心したのか、軽く吐息をつくその仕草に思わずムッとしてしまった。

(……別にそこまで念を押さなくてもいいじゃない。私ってそんなに口軽く見えるわけ?)

 しかも私は完全に巻き込まれた被害者だ。そこまで言われる筋合いはない、と思う。

 非常に心外で、さっさとこの不機嫌極まりない状況から解放されたかった。話が終われば2人ともここにいる必要はない。逆にこの場面を誰かに見られ、再びあらぬ誤解を生まれたらたまったものではない。 桂龍太郎にとっととこの教室から出て行ってもらいたくて、教室内の全部のカーテンをわざとらしく丁寧に閉めた。


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