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第二十話 サエナ王国へ


『「そうか。今後とも活躍を期待しているぞ」』ワタルはその言葉と情景を反芻していた。

ギルベルトのその時の表情には、何かを感じた。

あれはまるで……

ワタルは首を振り、ギルベルトのことを頭からかき消した。そして秘密基地までの道を急いだのだった。

秘密基地に帰ってくると、もう日が沈みかけていた。

ワタル達はそれぞれが得た情報を交換するために、テーブルを囲んで座った。

まずワタルが皆にギルベルトとの面会について伝えた。彼の勧誘を断ったことも付け加える。


「兵士団も一目置く存在になれたってことだね。」とスノーは嬉しそうに言った。

「何も妙なことが起こらなければ良いがな…」とファングは兵士団への不信感を露わにしている。


何故そこまで疑うのかワタルが尋ねると、彼は説明を始めた。

「そのギルベルトって奴はかつての内戦で、多くの獣人を殺して成り上がった男として有名だ。これまでは他国の目を気にして内戦で名を上げた者を兵士団長にすることはなかったんだが、半年前初めて兵士団長に推薦されたんだ。」


また彼は獣人族を毛嫌いしており、過去にも何度か獣人族に対して差別的な発言をしているという情報もあったという。


「まぁ、何もないのであればそれでいい。俺たちにこれから仕事が与えてもらえるって可能性もあるわけだからな。友好な関係を築けるならそれに越したことはない。」とファングは続けた。


確かにそうだ。

今下手に対立しても、何も良いことはない。

ワタルはそう思うと、ギルベルトへの警戒を解き、他の話題へと話を移した。

夕食を食べ終わるとワタルは自室でゆっくりしていた。


「ワタル…起きている?」とハウンがドアをノックしてきた。


ワタルはドアを開けてハウンを部屋に招き入れると、彼女は椅子に腰掛けた。

どうしたの?と尋ね返すと彼女は言った。

「貴方、前に魔法が使えるようになりたいって言っていたわよね。」

ワタルが頷くと、彼女は続けた。


「スノーは家に帰ってしまったし、ファングは寝ているみたいだから、また今度彼らには話すのだけれど、ここへ行ってみない?」ワタルがその場所を尋ねると、彼女は一枚の紙を取り出してきた。

地図だ。その一点が赤く印をつけられている。

隣国のサエナ王国の王都だ。

別名魔法都市。魔法の研究や開発に国をあげて力を入れている都市だ。


ワタルの心が躍った。

そしてサエナ王国はこの世界でも屈指の魔法技術を有しているという。是非とも行ってみたい場所だった。


話しによれば別荘を所有しており、

ハウンの姉が住んでいるという。

また、サエナ王国の王宮にも知り合いがいるらしく、そのツテで魔術学院へ短期合宿にも行けるらしく、彼女もかつてそこで回復魔法を取得したのだという。

ワタルは是非行ってみたいと思った。

彼はハウンの手を取って喜んだ。

ハウンもそんなワタルを見て微笑んだ。

出発は6日後の朝になった。ワタルとハクンは食料や防具、アイテムなど必要な物を買い込むために町へと出かけることにした。

出国手続きを済ませる。両国は陸続きにあり、友好国であるために移動も簡単な手続き一つで済んでしまう。


出発の日、ザインが馬車の運転を買って出ており、秘密基地の前まで迎えにきてくれた。



「久しぶりッス!」と彼は気さくに話しかけてきた。

こちらの都合で声をかけてしまい申し訳ないと伝えると、ザインは「ちょうど彼女がサエナに行ってみたいと言っていたし、丁度よかったッス」と返した。

馬車の中にはなんと、北の村の村長の娘のククリが乗っている。あの一件以来いつの間にか恋仲になったようだ。

ククリはワタルたちに丁寧な挨拶をした。

あの時、ザインはククリに一目惚れをしていたようで、村の復興を手伝う中で、お互いに惹かれあっていったのだという。

「いわゆるデートってやつなので、向こうについてからはお構いなく!皆さんの用事が終わるまで、俺らも二人でデートを楽しむんで」とザインは嬉しそうに言った。


それを聞いて、顔を赤らめるククリ。



サエナ王国までは1日半かかるという。

ワタル達は道中、ザインやククリの恋物語を聞きながら少々うんざりしながら、期間を過ごしたのだった。


道中、ハウンがサエナ王国がどんなところなのかを教えてくれた。


サエナ王国は魔法の研究や開発に力を注ぐことで、様々な分野において進歩をとげている。

中でも魔法技術に関しては世界でも屈指のレベルだという。

ハウンの姉は回復魔法を専門とした研究者で、この国では有名な存在だという。そして王都にある別荘にはその姉の研究室があり、そこで研究をしているそうだ。


王国は近年では観光にも注力しており、特に王都は様々な分野の店が軒を連ねており、また名所も充実しているそうだ。

ワタルは好奇心を刺激され、早くサエナ王国へ着かないかなと待ちわびるのであった。


ファングは機嫌が良かったのか「旅といえばこれだろ?」と得意であるという楽器を馬車の中で披露してくれた。


美しい弦楽器の音が響いていく。


スノーは最初は興味津々で耳を傾けていたり、合わせて歌ったりしていたが、途中からはうとうとと眠ってしまった。

ワタルも眠ろうとするが、ザインが惚気話を聞けとばかりに馬を操りながらちょっかいを出してくるので中々眠れず、しばらくの間、彼の自慢話をずっと聞かされる羽目になってしまった。


国境付近に差し掛かると関所のようなものが見えてきた。

衛兵に出入国届けを見せると即座に倒してくれた。


そして暫くは草原の中の街道を進んでいくと、日が暮れてきたので野宿をすることになった。


馬達はザインが馬車から外して、水と餌をやり世話を焼いている。

非常に優秀な馬で、繋ぎ止めておかなくとも逃げたりはしないのだそうだ。


あらかじめ用意していた食材で、ファングが夕食を作ってくれることになった。

スノーは手伝おうとしたが、ファングは一人で作るのが好きらしく、丁重に断っていた。

そして出来上がった料理はどれも非常に美味しいものだった。

ワタルたちは舌鼓を打ちながら、ファングにお礼を言った。


そして食事を終えた後、ザインとククリの二人は馬車の中で仲良く眠り始めたのだった。

ファングが火の番と見張りを買って出てくれたので、ワタル達は先に眠ることにした。

皆それぞれのテントの中で深い眠りについたのだった。

翌朝、テントを片づけた後はファングの馬車に積んであった水と食料を補充し、出発した。


サエナ王国への道のりは順調で、特に魔物や盗賊団などと遭遇することもなく順調に進んでいった。


1日目の野宿を経て2日目の昼にはサエナ王国の王都へと到着した。

王都は活気に満ちており、広場では大道芸人がジャグリングをしながら観客を沸かせている。

飲食店や商業施設が並び、人々が楽しそうに談笑していた。

馬車で王都の大通りを進んでいくと魔法学院が見えてきた。とても立派な石造りの門と尖塔があり、庭が広がっている。

ハウンに尋ねてみると、彼女いわく王都にある有名な建築物の中では最高峰だという。


ザインとはここで解散し、ワタル達は学院へと入っていった。

門の前には衛兵がおり、ハウンがその者に事情を話すとすぐに通してくれた。

門を潜るとそこには広い庭園が広がっていた。

噴水や色とりどりの花々があり、とても美しい光景だ。

庭の先には校舎らしき建物がある。

そして校舎の入り口には一人の女性が立っているのが見えた。

その女性はこちらに気がつくと、手を振りながら近づいてきたのだった。

ハウンに良く似た面影を持つ女性だった。ハウンがその女性を"姉さん"と呼ぶと、女性はワタルとファングに自己紹介をしてきた。

彼女はハウンの姉のアイリというらしい。

スノーは何度か面識があるようでぎゅっと抱きついて、久しぶりの再会を楽しんでいた。


「ゆっくりお話しをしていたいところだけれど、少し立て込んでいてね。鍵を渡しておくから観光していらっしゃいよ。夜までには戻るわ」

そう言ってアイリはハウンに鍵を渡して、小走りで去って行ってしまった。


せっかくなので街をハウンに案内してもらうこととする。


ラグドと比べて街を歩いている獣人を見かけることも多く、かれらに嫌悪感を持つような人も少ないのかもしれない。


露店には獣人が店主を勤めていることもあり、かなり人通りも賑わい活気に満ちている。


街を少し歩けば潮の匂いが漂ってくる。どうやら海に面しているようだ。


この世界に来てから海を見るのは初めてだった。

港には船が停泊しており、海賊などが存在しているらしい危険な船旅を乗り越えて異国へと渡っていく商団がいれば、平和を享受して塩漬けにされている船が積荷を運ぶ様子が見られる。


その側の魚市場はこの国の主力な観光資源の一つらしい。魔法都市と呼ばれるサエナだが、力仕事の方を得意とする者の中で漁師は憧れの職業らしい。


露店では魚や貝を焼いているところがあり、その焼いたものが香ばしい匂いを放っている。ワタルは思わずバターがたっぷりと乗った焼き魚の露店に引き寄せられてしまった。


「お兄さんたち観光に来たのかい?

ほれ、新鮮なのが焼けているよ!」

店主に勧められるがまま焼き魚を買ってしまうワタル。

3人と分け合って食べ始めると、ものの数秒で食べきってしまった。

ソースが少し辛くて味が濃いめだったが、バターの香りがとてもマッチしており美味しかった。

異国の味を堪能し、幸せに包まれた気分になるワタルであった。


その間、店主はこの国の漁業事情について話してくれた。

最近では、遠洋に海賊が横行するようになり、それに対応する各国の警備強化の影響で、漁獲量は減少の傾向にあるらしく、どこの国も頭を抱えているのだとか。


各地で様々な支援策が講じられてはいるが、今だ解決策は見つかっていないのだという。


俺に魔法が使えれば海賊なんてなぁ…

などと愚痴をこぼす店主。


サエナの防衛力は高く、敵が攻めてくることはないそうだが、他国では海賊による誘拐や侵略・侵攻なども頻繁に発生しており、国を守る為には優秀な人材の育成も不可欠であるという。

なるほどなぁ……と考えさせられる店主の言葉だった。


いつの日かより力をつければそういった依頼も舞い込んでくるのであろうか。

ワタルはそんなことを考えなら歩き続けていた。

街の名物や観光名所を幾つか教えてもらったが、一番ワタルの興味を惹いたのは闘技場である。魔術学院の学生のみで行われる伝統的な催しなのだという。ルールは非常にシンプルで、相手を場外に出すか降参させるかの二択となっているようだ。

時にバトルロワイヤルのような形で誰が勝利するかを予想する賭けも行われているらしい。


ハウンがその話を聞いて、少し興味を持ったような素振りを見せた。

そして一行は闘技場へと向かうことになった。

サエナ王国の魔法都市・魔術学院の敷地内には闘技場がある。

そこでは今、学生同士のバトルロワイヤルが行われている真っ最中であった。ワタル達は観客席からその様子を眺めていた。


1人は獣人の少女。ポニーテールにされた黒い髪が腰元まで伸びている。動きやすそうな格好をしており、長い耳が特徴的だ。

魔法杖を手にした少女の目の前には1人の青年。

水色の髪をしており、とても端正な顔立ちをしているが鋭い眼光からは近寄り難い雰囲気を発している。他2名もいたがすでに降参いるようだった。


観客の中には魔法学生に憧れている者も多く、15歳の若さでこの場所まで辿り着いたという彼女に対して割れんばかりの声援を送っている者もいる。彼女の一挙手一投足に注目が集まっていることがわかる。


少女は走りだし、先手必勝と言わんばかりに魔法を繰り出す。空気中から出現した砂の刃が次々と青年に向かって襲い掛かっていく。青年はとっさに両腕に魔力を込め盾代わりにして守るも防ぎきれず切り傷を負ってしまったようだ。

苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべている。


だが、そんな彼の必死の攻撃も虚しく勝負は着いた。少女の渾身の魔法によって青年の足下に出現した魔法陣が光り出したかと思うと砂塵を吹き荒らして……あっという間に彼を場外に出してしまった…かに思われた。


青年は水の魔法を地面に叩きつけるように放つと、あっという間にステージに復帰をしてきた。


大歓声が上がる。


両者の魔法がぶつかり合い、息を荒くしている。砂煙を吸い込んでしまったのか大きく咳き込む青年。


これが少女の狙いだった。一気に畳みかけようと接近する。

青年も何とか攻撃を凌ごうと水の盾を作り彼女を寄せ付けない。

激しい攻撃に巨大な盾は強度を失い、大量の水となって両者に降り注いだのだった。


すると見るからに少女の動きが鈍くなる。水が彼女の周りに溜まり、動きを制約している。必死に水を振り払っている。


どうしたのだろうか。急に人が変わったようである。


勢いを取り戻そうとする少女。しかし、水の攻撃には抵抗できず、その影響で砂の魔法も不安定になっていく。青年はこれを見逃さず、再び攻撃に移るとすんでのところで技を止めた。


彼女は膝をついて降参を宣言したのである。割れんばかりの拍手喝采がバトルロワイヤルの勝者に送られる。


観客は彼女を讃えている。凄い戦いだった……将来有望だ、今日はおめでとうなどという言葉が次々と彼に投げかけられる。次々と握手を求める客が彼の元へとやってきたが青年は疲れた様子で軽くいなすと闘技場を後にした。


あまりの戦闘の激しさにワタルは息を飲んでいた。



続く


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