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第十話 後悔 

振り返ることすらせず、ワタルは懸命に走った。坂を越えて、人混みを縫い、見当たる路地は全て曲がった。

資料館の仕事で街へ出向くことが多かったので自然と土地勘は身についていた。それが功を奏してスノーから逃げることができた。


自分がどんな気分であろうとこの街の賑わいは変わらない。安心すら感じた。


対して荷物も持たずに飛び出してしまった。

明日の資料館での業務まで時間を潰さなくてはならない。今夜は格安の宿を利用することとした。


共同のシャワー室はあるものの、部屋は寝具一つ分のスペースしかない。ただ寝るためだけの場所。大金を持ち合わせていない彼にとっては好都合であった。


シャワーの湯が傷口を撫でる。ヒリヒリとして痛い。ファングから掴みかかられた時に出来たものだ。そんな肌の痛みよりも今は心が痛かった。


怒りに任せてファングやスノーを傷つけるようなことを言ってしまった。寝ていたことだって笑い話に済ませることだって今思えば出来るはずだった。


とは言え、改めて謝罪に戻ることもワタルには出来なかった。パーティのメンバーは俺でなくとも良い。確かにそうだ。必要とされないのであれば戻るべきではないと感じていた。

無力な自分が嫌になる。

自分で自分を養っていかなくてはあの子を助けるどころではない。新たに仕事を増やすため、翌日ギルドへ寄ってから資料館へ行くこととした。


翌朝、いつもの癖でまだ薄暗いうちに目が覚めてしまった。ギルドが開くまでにもまだまだ時間がある。早々にチェックアウトを済ませた。本日の警備業務は宿直のため、宿代わりになる。今の彼にはこの上なくありがたい。


朝露がまだ街を包んでいる中、朝まで酒を飲んでいたのか顔色悪そうに歩く何人かがいるだけで、あたりは鎮まりかえっていた。


この静けさが彼の焦燥と後悔を駆り立てる。

あえて遠回りをして目的地に向かったが開場までまだまだ時間がある。

途方に暮れて佇んでいると、扉が開き、中へ案内された。どうやら気を使わせてしまったらしい。ワタルは深々を頭を下げた。


依頼を受ける旨を受付に伝えると、酒場での調理補助や提供、武器屋での接客等Eランクではあるが様々な依頼が掲載されていた。


酒場は夜間帯のため報酬も高く、武器はこの先の冒険に必要になると考え、良い経験になると思った。その二つの業務を実行することとした。


宿直業務は昼過ぎから始まるため、安価な食事で朝食と昼食を済ませ、職場へと向かう。


すでに朝から出勤していたセレドニオと挨拶を交わした。


時に来館者から展示の内容について説明を求められるが、ワタルは明るく応対し、自身の知識を駆使して質問に答えた。獣人への誤った認識をさせてしまわぬよう意識しながら。その一方で、心の奥底にはファングとの別れやスノーとの葛藤が影を落としている。


いつも通り閉館まで業務を進め、施錠や最終点検まで完了し、警備員の控え室へ向かうとセレドニオがまだ残っていた。


「お疲れ様です。」そう声をかけると、「お前何かあったのか?いつもと様子が違うぞ」と真剣な眼差しで問いかけられる。突然のことに戸惑ってしまったが、ワタルはとっさに平常を装う。

先輩にはお見通しだったのだろうか。

「ご心配ありがとうございます。今日はいつにも増してお客様対応が多かったので。疲れたかなって思います。」


セレドニオはしばらくワタルの様子を見つめた後、頷いた。「なるほど。お前も大変だな。何かあったら言うんだぞ。仕事のことじゃなくても良いからな。」


そう言ってコーヒーを淹れてくれた。

ワタルはホッとしてありがたく頂戴した。

良い先輩だ、つくづく人に恵みれている。だからこそ心配をかけてしまうのが心苦しかった。

セレドニオは仕事が一段落したようで、明日また出勤するという。

夜勤の警備員が来たらワタルは眠ることができる。

宿直室へ戻り、メモに今日一日の出来事を書き出していく。そして、これからのことについて思案する。


休みなく働き、衣食住を満たさなければならない。明日夜からあくる朝まで酒場での仕事なので、体力勝負だ。

宿直室で簡単に食事を済ませた。


続く

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