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贖罪  作者: 北村 達也
8/320

贖罪8

 それから彼らは話をしたが、彼が緊張してうまく喋れなかったので、靴の話をすれば緊張がほぐれるかもしれないと彼女は思ったので、『靴がすごくきれいね。』と言ってみると、効果てきめんで、彼は大いに喜んで靴のことをすらすらと話し始めた。


 彼女は適宜うなずいて笑顔で聞いた。


 緊張をほぐすべく相手の興味のあることを探してそれを話題にすることは、本来なら男性である彼が女性をエスコートするように会話でもそれを実行するべきだったが、彼は内向的で人との接点をあまり持ってこなかったために、そのあたりが疎かになっていた。


 それからの彼は程よく緊張が解けて、彼女との会話は弾んだ。


 すっかり有頂天になっていた彼は何を話したかよく覚えていなかった。


 覚えているのは彼女が最近町に引っ越してきたこと、花が大好きだということ、糸つむぎの仕事をしていることなどだった。


 話に夢中になってしまって気づくと日は落ち始めていた。


 快活だった彼女がどことなく憂いを帯びた顔をしたのを彼は心配になった。


「もう、遅くなってしまったわね…。今日はすごく楽しかったわ。またお会いしましょう。あら、私ったら、名前をまだ言ってなかったわね。嫌だわ。」


 そう言って彼女は右手を差し出して言った。


「私、フォス。」


 そう言って最後の力を振り絞るように、彼女は最高の笑顔を見せた。


 彼女の後ろには西に落ちそうな太陽があって、彼を見ていた。


 どちらが美しいかを彼女と太陽は争っているようだった。


 彼女に会うまでの彼だったら空に浮かぶ太陽を選んだだろうが、彼女を知った今となっては地上の太陽である彼女しか彼の頭になかった。


 差しだされた手はまるで太陽への架け橋のようだった。


 彼の後ろには住み慣れた家があって、橋を渡れば彼の本当の家がある、そんな気がした。


 彼は躊躇することはなく、後ろを振り返らず真っすぐに駆け出した。


「僕はストローフィー。」


 そう言って彼女の手を取り、二人は握手を交わした。

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