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第八話 ラグド内戦資料館その3



総務係からワタルは報酬である給与が手渡された。身が震えるほど心地の良い瞬間であった。

「ご苦労さん」とセレドニオから温かい笑顔とともに言葉がかけられた。「君の協力があり、安全かつ円滑に業務をこなすことができた。礼を言いたい。」


ワタルは謙虚に頭を下げながら「こちらこそ、お世話になりました。」と感謝の意を伝えた。


「この後、都合はどうだ?何か食事でも行こう。今夜は俺が奢ろうじゃないか!」とセレドニオは力強く言った。


ワタルは深く感謝し、お言葉に甘えることとした。


食事は資料館からほど近いレストランの個室で行われた。

彼が案内してくれたのは、繁華街の一画にあるこじんまりしたカジュアルなレストランだった。テーブルに着くと、ウェイターが注文をとりに来た。


セレドニオいわくこの店はサラダも肉も高級店にも匹敵する美味しさだとのことで、期待に胸が膨らむ。


「それで給料は何に使うつもりなんだ?」とセレドニオが気さくに尋ねた。ワタルは考え深く頷きながら答えた。


「何の力もない俺が仲間たちの役に立てるにはどうしたらいいのかなって考えているんです」


「ほほう」とセレドニオは興味深そうに目を見開いた。「君はもうじゅうぶんに、仲間たちの役に立ってるじゃないか」


ワタルは少し考えた。それから首を振った。

「違うんです。そんなことないんです。俺は力をつけないと。頼りきりじゃなくて、大切な仲間のために強くなりたいんです。」

セレドニオは考え深げに顎をさすった。


「君くらいの歳頃なら、そういうのは仕方のないことだがなぁ。自分が無力だと感じることは、成長の第一歩だ。でも、無力だと感じることこそ、力をつけるためのきっかけなんだ。」


ワタルはその言葉に深く頷いた。そして、レストランの雰囲気もあり、和やかに食事が進みました。セレドニオはワタルに内戦時代の話や、自分がどのように資料館で働くようになったかを語りはじめた。


「受傷者の救護が俺の仕事だったって言ったと思うが、命の灯火が消えるのも何度も見てきた。」


セレドニオは深いため息をつきながら、かつての信念に縛られていた自分を振り返った。


ある時、重症を負った獣人の周りに家族が心配そうな目で守っていた。彼らはセレドニオに助けを求めてきたが、当時のセレドニオは獣人を敵とみなし、拒絶してしまったのだ。


「そのときは戦争の最中で、心の余裕なんてなかったんだ。俺たちは敵対していた相手を、どうして手を差し伸べることができるんだ?って思っていた。助けたところで俺を欺くに決まっているとな」


セレドニオの表情は複雑で、当時の自分を悔いるような感情がにじんでいた。


「しかし、後になって気づいたんだ。彼らもただ生きているだけで、戦争の渦中で家族を守り、命を守ろうとしていた。そうして何かを乗り越え、共に生きようとしていた。」


「だから今は罪滅ぼしになると思っちゃいないが、二度とこのような悲劇を生み出さないために何が必要かって考えてな。資料館の職員として戦争の語り部になっているというわけさ」


ワタルは自分が彼の立場だったら、きっと同じ選択ができただろうかと考えた。

「話していただきありがとうございます」とまっすぐにセレドニオを見返した。


ひとしきり話した後、ワタルとセレドニオは食事を楽しむことに専念した。今度はパーティのみんなと食べに行こうとワタルは考えながら、レストランの美味しい料理と共に、二人は仕事や未来について語り合いました。セレドニオはワタルに対して、「君が仲間のために強くなりたいと思う気持ちは素晴らしい。パーティならば魔物と対峙することも今後あるだろう。ついてきてくれ。」


会計を済ませるとセレドニオには繁華街を進んでいきやがて足を止めた。


「ここは『古物屋 エルダーグッズ』って言ってなこのさき役に立つもんも見つかると思う。まぁそうじゃないのも結構ありそうだがな。」


ワタルにとっては以前一度ふらっと訪れた場所だ。


「あら、いらっしゃいしゃい。セレちゃんじゃないか!」店の扉が開かれ、老婆が気さくに話しかけてきた。


セレドニオはにっこりと笑って挨拶を交わす。「どうも、おばちゃん。相変わらず元気そうだね。」


老婆はセレドニオとの再会を喜んで、ワタルにも優しく微笑みかけました。「セレちゃんの友達かしら?どこかでお会いしたような気がするわ」


ワタルは名を名乗り、以前店の中を見に行ったことがある旨を伝えると思い出してもらえたようだった。


老婆は興味津々の目でワタルを見つめ、「ワタちゃんは何か欲しいものがあるのかしら?」


ワタルは考え込みながら、「はい。仲間たちとの冒険に役立つ何かがあればと思っています。」


老婆はにっこりと微笑みながら、「それなら、少し待っててくれるかしら?」と言って、奥のほうに消えていった。


そしてしばらく待った後、彼女は何やら両手で大事そうに包みを抱えて戻ってきた。

「さあ、これを持っていきなさいな。」

ワタルが包みを開けると、美しい彫刻の施されたブローチがでてきた。ワタルの目にはそのブローチから微かに聖なる力のようなものが漏れているような気がした。でもそれが何なのかは見当がつかない。

「これはね、身につけた人の身を守るお守りよ。大事に持っていなさい」

こんな上質な品物を貰うわけにはいかないとワタルが固辞すると、老婆は笑って、「いいのよ。セレちゃんが久しぶりに来てくれたし、何よりそのお友達に持っていてほしいのよ。」

「おばちゃんがそう言うなら遠慮なく貰っておきなよ。」とセレドニオが笑いながら言うのでワタルも恐縮しながらもブローチを貰うことにした。

ワタルとセレドニオは店先で別れることにし、ワタルは秘密基地へと帰ることとした。


ワタルが秘密基地に戻ると、仲間たちが興味津々の表情で彼を迎えた。スノーが先制して尋ねます。「ワタル、どうだった?」


ワタルは笑顔で答えます。「最終日もやりきったよ。給与もらって、セレドニオさんに連れてってもらったレストランで美味しいもの食べてきたよ。」


ワタルは得意げに話し始める。「実は、セレドニオさんの知り合いの古物屋で、これをもらっちゃいました!」と、手にした美しいブローチを見せると、一同が興味津々でそれを見つめます。


ハウンが近づいてブローチを手に取ります。「不思議な雰囲気ね。どんな力があるんのかしら?」


ワタルは老婆から聞いた話を伝えます。「おばちゃんによれば、これは身につけた人を守るお守りだそうだ。」


「なんか怪しいもんじゃねぇだろうなぁ」と軽口を叩きつつもファングが続けて言う。「でも、何かあった時に頼りになりそうだな。ありがたいな、ワタル。」


ワタルはファングの言葉に頷く。

「それとおばちゃんの店でお守りを買ってきたんだ。みんなに一つずつ。色違いなんだよ」


ワタルが手渡したお守りには、それぞれ異なる色と模様が施されていた。


「いつもありがとう。これからもよろしく。」照れ笑いながら、ワタルは仲間たちにお守りを手渡した。


「こちらこそありがとうな。これから高いレベルの依頼にもチャレンジしていかなきゃいけねぇからランニングだけじゃなくビシバシ鍛えてやるからな。」


ワタルの表情は引きつっていた。自ら参加したことであるが日課のランニングだけで体が堪えていたのだ。


「そうと決まれば特訓だね!」とスノーも何故か乗り気である。


仲間たちの意気込みに対して、ワタルは引き攣った笑顔で、ほんの少しだけ逃げ出したい気持ちになるのだった。


続く

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