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第十七話 北の村へ

秘密基地に帰って来た彼らにいつもの日常が戻って来た。

今後実行する依頼を検討することとした。「さてと、次の依頼はどうしようか?」

ファングは全員を見渡して訊ねる。皆もそれぞれ考え込んでいるようだ。

ワタルが手を挙げるとファングは目線で発言を促す。ワタルは自分の意見を率直に述べた。


「北にある小さい村が何者かに占拠されてしまったらしいので、その村の解放という依頼を受けてみようと思うんだけど」

1人を除いてワタルの提案に賛成してくれた。特にスノーは目を輝かせて嬉しそうだ。

「なるほど。でもその村は辺境に位置していて歩いて行くには相当覚悟が必要よ。一日歩いても着くか怪しいわ」

とハウン。


「なら乗り物を借りられないかな?どっかで。」とワタルが話すと「そのどっかってあてがあるのか?」とファングが首を傾げていた。


どうしよう…ない。


「俺は徒歩で行ってもいいけど?」とファングが苦笑いしながらワタルの肩に手を置いてくる。

どうしよう……。


しばらく沈黙が続いた後、ハウンが何かを思いついたようだ。「そういえば、ここから北にある森に『風の里』って呼ばれてる村があるらしいわ。その村の村長が私のお父さんと知り合いで前に馬車を貸してくれたの」と教えてくれたのだ。


ファングはそれを聞いて大喜びしていた。ワタルも目を輝かせていた。


一向は3日後に出発することとした。その間にハウンは父親に頼んで風の里へ連絡してもらうらしい。



「その間に私は魔法の特訓をするね」とスノーは最大限の氷塊魔法を放ってみせた。

すると案の定体力がなくなってしまったようで座り込んでしまう。


「いきなり強いのを撃ったら長期戦になったらまたないんじゃないか」とワタルが忠告すると、「確かにそうだね」とスノーは納得した。

その後しばらく休憩してから2人で特訓を始めることにした。


「前に買った魔法の本に書いてあったんだけど、こんな風に弱い魔法を沢山撃つことってできない?」とワタルが尋ねる。


「うん、やって見るね」とスノーは指をピストルのようにたてて、大木を狙って撃ち放った。


小さな氷の礫が生成され、飛んでいく。


「あっ、出来た!こんな感じで連射も!」

「おぉ、凄いじゃないか」とワタルは拍手する。

「でもこれだと強い魔物とかには通用しないかも……コントロールがいまいちかな」とスノーは少し残念そうにしていた。


「でも、体力はほとんど使ってないみたいだし、威力と精度の両立も特訓すれば使い物になるかもしれない」とワタルは励ます。

「うん、そうだね!」とスノーは笑顔で応えた。


「よし、動いているものに当ててみよう!標的は俺だ」とワタルは剣を構えた。


えっ?とスノーは驚いていたが、すぐに笑顔になって「うん!」と元気よく返事をした。

ワタルの特訓が始まった。

「よし、いつでも来い」とワタルが言うと、スノーは集中して指先に力を込めた。

そして放たれた氷の礫は一直線にワタルに向かって飛んでいった! しかし……的を大きく外し地面に着弾する。

「あれ?」と不思議そうに首を傾げている。どうやら意図して外れたようだ。

その後も何度か試したがやはり当たらない。まるで何かに妨害されているようだった。


「やっぱり無理だよ…ワタルに当てるなんて」とスノーは落ち込んでいる。


なんとかしてやりたいと思ったワタルは「じゃあ、俺が絶対避けるからそれを狙うのはどうだ?もし当てることが出来たら街で甘いものをご馳走しよう。」と提案する。」とスノーは目を輝かせて喜んだ。

「よし、じゃあいくぞ!」とワタルが言うと、スノーは構えて指先に力を込めた。

そしてワタルに向かって氷の礫が放たれた。それをなんとか回避する。


それから等間隔で次々に放たれる礫を避けたり、剣で弾いたりする。

「そうそう、そんな感じだ」とワタルが言うと、スノーも自信が付いてきたようだった。

しかし……次の瞬間ワタルに礫が直撃したのだった。

「痛っ!」と思わず声を上げると、スノーは焦って駆け寄ってくる。

「ごめん!大丈夫?」心配そうにオロオロとしているスノーに対してワタルは言う。

「大丈夫大丈夫!このくらい全然平気だよ!」と笑顔を見せた。

それから特訓を続けていったところ、みるみる精度が上がっていくのだった。10発中8発はワタルに命中するようになったのだ。

「やったよ!ワタル!」とスノーはとても喜んでいた。


「頑張ったね」とワタルも褒めた。



その後、しばらく休憩してから2人は特訓を再開した。そして日が暮れるまで続けたのだった。

次の日からも3日間は魔法の特訓に時間を費やした。

ワタルにとっても良い特訓になった。

ファングが依頼の馬車を借りられたので出発の日となったのだ。


3日後……一行は風の里へと向かっていた。道中はハウンが御者を務めてくれているためのんびりとした旅路であった。

スノーが作ってくれたお弁当を食べながら和やかな時間が過ぎていく。

「このお弁当美味しいね!」とワタルが褒めると、スノーは嬉しそうにしていた。

「ありがとう。当然だよ。」と得意気だった。「そういえば、風の里ってどんなところなの?」とワタルが尋ねると、ハウンは答えてくれた。


「小さい頃に連れて行ってもらったきりだけれど、とても素敵なところよ。自然が豊かで空気が澄んでいて、美味しい食べ物も沢山あるわ」

「それは楽しみだな!」とワタルは期待に胸を膨らませた。

そんな会話をしていると馬車は森を抜けて開けた場所に出た。そして目の前に広がる光景を見て皆驚いたのだった。

そこには美しい川が流れており、その両側には色とりどりの花が咲き乱れていた。そしてその中央には大きな風車が幾つも建っているのが見えたのだ!その光景はまるで絵画のような美しさだった。


村役場の場所はすぐにわかった。

窓口の職員に村長のところまで案内してもらった。

「こんにちは、風の里へようこそ」と出迎えてくれた女性は優しい笑顔で歓迎してくれた。


「村長さんはいらっしゃいますか?」とワタルが尋ねると、女性は笑顔で答えた。

「はい、こちらです」と言って案内してくれる。

大きな屋敷の中に入ると一人の老人が立っていた。その老人は杖をついており、足が悪いようだった。

「おお!ハウンちゃんじゃないか!久しいな!」とその老人は喜びの声を上げた。


「お父さんから聞いているよ…獣人になったのも本当だったんだね。その力を人助けに使おうとは立派なものよ。」と村長は優しく語りかけた。

「ありがとうございます」とハウンが応える。

「この度はお騒がせして申し訳ありません。」

「いやいや、気にしなくて良いんだよ。ところでそちらの方々は?」と村長がワタル達の方を向くとハウンが紹介してくれた。

「彼らは私の仲間で一緒に冒険をしているんです」と言うと、村長も自己紹介をしてくれた。

「私はこの村の村長を務めている者です。よろしくお願いいたしますね」と言って手を差し出してきたため、ワタル達は順番に握手を交わしたのだった。

その後、一行は客間へと通された。

「馬車の用意を進めておくので、お茶でも飲んで待っていてくださいな」と村長は言い残し、部屋を出て行った。

「素敵な人だね」とスノーが言うとハウンも笑顔で頷いた。

しばらく待っていると、村長が戻ってきて馬車の準備が整ったことを告げたので、一行は出発するのだった。


「うちの村の優秀な若者が操縦しておりますので、安心して乗っていてくださいね」と村長が紹介してくれた。

「ありがとうございます」とワタル達はお礼を言った。

そして馬車に乗り込むと一行は出発したのだった。


「ここから北の村ッスよね。」と御者の若者が尋ねる。


「はい、そうです。よろしくお願いしますね」とワタルが答えると、彼は笑顔で応えてくれた。

そして馬車は進んでいくのだった。

しばらく進むと景色の美しい場所に出た。一面に広がる花畑だ!色とりどりの花々が咲き乱れており、とても綺麗だった。


「その北の村ってのはどんなところなんだ?」とハウンにファングが訊ねると若者が答えてくれた。

「北の村は農業が盛んで、美味しい野菜や果物がたくさん採れるらしいっすけどね。如何せん、排他的な村なんで本来近寄りがたいというか…」と若者が言うと、ワタルが不思議そうに「排他的?」と聞き返した。

すると、若者は説明してくれた。

「そうっす!あの村では獣人やよそ者に対して差別的な考えを持っているんすよ。手紙の配達員ですら仕事を済ませたらすぐに追い返すらしいし…すぐに石を投げてくるとか…」と憤っている様子だったので、ハウンがなだめるように言った。


「大丈夫ですよ。私たちはただ依頼で来ただけですから……」と言うと若者も落ち着きを取り戻したようだった。


「そんな村を救おうだなんて物好きもいいとこっすよ。お嬢さんたちも気をつけてくださいね」と若者が言い残し、再び馬車を進めていく。


それが事実なのであればよそに依頼を出すということは相当な事態が起こっているのだろう。


ぽつんと見えてくる村に覚悟を決めるのであった。



続く

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