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振り向けば、君がいた。  作者: 菩提樹
中学2年生編
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山野中体育祭!~吐息を漏らす少女・後編~

「わぁ~どっち応援しよう……赤組応援したいけど、青組は東先輩のチームだし。ね、貴子はどっち応援する?」


 和子ちゃんは本気で悩んでいるようで、興奮した赤い顔で貴子の方へ振り返ると、ある一点を睨んでいた貴子は怒ったような顔から、急にへにゃりと苦笑いした。


「あ~うん。迷うよね」

「やっぱぁ? あ~あ、私も青組がよかったな。幸子とチィちゃんが羨ましい!」


 和子ちゃんは青組の応援席である右側のずっと先を見ながらため息をついた。

 奥住さんの裏情報によると、雄臣と日下部先輩がいる3年11組を含む青いオオカミ軍団は、応援合戦、競技共々なかなか逸材が揃っており、今年度体育祭の優勝候補ナンバーワンだった。私としてはどのチームが勝っても構わないのだが、せめて軍旗の部門だけは、我がクラスに勝利をもたらしてほしいと思った。こうして他のクラスの軍旗を見てみるが、我がクラスのように完成度が高いものは見当たらない。贔屓目かもしれないけど。

(だって、鈴木さんと田中さん、それにあのマイケルが頑張ってくれたんだから! これぐらいは私の仕事が報われてもいいよね?)

 現在奥住さんの手で振られている2年1組の軍旗。

 一昨日の放課後やっと完成し、昨日の朝のホームルームの時間に青島先生チンタオから軍旗作成チームである鈴木さんたちやマイケルが前に呼ばれ、軍旗のお披露目公開となった。思った以上の出来具合で、クラス全員を唸らせるほどの作品に、私もクラスメートと同様賞賛の拍手を送った。


『見てみぃ! ワイらが作った軍旗じゃい、文句ある奴はかかってこんかい!』


……と心の中で天狗になる荒井美千子。私が仕上げたわけではなかったけど、資料集めや作成過程には関わっていたので、自分のことのように誇らしかった。

 しかし、体育委員やサポート委員は鈴木さん達やマイケルだけにお礼を述べ、私は完全なる無視。ちょっと……いや、かなりムカついたうえに落ち込んだけど、あのメンバーなら仕方ないだろう。別に褒められるためにやったわけではないし。そのかわり、学級委員とあの青島先生チンタオに「荒井、よく頑張ったな。ありがとうな」とお礼をもらった時は嬉しくて、ちょっと涙ぐんでしまった。

 どうやら神様は気紛れだけど存在するようだ。


「あ~っ、バカ! 気を抜くな! 早く倒せ!」


 和子ちゃんの罵声と大袈裟な身振り手振りで、軍旗から競技の棒倒しの方に意識が行った。いつの間にか赤組と青組の勝負が始まっていたらしく、今にも赤組の棒は倒れそうだった。しかしその赤組の棒を守っていた一人の男子が飛び出す。全身に闘志に燃やしているその赤い鷹……いや、どちらかというと猿は防御隊から攻撃隊に勝手に移ったようだ。人数合わせの為に青組の棒に助っ人として参加している先生方、青組の生徒を思いっきり踏み台にして青組の棒に飛びかかり、上から踏みつけて倒してしまった。その塊の横で、呑気に指をさしながら爆笑している桂龍太郎。

 瞬く間に形勢が逆転し、あっけなく試合が終了した。競技終了の合図が鳴り、盛り上がる赤組の生徒たち。青組を応援していた筈なのに万歳三唱する和子ちゃんに、私と貴子は顔を見合わせて微笑み合った。


『参加してくださった先生方、ありがとうございました! これで2年男子の競技・棒倒しを終了します、2年男子退場します! 次は3年女子の競技による四人五脚です。2年女子は入場門の方へ集合……』


 アナウンスと共に音楽が流れ、2年男子はトラックを一周するために走り出した。ますます黄色い声を上げる2年女子の皆様。2年の赤組隊長的な尾島が赤組ホームの傍にくると、3年男子から身体や頭を叩かれたり、原口たち女子の手に「バチン!」とアイドルさながらタッチをしていた。


「……ったくさぁ。あ~ゆ~ことするから、あの尾島オトコは調子に乗るっていうんだよ!」


 和子ちゃんの呆れながら言ったセリフに私も大賛成だった。女子と呑気にタッチングしている猿のデレッとした締まりのない顔が無性に腹立たしくて、尾島がこちら(かどうかわからないが)を見て「どやっ!」顔をしたときには、思わず「だ、か、らぁっ? フンっ!」と勢いよく明後日の方を見てしまった。大体アンタ1人の力じゃないしと心の中でブーブー悪態ついていると、隣の貴子が急にぷっと噴き出した。


「ちょっとぉ、貴子、どうしたの~? 急に笑い出しちゃってさぁ」


 和子ちゃんがねぇねぇと貴子の身体を揺らしても、貴子は「なんでもな~い」を繰り返すだけで、顔をニヤけたままこちらに意味深な目配せをするだけ。私は貴子に自分の行動を見られたのが無性に恥ずかしくて、ソッポを向いたまま何となくソワソワしてると、青組の最後尾でダラダラ走りながらもこっちに顔を向けている金髪男と目があった。

 桂龍太郎(デ●ルマン)が向けている目線は、完璧なまでにターゲットをロックオンしており、今にも熱光線デビルビームを発射するほどの勢い。ていうか、出ている。どうやら私の行動と考えは、抜群な透視力デビルアイによって完全に筒抜けのようで、相当お怒りの御様子。


『……おらぁ、ボイン! なに思いっ切り無視してブーブー悪態ついとるんじゃいっ?! 普通にせいゆーとるのに、あんとき(・・・・)の約束、よもや忘れたとは言わんじゃろうのうっ?』


(あばばばばば……!)

 あまりの迫力に私の脳内ではエセ広島弁をかます、デ●ルマン。心なしかオーケストラの前奏が素晴らしい「デ●ルマン」のオープニングが迫るように聞こえてくる始末。その緊張感はさながら「ジョーズ」並みだ。いますぐ速攻あの金髪男の名前も、一昨日あの部室であった事も一切合財忘れてしまいたい衝動に駆られた。


「……ちょっと、貴子。猿の友人の桂龍太郎、こっち睨んでるよ? ……なんか怖いんですけど」

「和子……あんな奴、怖くないわよ! 負けずに私たちも倍にして睨み返すのよ!」

「え~そりゃヤバイよ、貴子~」

「…………」


 私は異常に反応する貴子の胸中を思い、一昨日のことがバレたら殺されるなと、彼女の陰に隠れながらハァと吐息を漏らした。


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