格子
「好きだよ……」
スマホ越しに幾度となく聴く告白の声。君の声は霞んでいてほんのりとレモンの香りを漂わせる。
「僕も」
そう答えた時にはもう既に画面は真っ暗だった。黄昏時に響くのはただ子供のような無邪気な声だけだった。
「あぁ〜、やっと家に帰れる」
ふらつく視界さえも気にすることなく、歩を進める。心身ともに日々の仕事で限界を迎えていた。3日ぶりに舞い戻る我が家は至高の幸福だった。
俺は彼女のことが大好きだ。それはとても。彼女のためだったらなんだってするだろう。そんな彼女が今日はうちで待っている。そのことだけで、あとに二、三徹は行けるだろう。
コツコツコツと1歩ずつ降りていく。緩みきった顔をドアを開ける前に引き締める。1つまた1つと鍵を開ける。
ガチャ──ドアを開くとそこには君がいた。
「おかえり」
「ただいま」
ただ、君を見つめていた。1枚のガラスを挟んで。
「ごめんね、3日も放置しちゃって」
ガラスに手を滑らせる。僕が見る君の世界は自分の息で白く曇っていく。
「大丈夫だよ。だって愛してるから」
ただただ響くその声に、僕の心が揺さぶられる。
『ドンッ』
ガラスにヒビが入る
「あぁ、なんて君は完璧なんだ。愛おしい、そして僕に怒りを彷彿させるッ」
「いいんだよ、怒っても」君は黄色に弾ける。
「あぁ、そうだよ。美しい花ほど散らしたい。そうしてもう一度僕の体から生えてきてくれないか」
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